第3話 「イヤなんだもの」お題・お下がり

 子どものころから、お姉ちゃんのお下がりばかりだった。

 年が六つも離れてるから、ランドセルでさえお下がり。

 まわりの子がぴかぴかの新品を背負ってる中、私だけが使い古したランドセルを使ってるのは恥ずかしくてイヤだったし、みじめだった。


 でも、もう違う。

 成人した私は、お姉ちゃんのお下がりになんて頼らず、欲しいものは自分で手に入れられるようになった。

 

 ──だってのに。


「……な、なんで……こんな──」

 ことを、と呟いたあと、お姉ちゃんはひざから崩れ落ちた。血の海の中に。

 その中心には、かつてお姉ちゃんと付き合っていた人──ううん。もう動かない、ただのモノだ。

 お姉ちゃんと、人間だったモノを見下ろしながら、答える。


「だってね。今度は、私と付き合って欲しいだなんて言うから」

 包丁でしたら、動かなくなった。それだけだ。

 何故だかこみ上げて来る、笑いをこらえながら、言ってやる。

「もう、お下がりはイヤなんだもの」 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る