第4話-切り倒された魔源樹②-
テルペリオンの頭に乗り、あっという間に目的地に到着した。街中に着陸するわけにもいかないので、どこかにいいところがないかと探し、ちょうど良さそうな空き地を見つけた。
「テルペリオン。あの空き地に降りてくれ」
「いいだろう」
着地の衝撃で吹き飛ばされないようにアリシアを支える。急いで来たのはいいが、もう夕暮れになってしまっていた。
「ここで待っててもらっていいか?」
「ん?」
「話を聞くのに時間がかかるだろうし、今日はもう遅いから」
「ふむ、それは構わん。だが、私も話を聞きたい」
「わかってる」
いつになくやる気だな。
腕輪を通せば話を聞けるし、テルペリオンも話ができる。常に装着しておけということだろう。テルペリオンが頭を降ろしてくれたので飛び降りる。そしてアリシアをエスコートするように手を伸ばして降りてもらった。
「では、テルペリオン様。失礼いたします」
アリシアは丁寧に一礼している。俺は手を軽く振ると街の門に向かって歩き出した。門までは少し距離があったので、アリシアの荷物も運ぶことにする。門に近づくと慌ただしく人が動いているのが見え、何人かが門を出てこちらに歩いて来た。一番前を歩いている人は白髪交じりの髪をオールバックにしていて、50代くらいに見える。少し歩いただけのはずなのに、少し息切れしているように見えるが大丈夫だろうか。
「トキヒサ様とアリシア様でしょうか?失礼、私はこの街の代表です。」
「ええ、まぁ。随分早く気付きましたね。」
「物見からドラゴン様が見えたと連絡がありまして、急いで参ったという次第です。」
なるほど、テルペリオンの銀色の巨体は遠くからでも目立つので時間は十分にあっただろう。
「人間。それで魔源樹の件はどうなっている?」
腕輪からいきなり声が聞こえてきたので代表は驚いている、というよりどうすればいいのか戸惑っているようだった。初めてだとみんなこうなるので、テルペリオンが喋っていることを説明する。
「これは失礼しました。新しい報告は入っておりません。ですが森は広いですので、まだ全てを調査しきれてはいないものでして」
代表は言い淀んでいる。中途半端な報告をせざるを得ないので言いづらいのだろう。ドラゴンの要求に応えられないことを問題だと思っているのか、後ろについてきていた人も含めて緊張した面持ちになっている。
「まぁ責めているわけではないので、落ち着いたところで話しましょうか。テルペリオンもそれでいいよな」
「別に構わん」
同意が取れたので全員で門へと向かう。検査などされるわけもなく、すんなりと都市に入っていく。元々は小さな王国の城下町だったらしく、古いが立派な城も見える。それを横目に街を移動するが、魔源樹が切り倒されたという割には静かなことが印象的だった。代表は城には向かわず、少し離れたところにある屋敷へと入っていく。その屋敷が代表の住んでいるところらしく、客間へと案内される。
「それじゃぁ何があったのか教えてもらえますか?」
「はい。といっても出来事自体はシンプルなものでして、1週間ほど前に魔源樹の異常を探知し、急ぎ確認すると切り倒されていたというしだいです。」
みんなが座ったことを確認して、早速起きたことを聞いてみると代表は簡潔に説明してくれた。というよりも、シンプルすぎてよくわからない。
「異常というのは?」
「なんといいますか、大きな音と共に雷光のような光が確認されまして、それで気づけました」
代表に説明されたことは、初めて聞くような事象だった。今まで同じようなことが起きたことがあるのかテルペリオンに聞いても、初耳らしい。というか、それが無かったら気付けなかったという事なのだろうか。
「犯人はどうしたんですか?」
「申し訳ありません。犯人は目星すら立っていない状態です。」
「ん?それはどういう?」
「それがですね。痕跡を調べたのですが、そもそもどこから魔源樹の森に人が入ったのかわからなかったのです。どこへ行ったのかも不明でして。」
なんでそんなにビクビクしているんだ?別に怒ったりしてないんだけど、俺ってそんなに怖いのかな。
責められるのではないかと心配しているのだろうか。代表は緊張した面持ちになってしまっている。別に責めるつもりは全くないのだが、厄介な話だとは思った。魔源樹関連なら優秀な人、つまるところアリシアと同等以上の人が痕跡を調べたはずで、調べなおしたところで新しいものを見つけられるとは思えない。
「テルペリオン。悪いんだけど痕跡を調べるのを手伝ってもらえないか?」
「まぁ、仕方あるまい」
戦闘しか手伝ってもらえないということになっているんで、どうなるかわからなかった。意外とすんなりと了承されたので肩透かし感はあった。それだけ魔源樹は大事にされているということだろう。そんなことをしていると、おもむろにアリシアが質問を始めた。
「あの、どのくらいの被害になっているんですか?」
「まだ調査中ではありますが、目立った被害は確認できておりません。切り倒された魔源樹は没後10年ほどの若木でしたので、いずれにしても被害範囲は狭いと思われます」
「え?でも、それは」
代表の回答にアリシアは納得できていないらしい。どういうことか聞いてみると思ったよりも小難しい話が待っていた。
魔源樹の魔力は共有されている。つまり兄弟姉妹が多いほど両親の魔源樹から受け取れる魔力量は分散するし、対象者が多くなっていくという意味で両親より祖父母から受け取れる魔力量も分散する。
なので若木の場合、必然的に魔力を受け取っている対象が狭く、切り倒されたりすれば気づくはずということだった。なので目立った被害を確認できないことと、若木が切り倒されたことは矛盾するということだった。
「うーん、単に子供がいないとか?」
「ならなんで切り倒されたんだろ?意味がないじゃない?」
「まぁ、そうだな」
なんとなく言ってみたが、即座に否定されてしまう。わざわざ危険を犯してまで魔源樹を切るのだから、それなりの理由はあるだろう。誰にも被害を出さない若木を1本だけ切り倒すというのは、確かにおかしい話ではあった。
「考えてもどうしようもなさそうだな。テルペリオンも手伝ってくれるから、明日の早朝から調べ始めようか。」
「そうだね。場所を教えてもらえますか?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
なんだかんだでもう遅いので、早朝というのが現実的だろう。テルペリオンも何も言ってこないので問題なさそうだ。切り倒された魔源樹の正確な場所を教えてもらってから、今日は代表の屋敷に泊めてもらうことになった。
唯一気がかりなことがあって、一緒に行っても大丈夫なのかと思っていた。ずっと支援をしてもらっていて、戦い方など知らないから。犯人の正体が全く不明なので、1人で対処したいというのが本音だ。それとなく残るように促してはみたが、露骨に嫌がられてしまったので諦めた。
・挿絵リンク
https://41177.mitemin.net/i877907/
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