ここで終わり、もしくは始まりの物語・七編(2023年文披31題)

第1話 「ヒトの模造品」お題・アバター

　人間の世界は終わった。

　残ったのは私たち、人間に似せて作られた『アバター』と呼ばれる、ヒトの模造品（もぞうひん）だけだ。

　姿形（すがたかたち）、思考回路などもヒトと同じ。

　違うのは、人間の三大欲求──食欲・性欲・睡眠欲がないことだ。

　最初の二つは、そのための器官がないから当然だが。

　ただし、可動のためには充電エネルギーが必要だ。

　それは、睡眠と言い換えてもいいのかも知れない。

　我々は人間と似ている。

　だから滅びたあとも、人間と酷似（こくじ）した社会構造を有している。　　

　労働や生活インフラの構築、他のアバターと家庭を築くなど。

　我々は、平穏な社会を作ってきた……そのはずだ。

　だが最近、何かがおかしい。

　家へ帰る途中、アバター同士が喧嘩（けんか）をしていた。

　最近、よく見る光景だ。海外では、戦争も始まったらしい。

　そんなことを考えながら歩いていると、誰かがぶつかってきた。

　謝らず、立ち去ろうとするアバター。

　何故だか言い様もない苛立（いらだ）ちが湧（わ）き上がってきて、思わず殴り倒してしまった。

　──ああ。そうか。

　地べたに転がったままのアバターを見下ろしながら、ここ最近感じていた、違和感の正体に思い到った。

　我々は模造品だ。互いに憎しみあい、争いあった末、滅（ほろ）びたヒトという種族の。

　模造品は、コピー元と同じ思考回路を持っている。

　なれば、我々も同じ末路を辿（たど）るのだろう。

　足元には、完全に機能停止したアバター。いずれ、私もこうなるのだ。

　何しろ我らは、愚かな『人間』の模造品──『アバター』なのだから。