いつの間にか悪の組織の幹部になっていた件

アジぺんぎん

世界が嫌い

プロローグ


 ボクという存在がいつから形作られたのかは、疑問が尽きない。


 生まれた瞬間からこうだったのか、生まれ落ちてからこうなったのか、はたまた、生まれる前からこうなると決まっていたのか。

 そういう運命があったのか、偶然か、誰かが創り上げた渦の中に居るのか。

 そういうくだらない事を、何百年か考えてきた。

 ずっと、自分の存在に不信を感じていたのさ。

 出来すぎた人生、出来すぎたイベント、出来すぎた結末。

 劇的でありながら、喜劇的でありながら、悲劇的でありながら、けれどもとてもつまらない。

 長らく、永らくぬるま湯に浸かってきた気分。

 周りは当然のように人生を満喫しているというのに、ボクだけは取り残されている。


 自分が、世界から弾かれた感覚。

 いや、世界というより社会かな?

 外れているという違和感を覚えながら、ずっと生きてきた。

 

 言うなれば、ゲーム感覚ってやつ。

 周りは自分の人生を自分のものとして認識し、それが虚構かもしれないなんて微塵も考えない。

 でも、ボクは違うんだ。

 ずっと、これは画面の中の出来事で、どこかでコントローラーを握った誰かが居る気がしてならない。

 夢も、希望も、恋も、愛も、優しさも、志も、思想もない。そんなものは、虚無感に全部塗り潰されて、塗り硬められる。


 異世界への転生なんて、そんなもんだよ。

 本当に物語の中みたいな、剣と魔法のファンタジー。今は女の体だけれども、前世はきっと恐らく多分、普通の青年だったはず。

 そこに生まれ落ちてしまった存在として、ボクは力を手に入れた。

 男の子らしく、はしゃいだりもした。

 でも、だから何って話さ。

 誰もが小説の主人公みたいに輝ける訳じゃない。適応出来る訳じゃない。

 ボクの結末は、今のボクだ。

 実際に起きてみると、ボクみたく、ただ腐り続ける人間の方が多いんじゃあないかなあ?

 ホント、くだらない。

 せっかくの二度目の人生、そんな問答を繰り返すだけさ。

 

 つまらない。

 くだらない。

 出来すぎていて、おかしい。


 魂というものがあって、記憶や性質を引き継いで転生するとして、何故ボクなのか?

 他の誰かでもなく、何故、特別でも何でもないボクなのか?


 そりゃあ、この世界に生まれついて、十五、六年くらいは満喫したさ。

 喜劇も悲劇も一緒くた、笑いあれば涙ありの大長編&大冒険のスペクタクルもやった。

 でも、良い物語にも途端に影が差すもんでね。

 出来すぎた世界を見て、ボクはすぐに萎えてしまった。

 都合が良すぎるこの世界を、ボクは簡単に見限ってしまった。

 どんなことを成し遂げても、思うのさ。


『こんな都合が良いことはあり得ない』ってね?


 ただの燃え尽き症候群だったら良かったよ。

 やることがないから、苦しんでるだけなら。

 でも、やっぱり違ったさ。


 百年も生きていると、何をしても、何も感じなくなっていたんだよ。

 この世界は都合が良すぎる。

 この世界はつまらない。

 そういうことばかり、考えるようになった。


 惰性で生きてきたよ。

 何百年も、ずっと、ずっと。


 でも、ただ生きているだけ、とは表現出来ない。

 確かに何もしなければ、ボクはただ生きているだけの、路傍の石と変わらない。

 しかし、まあ、ボクは色々とやらかした。

 何百年も生きてるからね。

 ゲームや小説のネームドキャラみたいに、本当に色々やったよ。

 いわゆる、罪と認識されることも多くね。

 大罪人であるにも関わらず、ボクはそのことを悪いとは思えない。

 無感動で、無機質で、無価値で。

 罪の味すらも、ボクにとっては無味だった。

 ただ生きているだけよりタチが悪いね。


 そういう気持ち悪さを拭えず、ただ惰性で生きている自分。

 自己嫌悪と虚無感の中で、じっと耐え続けているだけの自分。

 そんな中身のない生き方は、とてつもなく、暇なんだ。

 

 だから、疑問で埋め尽くす。

 自分の生まれてきた意味だとか、自分が為すべきことだとか。

 答えが出ない問答を、何百年も。

 疑問が尽きないのは、尽きないように自分で編集してるから。

 そうしないと、ただ、辛い。


 

 随分と遠くて長い、哲学チックなことを考えてしまったけれど、これがボクの性質だ。

 ここまでちょっと長すぎたから簡単に、三行で纏めるね。 


 ボクは人生に飽きている。

 虚無感に苛まれている。

 現実はいつだって劇的で胡散臭い。


 はい、これで終わり。

 長々と語ったけれども、ボクはこれだけのことだけを胸に秘めてる。

 これがボクの全部だと思ってもいい。

 何のために生きているのか?

