1章 10年後の再会と別れ、それは
第1話-10年後の日常①-
道なき道を歩き、そして風を切って疾走を始める。周りは何もないただの荒野。魔物の退治屋として生計を立てていた俺は、王家からの依頼でワイバーンの群れを追い立てていた。突如として人里に降りてきて村を占拠されてしまったらしく、今はその対応の最終段階。村から追い出した群れを、元いた巣へと戻すのが目的だ。
走りながら思う、本当に幸運だったと。ドラゴンの口添えの効果は絶大で、ほとんど犯罪者のように扱われていたのが嘘のように待遇が良くなった。王族と話すような機会まで出来て、今では同年代の皇太子と意気投合している。上手く行き過ぎていて怖いくらいだ。
逃げ惑うワイバーンがあらぬ方向に行かないように牽制しながら追いかけている。ドラゴンから力を借りることのできる稀有な存在でかつ、その辺の人間よりよっぽど強かったので、異世界を跋扈する魔物の退治屋として仕事をすることになっていた。依頼者のほとんどは王族、というより意気投合した皇太子からのもので、それなりに強い魔物専門になっている。依頼数自体は多くないが、俺達にしか対処できないような魔物も多いので、実入りはとてもいい。
「トキヒサ。そろそろだぞ。ボーッとするなよ」
「ああ」
隣で同じように疾走しながら話しかけてきたのは、当の皇太子。異世界の王族や貴族はどういうわけかみんな強く、俺の魔物退治に一緒に行くことが多い。というより、本来は王族と貴族だけでやる仕事らしい。
2手に別れながら、猟犬のように群れを追う。ワイバーンは、個体としては大したことがないが仲間意識が異常に強い。一匹でも殺してしまうと最後の一匹まで戦い続けてくるので、対応するとしたら追い返すか、群れごと全滅させるしかない。今回は占拠されたのが初めてということもあり、巣まで追い返すだけでいいということになっていた。
正面にワイバーンの巣となっている岩山が、視界の隅で皇太子が跳躍するのが見える。この辺りで魔法を使って一気に追い詰めることになっていた。手はず通りに上空から火の雨が降り注ぎ始める。
ワイバーン達が逃げ惑う。一匹でも殺ってしまうと全滅させるしかなくなるので、そうならないように手加減された小さな炎。混乱しているところに、地上から俺も風を巻き起こして追い打ちする。吹き飛ばされて、岩山の上に落下していくのが見える。予定では、これで撤退することになっていた。
「どうも気に食わんな」
「ん?どうしたんだ、テルペリオン」
「こいつらは気に食わん。この程度では、また出てくるだろう。もう少し暴れようではないか」
腕に着けている腕輪から話しかけられた。ドラゴンの名はテルペリオン。銀色の鱗を持つ巨大なドラゴンで、ずっと一緒にいるわけにもいかないので、普段はその銀の鱗で作られた腕輪を通して会話している。10年間ずっと世話になっていて、普段はもっと冷静。でも戦闘になると手がつけられなくなる傾向があって、今回は暴れ足りないようだった。
「パトリック。ちょっと来てくれ」
ワイバーンが絡むとこうなりやすいんだよな。困ったもんだ。まぁ少し暴れれば満足するだろうし、パトリックにも付き合ってもらおうかな。
予定と違うことになりそうなので、皇太子のパトリックを呼ぶ。ずっと空を飛んでいた皇太子は、俺の真横に着地してきた。
「どうした?」
「テルペリオンが暴れ足りないってさ。もう少し付き合ってくれ」
「えっ、それはいいけど。殺しちゃうのはダメだからな」
「問題ない」
会話を遮るようにテルペリオンが発言してきた。パトリックが飛んでいた更に上空からテルペリオンが降りてくる。着地、というより爆撃のように降ってきて、ワイバーンの巣を半壊させている。大きく立ち上った土煙の中で、ドラゴンの銀色の鱗が現れる。話を聞いていたのかと心配になるほどの衝撃で、ついテルペリオンに問いかけてしまう。
「おいおい。大丈夫なのか」
「こいつらはそこまで弱くはない」
テルペリオンは雄叫びをあげると、大きく羽ばたき始めた。俺が起こした風とは比べ物にならない暴風で、ワイバーンはなすすべもなく吹き飛ばされていく。
そんな様子を見て、俺とパトリックは顔を見合わせる。いつもと違って退治するのではなく追い払うだけだったので、正直に言うと物足りなく思っていて、パトリックも同じ気持ちのようだった。
パトリックはニヤリと笑いながら再び上空に飛び立つと、巨大な水球を作り出し、その中にワイバーンを閉じ込めていく。俺は最低限の身体強化だけすると単純に殴りかかっていく。
思い思いに戦っている。テルペリオンは飛び回っている奴らをかぎ爪で捕まえては地面にたたきつけ、パトリックは逃げていく奴らを器用に水球で捕まえ、俺は動けないでいる奴らを片っ端から巣の方へ蹴っ飛ばす。
ワイバーンが1匹も死んでいないのは、それだけ実力差があるからだろう。全てのワイバーンが地面に落ちるまで暴れ続けた。終わってからやりすぎたかと思ったが、楽しくなってしまっていたようで、途中でやめられなかった。
「やりすぎか?」
「そんなことはない。この程度で死にはしない。帰るぞ」
テルペリオンは満足したのか取り戻した村の方に戻るようだ。助走をつけて飛び立つと、あっという間に姿が見えなくなってしまった。残された俺とパトリックは、死にかけている個体がいないことを確認した。
よし、怪我してるのは多いけど問題なさそうだな。余計な作業が増えちゃったな。テルペリオンは勝手に帰っちゃうし。なんやかんやで楽しかったから、まぁいいんだけど。
「大丈夫みたいだな。帰ろうか」
「ああ、そうだな。ちょっと気になるものがあったから、先に帰っててくれないか?」
「まぁいいけど、何があったんだ?」
「多分、大したもんじゃない。じゃぁな」
空から何か見えたのだろうか。気になりはするが、一緒に行くほどのことではないと思い帰ることにする。占拠されてしまった村の復旧など、やらないといけないことはまだまだあるし、なにより村には妻のアリシアが待っているのだから。
そう決めると村の方、テルペリオンが飛んでいった方へ走る。身体強化しかしていないが、村まで走るには十分なので気にせず走り続ける。村の入口が見えてきて、女性が手を振っているのも見えてきた。
・挿絵リンク
https://41177.mitemin.net/i877904/
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