第40話-惨劇-

 「やっと来たか」

 「ハルファウンか。これは、どうなっている?」

 長老の村に到着すると、ガーダン達が慌ただしくしていた。そして、長老以外はガーダンしかいないはずの村で、エルフや巨人の姿がちらほらと見える。

 何かが起きたのだろうと、何かはわからないが、何が起きたのかは想像ができてしまう。もちろん悪い意味での想像をしてしまう。

 事情を聞きたいと思っていた矢先に、1人のエルフが近づいてきた。エルフの里にいるはずのハルファウンとわかって少し意外に思ったが、逆に見知った顔で良かったとも思えた。

 「どうと言われてもな。不本意ながら我らエルフの長老と、巨人の長老が討たれてしまったよ。転移者と言ったな。あの魔力量はとても人間とは思えん」

 「そうか」

 自分達の長老が殺されたというのに、ハルファウンから怒りの感情が全く伝わってこなかった。常に理性的なエルフとしては普通なことなのだろうが、どうしても違和感は覚えてしまう。

 「それで、何がわかったのかな?断片的な情報しかもらえなかったものでな」

 「ふむ。それもそうだ」

 ハルファウンと最後に話した時、地球へ帰る方法を探しに行くと伝えていた。その時点で、テルペリオンも含めて絶対に帰れないと知っていたようだし、つまりトキヒサの魂だけがアキシギルに来ていてトキヒサの体は地球で死んでいるであろうことも知っていたのだと思う。

 だから伝えるべきは、誰がどうしてどうやって実行に移したかということだ。

 誰が?魔源樹ではあるのだが、特に子孫がいない魔源樹に限るようだった。何故なら、アレンの記憶の中で印象に残っていたであろうパルメリオやアシュリーさんの気配を感じなかったから。少なくとも3人の盗賊よりは印象に残っているであろう2人がいなかったのは、魔源樹の言い分を聞くには子供がいたからだと考えられた。

 どうして?根の国の魂は、混ざりあって自我を保てなくなるはずだった。何故なら、対となる肉体も朽ちているのだから。白骨だけ残っていても、根の国で微かに自我を保てる程度になると思われる。だが魔源樹は違う。魔源樹の魂となり、魔源樹の体が完全に残っている。それが大問題だったようだ。何もない根の国で、何もやることがない。唯一の心の支えが、子孫の望みを叶えるために、古代語を唱え魔法を発動させること。その唯一の支えを失ってしまった魔源樹が、支えを取り戻すために人間としてやり直そうとした。それが原因。

 どうやって?これについては単純に地球へと至り奪われただけだ。アキシギルの人間の魂は世界樹に守られているので、他の世界の人間の魂を奪うしかない。根の国には時間という概念がなく、悠久の時をかけて探し出されてしまった。そして、刈り取られた。

 一通りの説明を、ハルファウンは黙って聞いていた。相変わらず無表情で、何を考えているのかわからない。

 「概ね把握した。それにしても、その程度のことに耐えられないとは。人間の承認欲求にも困ったものだな。それで?それだけではないのだろ?あれだけの魔力量を持っている理由が説明できん」

 「ふむ、その通りだ。とはいえ私も信じがたいのだが、どうも白の賢者が関わっているようだ」

 「白の?」

 ハルファウンは顎に手を添えながら考え込んでいた。驚いているわけでもないように見えるが、思うところがあるのだろう。

 「なるほど、確かに信じがたくはあるが納得は出来る。それにしては魔力量が少なかったように思えるが、何かしら事情があるのだろうな。しかし賢者といっても人間と同じか、困ったものだ。その魔源樹と全く同じ理由とも思えんがな」

 賢者というのが、結局どんな存在なのか。気になりはするが今のところは脅威と考えるだけでいいはずだ。せっかくアキシギルのことを教えてもらう旅に出ようとテルペリオンと約束したのだから、その時にゆっくりと教えてもらえばいい。

 「何の恨みがあって長老を襲うのやら」

 「心当たりもないか」

 「無いな。そもそも人間の感情など、我らには理解できん。ましてや賢者の感情などわかるわけもない。本人に聞いてみることだな」

 肩をすくめるハルファウンは呆れたようなことを言っているが、無表情のままなのでどうにも噛み合っていないように見えた。

 「ハルファウン。エルフは、これからどうする?」

 「これから?もちろん対処せねばならんな。狼藉者がどこにいるかも把握している」

 「それを任せてくれまいか?」

 初めてハルファウンの表情が揺らいだ気がした。それは無理もないことだ。同族の、それも象徴たる長老が惨殺されたのだから。どんなことを言ってくるのかと身構えてしまうが、予想とはかけ離れた答えが返ってくる。

 「それは構わないが、果たして巨人を説得できるのか?」

 驚いたというより、もはやどうして思い至らなかったのかと感じるほどエルフらしい回答だった。

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