Fake Face

@Suzakusuyama

第1話

「被害者は独身でとある企業の社長。死因は完全に密室な地下のシェルター室で指紋や歯型も残らないほど残酷な殺人。脱出は不可能であり、幽霊でも無いと犯行は不可、と」

 「良いでしょう、私がその偽物の顔を剥ぎ取って上げましょう」

 





 「おい、来たぜ…」

 ここは、とある殺人現場。

 警察が一気にどよめく。

 「あぁ、”剥ぎ面”の肱川だな…」

 苦玉を潰したような顔でベテラン刑事が舌打ちをした。

 そこに新人の刑事がやってくる。

 「あのー、その剥ぎ面っていうのは…?」

 「あぁ、そうかお前は新人だから知らないか」

 ベテラン刑事が肩をすくめる。

 「剥ぎ面っていうのはな……そのまんまだ」

 「は?」

 新人刑事が首を傾げる。

 「そいつが任された事件はすべて解決して、犯人は特定できるんだが…」

 ベテラン刑事がため息をつく。

 「犯人を見つけたときには皆顔の皮が剥がされてるんだよ。証拠は無い。けどきっと、いや、確実に肱川がやったって噂されてんだよ」

 「はぁ…証拠もないのに?」

 当然の疑問を口にする。

 「証拠は目でわかるんだ、俺達ベテランは。あれを見てみろ」

 ベテラン刑事が顎をクイとやる。

 その先を見ると、身長が190はあろうかというひょろっとした大男がいた。

 その顔を見た瞬間、新人刑事の背中が凍りつく。

 「アレって…」

 「あぁ、そうだ」

 ベテラン刑事の顔が少し憐れむような顔になった。

 「あいつは、顔の皮がすべて剥がれ落ちている」

 「なにかの事故らしい、それも、幼い頃だったそうだ」

 肉が露出した顔は不気味で、元の顔がどんな顔だったのかなんて想像ができない。

 ただ一つわかるのは、その探偵は恐ろしく優秀だということだけだ。

 「解決しましたよ」

 肱川が告げる。

 「とても簡単なトリックに、どうして誰も気付け無いんでしょうね」

 薄気味悪く笑った。



 死体の状態はひどかった。

 発見するまでに数日かかったせいか腐りかけていて、酷い悪臭を放っている。

 指紋も歯型も取れないほどぐちゃぐちゃで、着ているスーツやバッグなどの装飾品も血肉で汚れていた。

 食料品などは新鮮で、保存食品が大量に積まれていたため、餓死などには見えなかった。

 「まず、犯人がここを出る方法を探しましょう」

 肱川が謎解きについて放し始める。

 「この地下シェルターは鍵が閉まっていて確実に密室。しかし、鍵はスペアとともにシェルターの中にいた大城さんのポケットの中にあったと」

 ゆっくりと死体の周りを歩く。

 「では…そこの若い刑事くん」

 「はっ!はいっ!」

 先程の新人刑事が当てられる。

 「ここから完全に脱出する方法はあるかね?」

 新人刑事は少し考え、

 「無いんじゃないかな…と思います。それが分かれば苦労してないわけですし、まぁでも鍵がもう一個アレば良いんですけど…スペアとともに死体が持っているとなると…」

 「そこ」

 「何でスペアも持っているか不自然でしょう?中にこもる上、私用だったら鍵は一つでも構わない」

 新人刑事は困ったような顔をする。

 「しかし…あっ、なくした場合出れなくなるからじゃないでしょうか?ほら、出れなくなったらこま」

 「内側からは鍵を使わずとも開けられるだろう。阿呆か君は」 

 「それに、一緒に持っていては意味がないだろう、阿呆の極みか君は」

 話を遮り新人刑事を侮辱する。

 新人刑事は明らかに不機嫌な顔になっていた。

 「それじゃ、他になにか方法はあると思うかね?」

 肱川が再度問う。

 新人刑事はもううんざりといった感じで

 「なんですか?幽霊にでもなれば良いんじゃなんですかね」

 と言った。

 すると、

 「ぴんぽーん」

 と肱川が言った。

 「え?え?」

 新人刑事が困惑する。

 「そう、幽霊になってしまえばここから出られるというわけだ…」

 「つまり、死体を作ってしまえば良い」

 肱川が言うと、

 「え?でもまさか…」

 「この死体は大城さんじゃない」

 肱川が告げる。

 「でも、ここは大城のシェルターで、ほら、鍵だって…あ」

 「作り主なら鍵なんていくらでも発注できるでしょう?」 

 肱川が顔のない顔で明らかに蔑んだ感じで言う。

 「でも、でもでも、証拠が…」

 「おかしいと思いませんか?」

 「シェルターにこもる予定だったのに何でスーツなんですかね」

 「あ……」

 新人刑事がハッとする。

 そして死体を凝視した。

 高級そうなスーツ、整った髪、見せびらかしたいと言わんばかりに輝いた時計。

 「なるほど…!」

 「では、私はこれで」

 肱川が去っていく。

 「待て!鍵が二個あったのは…」

 新人刑事が食い下がる。

 「確実に内側に鍵があることをアピールしたかったのでしょう。まぁ、それが枷となましたが」

 肱川が去っていく。

 ベテラン刑事は

 「また死体が増えたな」

 と呟いた。

 後日。

 顔の皮が剥がれた死体が、デパート地下のトイレで見つかった。



 

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