学園の頂点に君臨するお嬢様は俺にだけ超デレるようだ

鎔ゆう

Sid.0 序

 世の中、摩訶不思議なことが起こることもある。私立高校に進学して二年目の俺にも、その摩訶不思議な事象が発生した。

 当初に於ける受け入れ難き事象は日常となり生活の一部となる。

 まさか、自分がほぼ同時に複数の女子に好かれるとは。誰が想像できただろうか。

 理解の範疇を超えた事象により、苦難の日々の幕開けとなったのは、言うまでもない。不登校児童になりかねなかった程だ。


 二人の女子、及び女性含め三人。

 

 ひとりは、とある大企業経営者のご息女だ。

 些細な切っ掛けから異常な程に愛された、と言っても過言では無いだろう。

 切っ掛けはともかく惚れ込まれた理由は今も不明だ。恋愛感情に理由など無いのだろうけれど。フィーリング? 何かしら惹きつけるものがあった、としか。

 俗にお嬢様と言えば、品行方正で言葉遣いも正しく、などと思う人は多い。言葉遣いひとつ取っても「私、何某の何某ですの。よろしくお願いいたしますね」なんて。

 傍には執事が控えていて「お嬢様。お車の用意が」なんてのも。


 ねえぞ。


 妙な夢を見るな、と言いたい。

 至って普通の人だ。いや、違う。校内随一の美少女だった。他の追随を許さないその美貌。そして豊かなバストは男どもの視線を集める。

 だが、男子に対しては極めて塩対応。塩対応程度で済めばよいのだが、現実には悪態を吐かれて精神を破壊されるらしい。

 結果、意を決して告白した男子全てが玉砕する。イケメンだろうがスポーツ万能だろうが、そこは容赦がないのだ。誰が告白しても受け入れることは無い、と言うことで男嫌いなのかと噂が流れる程だ。


 そんな美少女お嬢様が、まさか俺に、と青天の霹靂も真っ青だ。いや青いから青天なのだが。違う。自分で何を言っているのかすら分からん。

 そのくらい驚愕の事実であった。


 ひとりは齢二十五の女性家庭教師だ。

 一流大学卒で海外留学経験もあり、志望校には必ず合格させる合格請負人だとか。

 そんな優秀な家庭教師ではあるが、とある事情から無償で教えてもらえることに。

 うちは貧乏だからな。家庭教師代など捻出できるはずも無い。


 初見の感想と言えば「地味」「メガネ」だった。それと、もうひとつ。

 何が詰まっているのか知らないが「それは乳と言うには、あまりにも大きすぎた。大きく、柔らかく、重く、そして激しく揺れ動いた。それはまさに肉塊だった」ってなもので。

 少々大袈裟に語っているが、あながち間違いではない。

 まあ目を奪われたわけで。

 何より大人の女性を強く意識させられる。そんな人が俺を好きだと言う。何かの間違いだろうか、それともショタなのか。


 惹かれた。言っておくが、断じてに惹かれたわけではない。


 ひとりは同級生の女子だ。

 家庭教師とは真逆の存在。並みレベルの顔面偏差値で、小さく幼く平たく永遠の幼女と言えようか。きっと年を取らない。そんなわけ無いのだが。

 とあることから告白され愛されたと知る。これもまた何かの間違いかと思うも、当の本人は本気で惚れたようだ。あり得ない。いや、先の二人と比較すれば、一番可能性が高く己の身の丈に合った存在だ。


 純情かと思えば大胆不敵。見た目に反して意外にも積極性があり、せっせとアプローチしてくる。

 思わず絆されてしまうのだが、自分の中でも妥協ではなく、愛らしさと雰囲気がいいと思わせてくれた。付き合うのであれば彼女が相応しい存在であろうと。

 何よりも俺とお嬢様の関係性に、いち早く気付いた存在だ。まさか気付かれるとは。

 つけ入る隙あらば狙うその姿勢や良し。

 悪くないと思いつつも、なかなか積極的になれなかったが。


 今は思う。圧倒的な美貌の持ち主や図抜けて優秀な存在より、普通であることが最も楽な存在であるのだと。


 この三人との出会いが、高校生活の残り一年半程度を大きく彩るものとなった。

 腐れた高校生活が華やいだからな。

 同時に苦労も抱え込むことになったが。


「佑真君。高校卒業したら一緒に住むんだからね」

「いやだ」

「いやだ、じゃないってば。もう家買っちゃったんだから」


 金持ちとは、如何なる思考回路を持っているのだろうか。

 当初、俺の家に転がり込む予定だったお嬢様。だが、我が家にお嬢の荷物を持ち込むスペースは無い。俺の部屋で一緒にとか寝言を噛ますから、それは不可能だと言ったら「じゃあ家買う」じゃねえって。

 父親に頼み込み叶えてしまった。


「中古だけどリフォームしてるから」

「お高いんでしょう?」

「そうでもないよ。でも、お父さんが恥ずかしくないようにって、六億くらい」


 そうでもない、が、これほど虚しく感じることは無い。

 都内の高級住宅街の一角にある中古の豪邸。大学生が二人で住むには広過ぎるし高額過ぎるし。

 金銭感覚も違い過ぎる。

 離婚原因のひとつはな、金銭感覚の違いだそうだぞ。言っても詮無い話だ。

 綾乃、まあお嬢様の名前だが、こいつにはいずれ貧乏を経験してもらおう。


「佑真君。今日家に行ってもいい?」


 時折、俺の家に出入りするのが同級生の女子だ。

 幼女と見紛うくらいに背が低く、ぺったんこな子なんだが、愛らしさを感じて未だに切り捨てることができない。

 一度は関係の清算を図ったが、彼女の気持ちの強さからか離れるに至らず。


「まあ、用事は無いけど」

「じゃあ一緒だね」


 満面の笑みを見せて「泊まってもいいのかなあ」なんて言う。無いぞ。そもそも外泊は校則で禁止されてるからな。

 心陽こはるは時々そうやって誘惑してくる。心陽は彼女の名だ。

 家に来る目的は明確。勉強と言う名の大義名分を掲げ、俺とエロい行為に及びたい、あわよくば綾乃から奪いたいわけだ。

 目下、綾乃にとっての最大のライバルと言えよう。


「佑真君。今月からは受験特化の授業をしますね」


 そう言ってくるのは家庭教師の陽奈子さんだ。

 主に綾乃の家と俺の家で授業している。綾乃の家では俺と一緒に面倒を見てもらい、俺の家では個人的な想いで見てくれている。

 金掛からない。無償でご奉仕だ。実にありがたい。


「俺のためとは言え、毎回なんか悪いです」

「いいのですよ。気にせず私の愛情表現として受け取ってくださいね」


 好かれてる。

 やっぱりショタ、かもしれん。

 ただ、そこは大人だ。好いてくれてはいるが、現実を見ているようで、肉体関係はともかくお付き合いは無さそうな。

 年齢差で諦めてる面もあるようだけどな。


 まあ、こんな環境で今も国立最難関校合格を目指してるわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る