第35話-死後:異世界転移。その真相は?(動機)-
これは、本来あるはずのない記憶。魔源樹としての、根の国での記憶。
何もない。真っ暗な世界。
誰もいないはずのその場所で、感じるはずのない他人の気配。他の魔源樹の姿。
そこで、アレンは、先祖に、かつてアキシギルを生きた魔源樹達に、責任を追及されていた。
「何故、何故だ」
「子孫がいない」
「我らが魔力を、与えるべき存在」
「誰が悪い?」
「お前だ」
「バゼザ、バゼザ、バゼザ」
「ボゾヅブサババダダボパバゼザ」
魔源樹に囲まれながら、好き放題に言われる。自分の人生を、アレンの人生を、どう生きようと自由なはずだ。それに魔源樹として魔力を与えられないからといって、何故責められなければならないのだろうか。
「私の人生は、もう終わっている。勝手なことを言ったとて、どうにもならんさ」
「クククククク」
「本当に、そう思うのか?」
「よく見ろ」
「今ならわかるはず」
「ゲバギジュンゴンザギゾ」
言われるがままに、周囲をよく見る。それは、すごく遠くにあり、すごく近くにもある。距離という概念のない根の国特有の感覚なのか、それとも本当にそうなっているのか。
世界樹。
どうして気づかなかったのか不思議なほど近くにあり、目を離せばどこかに行ってしまいそうなほど遠くにある。
「どういうことだ?」
「フフフフフフフ」
「ハハハハハハハ」
「不思議に思ったことはないのか?」
「どうして、人間が魔法を使えるのか」
「世界樹を感じたことがあるか?」
「ないだろ」
「古代語を話せるか?」
「話せないだろ」
「子孫の意志を読み取り、我らが古代語を唱え、子孫が発動する」
「それが魔法」
「それが我らの役割」
「だというのにお前は」
「ブゴグ、ブゴグ、ブゴグ、ブゴグ、ブゴグ、ブゴグ」
「我らの役割が無くなってしまったではないか」
「存在意義が、セゾンゼゼドスグバブバダダゼパバギバ」
「貴様には理解できまい。ここは根の国だ。子孫とのつながり以外何もない」
「何もせずとも生きられる天国だと思うか?否、何もすることがない地獄でしかない」
これは、本当のことなのだろうか。ただ魔力を受け取っているだけではなかった。根の国の魔源樹の魂が、古代語の呪文を肩代わりしてくれていたとは。
テルペリオンも知っていたのだろうか。でも知らなくても無理はない。たしか、魔法というのは祖となる存在から力を借りるもので、祖を冒涜するようなものではないと言っていた気がする。
「まぁいい」
「喜べ」
「お前にはやり直してもらう」
「もう一度、人間に戻ってもらう」
「そして、全てをやり直せ」
「ドビバブ、バンゼロギギバサボゾロゾグレダギギンザ」
「その通りだ」
こいつらは、何を言っているのだろうか。人間が生き返るすべなどあるはずがないし、あったとして言っていることが自分勝手すぎる。
「そんな方法、あるはずないだろ。あったとして、実行すべきでない。私たちの人生は、もう終わっているんだ。続きはない」
「黙れ。黙れだまれダマレダマレ黙れ黙れ黙れだまれダマレだまれ」
「お前は黙って見ていろ」
「お前は黙って言うことを聞けばいいんだ」
「誰のおかげで生まれることができたと思っている」
「ダザンボゾロゾグルザベンバギサギビバセダギギンザ」
とたんに、体が動かなくなってしまった。いや、体はないのだが、魂の自由が無くなってしまっている。祖先達の魔法なのか、よくわからないが元々根の国というのはお互いの存在が溶けあう場所だ。他人の意志に束縛されることがあるのかもしれない。
「困ったものだ」
「仕方がない。末裔でなければ、全員が納得することは出来まい」
「それはそうだ。抜け駆けなど許さん」
「それはそうと、首尾はどうだ?」
「それは、心配いらない」
本気で人間に戻そうとしているようだった。抵抗しようとするのだが、どうしてもできない。しかも、その目的が俺に子供を産ませるためというのには怒りを覚える。
「なんか、不快だな」
「不快なのは、我とて同じだ」
「テルペリオン?」
「前にも話したか。我らは祖たる世界樹から力を借り、魔法を発動する。祖たる世界樹を傷つけるのは冒涜だ。詳しくは話さんが、世界樹には多くの者の意思も詰められているからな。魔源樹にしても、世界樹と同じことだ」
こんなにも怒っているテルペリオンも珍しい。俺の知らない何かもあるらしいが、全て聞くには時間がいくらあっても足りなさそうだった。
「なぁ」
「わかっている。続きを見るとしよう」
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