文化祭センチメタル

 あぁ最悪だ。なんでこんな時に機材トラブルが起きるのだ。

 実行委員共は機材を直そうと慌ただしく動いている。静寂に包まれていた会場にざわめきが波及する。スポットライトに身を焼かれる私。

 段取り通り行かなかったことに頭を抱えているわけではない。機材トラブルは本質ではなく、きっかけに過ぎない。恐るべきはこの後だ。

 実行委員長のお出ましだ。彼は、いや、奴はすたすたと壇上脇のピアノへと向かった。

 始まってしまう、奴の演奏が。何とか国際コンクールの何とか賞を受賞した奴の演奏が。

 場を繋ぐには十分すぎる演奏であった。十分すぎたのだ。会場の熱量は最高潮に達していた。

 先程まで奴に向けられていた熱線が今やこちらに向けられている。

 そんな目で見ないでくれ。期待に応えられるような技術は私にはない。

 ベースの山田、なぜにお前は自信ありげなのだ。練習するやつはダサいと言ってメンバー1練習をサボっていただろ。

 ドラムの田中、なにいっちょやってやりますか、みたいな顔をしているのだ。素人目から見てもお前のドラムは下手くそなんだぞ。

 そしてギター兼ボーカルの私、なぜあの時メタルをやろうと言い出したのだ。しかも重たい方の。無難に流行りの曲を選んでいればいいものを。

 機材はとうの昔に直ってしまった。

 腹を括ろうではないか。

 我々三人は運命共同体だ。

 届けようじゃないか。

 センチなメタルを。

 グッバイ青春。

 ハロー浮遊感。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る