第5話 アデライドお母様、娘の行動力に驚く。
あれから二年。
娘の卒業パーティーの翌日に提出した離婚届は特に問題なく受理され、夫はごねにごねたがフランセル子爵家を出ていった。
彼のお客様達からは慰謝料とともに横領されたお金を回収したり、回収できずに憲兵にお任せしたり、お金の代わりに領地の一部をいただいたりと慌ただしく過ごしている。
そして夫の……元夫の縁故で雇っていた者達を解雇すると、今までギリギリのやりくりをしていた事業は大きく黒字へと転じた。
元夫で繋がった縁を切っただけで右肩上がりとなったこの変化に、彼らにどれだけの無駄金を使っていたのかとアデライドは驚いた。と同時に、フランセル子爵家のためを思うならさっさと掃除をしていればよかったと、自分の決断力のなさが不甲斐ない。
そうして増えた資金を投じて新たな事業を起こし、そちらが安定した収入を出し始めると、フランセル子爵家は国内一の富豪となった。それどころかフランセル商会の支店を通して外国にも影響力を持てるほどの資産と人脈を得た。そうなると、子爵位でもある程度の権力を持つことになる。
娘をないがしろにし裏切った婚約者と親友の実家は、その資金力と権力でもって潰した。
徹底的にこらしめてやろうと思っていた母を娘は止め、自分の問題は自分が解決したいと言った。
どこか気弱でおっとりとしていた娘の決意表明に、アデライドは大喜びでできる限りのサポートをすることにした。
結果、アデライドが手を下した元夫の実家を含め、彼らは慰謝料を支払うために領地を売って爵位を返上し、国の歴史から消えることとなった。
アデライドの元夫と、娘の元婚約者と元親友の行方はそれからわかっていないが、アデライドもシャルロットも彼らを探そうとは思わない。
そもそも事が起こる前、シャルロットの卒業パーティーで辺境伯令嬢が王子にきっぱりと自分の意見を言う姿を見て、自分達の気持ちの整理もついていた。彼らに対する何かしらの情も関心も、アデライドとシャルロットには微塵も残っていなかった。
何も気持ちの残っていない人達の行く末など全く興味がなく、アデライドは趣味ともいえる仕事に没頭し、娘は海を渡った。
そして三ヶ月後、娘は海の向こうで結婚した。
アデライドは手紙を握りしめたまま、驚きに腰を抜かした。
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