 人より長い寿命を与えられてもなお、分からない。



「我々の目的は、遠く、困難な道のりです」



 普段から、ボクは悩むことしかしていない。

 フラフラと彷徨い、現実とは違う場所を見ていたいと望む。

 現実逃避は、しばらく黙ってたらもう自然としちゃうくらいに当たり前のこと。

 耳を塞ぐことは簡単で、目を瞑ることはもっと簡単。

 もうソレは、無いものとして簡単に扱える。

 ボクの、人一倍長い人生を乗り越えるための処世術ってわけ。

 情けないなんて言わないで。

 ボクも色々悩みながら生きてるんでね。



「この世に立ちはだかる五つの『壁』。遠く、分厚く、高い『壁』の、その尽くを破壊しましょう」



 昔からさあ、そんなモンだわ。

 流されるままに流される。考え事をしている内に、変なところに行き着く。

 水は高いところから低いところに流れるのが道理。そして、ボクはそれに運ばれる木の枝みたいなもの。

 ボクがそうした流れに流されて、行動に移すのは仕方がないこと。

 そういうシナリオだったってことだ。

 ボクは運命に従って、無感動に行動する。

 事故っていうか、災害みたいなものだよね。

 ボクが動くことで多少の影響は免れない。場合によっては人死も出る。でもまあ、やらない理由がどこにも無いからなあ。



「世界の敵となりましょう。世界に今こそ、歯向かいましょう」 



 ボク的には基本、この世界の全てがゲームの中みたいなもの。

 どうなろうが、どうなってもいい。

 ゼロとイチによって創られた、システムと変わらん。

 全部が全部、どうでもいい。

 ビックリするくらい、ボクはこの世界の人間に興味が湧かない。

 そう思いたくなくとも、ボクは世界をそういうものだと捉えてしまっている。

 この認識は、多分もう一生拭えない。

 


「軍も、国も、問題にもならない。我々が相手取るのは、世界そのものです」



 うん、ホントにどうでもいいんだ。

 誰が何をしようと、ボクに何をさせようが。

 だから、ね? ホント、マジでさ、ほら?



「皆、世界を敵に回す覚悟は?」



 ボクも、娯楽は一通り体験してきた。

 一番好きなのはゲームだけど、その次に漫画やラノベを浴びるくらいに享受した。

 あー、話いきなり変わりすぎ?

 あはは、まあ、何ていうか、ね?

 状況がさ、ほらさ。

 あ、ヤバいわ。顔引きつらないようにしなくちゃいけない。

 現実を見ちゃいけない。


 …………

 

 まあ、また話は戻すけど、ボクはこの世のあらゆる出来事がどうでも良い。

 全部が何かに仕組まれて、全部が何かに操られてる。

 そう思うと、感動とか怒りとか、恨みとか喜びとか、全部どうでも良くならない?

 無駄なもんは無駄。仕方がないものは仕方がない。

 何でも感でも、全部が無味無臭。出来事が全部、色褪せて見える。


 ボクは、ロクデナシだ。

 他の皆はきっと、懸命に生きてるんだろう。

 でもボクは、何事も裏があると思ってしまう。懸命に生きる彼らをくだらないと思ってしまう。彼らを自然と下に見て、軽蔑してしまう。

 ボクは下手に力があるから、行動したらその分だけうねりを生んでしまう。懸命に生きているだけの彼らを、いわばそこにあるだけの芽を踏み潰してしまう。

 ボクが神なら、こんな奴は生まれさせない。

 ホント、何の目的もないんだから、始末に負えない。


 でも、それでもプライドってもんがある。

 思想はなくても、理想はなくとも。



「第五使徒『聖王』、異論ございません」



 ボクはただの破壊者じゃあ、ない。

 誰かのためへに犯す罪ならば、きっとそこには意志が宿るのだろう。

 まあ、何も感じないボクより、ボクを操るソイツに託す方が良い。ボクがボク自身の力を使うより、それは遥かにマシってことさ。

 コレがボクの為すべきこと。

 そう思いたい。そうすべきだと感じたい。


 うん、だからこんな奴は見えない。

 真っ白な神官服に身を包んだ、糸目で胡散臭そうな優男なんて居ない。

 ボクはこんな奴は知らない。

 


