第42話-妖精が知っていること-

 「ちょっと、遅いんじゃない?一体、何をしていたのかしら」

 ルーサさんとケイ君は、初めて出会った場所に飛ばされていた。つまり、ケイ君が独りで暮らしていた物置小屋のような家の近くだ。

 ちょうどいいので物置小屋に泊まらせてもらうことにするのだが、こんなことになるとは思わなかったためか生活感が色濃く残っていた。

 長老の村を出て、すぐに来たのだがルーサさんからすると遅く感じたようだった。白の賢者のことがなければ真っ先に会いに来たであろうことを考えれば、そう思うのも無理はない。

 「でもトキヒサも無事で良かったわ。多分大丈夫だろうって話はしていたけど、何事も予想外はあるし」

 「そうなのか?」

 「当たり前でしょ?私達をなんだと思っているのよ。なら良いかなんて軽い気持ちで根の国に行って欲しくなかったから言わなかっただけよ」

 物置小屋の中にはダイニングのようにテーブルがあり、ルーサさんはその上で呆れたように話していた。俺としては戻れないかもしれないという覚悟を持って根の国へ行ったので、なんだか拍子抜けしてしまう。

 「それでいいのよ。心構えっていうのは、何事でも大事なことなんだから。それで?そろそろ何がわかったのか教えてくれてもいいんじゃない?」

 「わかった」

 ハルファウンに説明したときと同じことを話す。エルフと違って感情豊かな表情からは、納得と悲しみと、そして驚きが見て取れる。一通り話し終えると、ルーサさんは腕組みしながら何かを思い出すような素振りを見せていた。

 「おばあちゃんが言ってた。賢者って、とてつもない魔力量を持っていたって。とってもイタズラのしがいがある人達で、でも普通の人より人間らしくって、たくさんのものを背負っている人達だったって」

 「おばあさんって長老の」

 「そう。おばあちゃんは、妖精の中でも特に長命だから。テルペリオン?本当にあなた達だけで対応するの?」

 「いかにも。人間の問題は、人間だけで解決すべきだ」

 テルペリオンの回答に、納得していないようだった。そんな様子を見ながら俺は、賢者という存在をほんの少しだけ身近に感じるようになっていた。何故なら、俺も会ったことのある妖精の長老が、賢者と面識を持っていたようだったから。だとすれば、賢者というのは思ったよりも過去の人間ではないのか、もしくは長老があまりに長命すぎただけなのか。

 「ハッキリ言うけど、賢者を人間として扱うべきじゃないわ。別の種族って言っても過言じゃないでしょ?というか、賢者が何者なのか説明した?」

 「む?詳しくはまだだな」

 「もう、そういうところよ。トキヒサもちゃんと聞かなきゃダメでしょ」

 ルーサさんの言うことにも一理あると思うのだが、後でまとめて教えてもらえばいいという考え自体に変わりはない。単にテルペリオンとの旅が楽しみなだけというのもある。ただそんな約束も俺の気持ちも知る由のないルーサさんにとっては、関係のないことだった。

 若干だが説教モードになりつつ、賢者について説明してくれた。要するに世界樹から寵愛を受けた人間のことで、ドラゴンと同格程度の力を持っているらしい。でも過去の存在であり、数人いたらしいのだが今は全員死んでしまっている。賢者と直接面識のある者は、どの種族でももはやおらず、というより妖精の長老が最後だったらしい。

 「わかった?人間だけでどうにかしようなんて、無理な話なのよ。仮に魔源樹の助けを得たとしても、世界樹とは比べ物にならないわ」

 「問題ない。ドラゴンである私が手を貸すのだからな」

 「あのねぇ。その自信はどこから出てくるのよ。巻き込むのはいいけど、ちゃんと守れるんでしょうね?そりゃ、まだ本調子じゃないみたいだけど」

 「トキヒサを死地へ連れて行くわけがなかろう。問題ない」

 実際その点は心配していなかった。というよりテルペリオンと同格というのが想像もできない。老いているなどと自分では言っているが、だとしても強いことに変わりはない。そもそもテルペリオンの強さは、パワーというより知識量にあると思っている。仮に勝てないにしても、逃げられないということは想像できない。

 「まっ、ドラゴンがそこまで言うんだったら問題ないでしょうけどね。いいわ、それじゃこっちの話もしちゃいましょうか。こっちよ」

 あっさりと引き下がる様子に少し違和感を覚えながら、でもこれはテルペリオンに対する信頼の証なのだろうとすぐに考え直した。

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