「第四、使徒『無間』、異論は、ない」



 生きるのは難しいね。

 ボクも、何の気兼ねもなく自由に生きてみたいもんさ。

 今は忙しくて仕方がないけど、せめて来世くらいにはそう在りたい。

 まあ、地獄に堕ちるかもしれんが。

 ううん、ていうか、地獄なんて今の延長か。  

 誰かが用意した箱庭の中で、ソイツの思い通りに動くだけのこと。

 何にも変わらないなあ。

 ボクの捻くれて腐った性根は、どこに行っても変わらないってことか……


 うん、だから見えない。

 ちゃんと見ないようにしてるからね。


 古臭くて真っ黒で、ボロボロのローブを纏った、ロクに顔も見えない不審者なんて見えない。

 こんな奴は知らない。

 


「第三使徒『回帰』、異論ねぇぜ」



 いやあ、もう話すことも無くなってきたな。

 ボクの最強のスキル、現実逃避もここいらが限界か。

 あー、楽しいことでも考えてようかな?

 あ、楽しいことなんて無かったわ。無味無臭、現実感の無いクソみたいな現実しか体験してないわ。

 じゃあ、ボクの前世のことでも徒然に思い出してみようかな?

 あ、もうほとんど覚えてねぇわ。もう風化しまくって塵になって久しい記憶にどう縋れっての。


 あー、見えないぞ!

 顔の右半分が機械で構成された、明らかに気性の荒そうな赤髪の男なんて見えない!



「第二使徒『霊君』、教主様の御心のままに」



 てか、この『どこでもない』空間、マジで気味悪いなよなあ。

 何ていうか、いや、何ていうかとか曖昧に言わんでも、不自然すぎて鳥肌が止まらん。

 あ、あと今までずっと無視してたけど、この円卓、高そうだよなあ。

 どこで買ったんだろ? 

 教主の私物か? まあ、アイツの趣味っぽいし。


 うん、ボクは今、他を見てるんだ。

 視線を逸らしているんだ。

 だから、ボクは見えていないぞ。

 半透明で、真っ白なヴェールを被ってる、深窓の令嬢然とした女なんて見えない。

 居てたまるか、こんな世界の法則に背いた矛盾そのものみたいな存在!

 

 毎度思うけど、コイツ等マジで化け物過ぎる!

 会う度にどんどんヤバくなってる!

 あ、いや、知らない。こんな奴らは初めて見た!

 


「…………」


「第一使徒様。宣言を」



 あーあーあー、聞こえない!

 何も知らない分からない。

 ていうか、何でこんなことになったんだ?

 ボクはいつからこんな怪しい集団に所属するようになったんだ?

 だから嫌なんだよ、現実は!

 家に帰りたいわ! 家なんて無いけど。

 


「……第一使徒さま?」


「テメェ、いい加減にしろよ?」



 もー、うっせーなー!

 この世の全てが平等に、テクスチャの上のハリボテなんだからさあ。

 それなのに、怒るなんて馬鹿みたいじゃん。

 この世の全ては等しく無価値なんだ。

 出来れば、そのことを悟ってほしい。

 具体的に言うなら、会う度にボクに突っかかってくるの止めてー。



「俺たちの目的は、生半可なものじゃねぇ。だが、何が何でも成し遂げなきゃならん。世界を敵に回してでも。ここは、集まりだろうが?」


「…………」


「これから、大事な仕事があんだぜ? この集まりは、決意を確かめるための重要な儀式! それを毎度毎度無視しやがって! 組織の幹部として、教主への忠誠を示せ!」



 うるせー! 知らねー!

 メンドクセーから、ぶっ飛ばそうかな?



「ははは、良いのですよ、ライオス」



 思わず、睨んでしまう。

 ボクとコイツ等の相性が良くないことは分かってるのに、何で毎度毎度ボクを連れて来させるのか。

 意思決定? 覚悟を問う? アホらしい。アホらし過ぎて、言葉もないよ。

 そんなもん、あっても無くても変わらんわ。

 能力と、あとは運で決まるんだ。覚悟なんて言ってる暇があったら、自分を鍛える時間を増やせ。

 ボクの気質なんて、とっくに分かってるのに、こうしてボクをこいつ等の前に連れ出してさ。

 先に釘刺すくらいのことはしててくれよ。



「教主……」


「この子は、捻くれ者ですから。貴方たちのように素直になれないのです。ですが、私達の同士であることは、決して揺らぐことはありません」



 へへーん! 諌められてやんのー!

 そのまま黙ってろよ、バーカ!

 もっと言ってやれ。そのままこのバカヤンキーを、この場から叩き出せ!



「教主、様。恐れ、ながら、我は、『回帰』、殿、に、同意、する。目障り、邪魔。排斥するべき」


「小生も同意します。第一使徒殿の強さは認めますが、如何せん気まま過ぎる。過度な自由を見過ごせば、組織として、いずれ立ち行かなくなりまするぞ?」



 バカ共の分際で何を偉そうに。

 ていうか、こいつ等ボクのこと嫌い過ぎない?

 何かしたっけかな?

 


「ええ。そうなのかもしれません」


「ならば……」


「ですが、この子には、この子のやるべきことがある。この子の存在は、私達の目的には必要不可欠なのです。三人とも、分かっているでしょう?」



 三人とも、押し黙った。

 そりゃそうだわ。

 ボクの存在を疎ましいとは思ってても、最終的にはボクに頼らざるを得ないんだから、滑稽だよね。

 だからさー、普通に黙ってて欲しいんよね?

 話しかけるな、視界に入れるな、関わるな。

 このやり取りも、マジで何回目よ?



「貴方たちは、貴方たちの最善を尽くしなさい。貴方たち使徒は、皆同じ立場にあるのです。序列などない。それも、説明したはずです」


「それも、聞いた、教主、様、しかし、」



 はよ黙れや!

 お前らが心酔する教主の命令だろ!

 何回でも言うけど、お前らマジでボクのこと、嫌い過ぎだろ! 



「ですが……」


「平気です。この子が私を裏切ることは、天地が裂けてもあり得ません」



 ったくよー!

 良いから黙ってろよ、バカ。

 教主への忠誠を示せ? それこそ、本気で時間の無駄無駄。


 ボクがコイツに従わないなんてこと、それこそ本当にあり得んわ。



「大事な任務がこれからあって、気が立っているのは分かります。ですが、安心してください」


「……わかり、ました」



 まったくさあ。

 大仰なこと言ってるけど、上手くいった試しなんてほとんど無いじゃん。

 偉そうなこと言ってんじゃねぇよ。

 この二百年くらい、ロクな進展ないくせに。



「…………!」


「…………」



 睨まれた?

 察しましたか? ボクが思い切り心の中で煽っていたことを?

 お、青筋立ててるねえ。

 ちょうどいいから、このまま憂さ晴らしにボコボコにしてや……

 


「やめなさい」



 空気が重くなる。

 言葉だけで、ただ一言だけで、変わる。


 …………


 まあ、別にいいし。

 こんな奴に突っかかられてもどうでもいいし。



「さて、では、続けましょうか」



 教主の言う通りにしておこう。

 しゃーないしね。

 言う通りにしておく方が良い。



「アイン。貴女も、変わらず私に付いてくると誓いますね?」


「…………」



 頷いておく。

 これ以上ゴネても意味ないし。

 まあ、一言も喋ってないけども。

 ていうか、一応コードネームみたいなの作ってるくせに、なんで本名で呼び続けるのか?

 それ、意味なくね?

 一応ボクもコイツが考えたコードネーム的なの、ちょっとだけだけど名乗ってるんだけども。



「では、皆さん、励んでください」


「「「「はい」」」」


「…………」

 


 他の四人は、各々自分たちが来た扉から帰っていく。

 この『どこでもない』空間に続く扉は、現実のどこにでも繋がってるからね。

 どこに繋がってるかは、ボクも知らん。

 

 さて、皆居なくなったところでだ。

 やっと二人きりになったよ。

 何で余計な人間を呼ぶんだろうね?

 ボクの半径十メートル以内には、人間は二人以上は置きたくないんだけど。

 まったく、コイツの趣味に付き合わされる身にもなって欲しい。



「アイン。貴女は、いつになったら皆と仲良く出来るのでしょうか?」


「そんな気、一生無い」



 なんだよ、溜息なんて。

 ボクに呆れる要素なんざどこにある?

 おい、いい加減に引っ叩くぞ、おいコラ。



「あんな奴ら、関わりたくない。全部が全部気持ち悪いんだから、仲良くなんてしたくない」


「……そう言わないでください」


「そんな事より、ボクは現状への疑問でいっぱいだよ」



 頭が痛くなってくるよ。

 首を傾げるな。

 なんで分からないんだよ。



「いつから、こんな、こうなったんだ?」


「……というと?」


「ボク等はいったい、いつから、こんなコテコテの悪の組織に、いつ成ったんだよ」



 ボクの純粋な疑問に、教主は首を傾げるだけだった。

 面白くねえよ、クソったれ。

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