サイカイ、カノジョ

みち木遊

サイカイ、カノジョ

Opening 青春の定義


 青い春。

 その時間を生きる者は誰もその時間を過ごしている自覚を持つことはない。

 もしかしたら、その時にしか出来ないモノがるのはわかっている、そんな場合もあるのかもしれない。

 でも、どうだろう。

 過ごすためのモノがあるだけで、過ごす時間の特別さに皆が自覚を持っていただろうか。

 少なくとも、自覚があるものはごく少数で、それをそうと気付かずにそのように過ごしてゆく。

 なんだか指示語ばかりで曖昧模糊としたものなってしまったが、青春の概念自体が曖昧模糊としているのだから、曖昧模糊でいい。

 ふわふわで、トゲトゲしてて、難しくって、楽しくって、辛くって、なんだかんだ笑った時間、それこそが、青春だのだから。

 そして、いくらでも歪み、元に戻せる微かな時間なのだから。





EP 0 プロローグ



 今年の夏の蒸し暑さは異常だ。

 そんなこと去年も思ったし、何なら言った記憶がある。

 本日7月31日、前期終業の日。

 高校までの電車を利用しても、学校と家、両の最寄駅からは決して近くはない距離をよく歩いたと思う。

 終業式を終え、追い打ちのような、誰も彼も聞いちゃいないホームルームを乗り越え、放課後の2年D組は騒がしくなっていた。

 その一員でありながら、騒がしいのはあまり好きではないが、明日から夏休みなんだと思うと心は広く、深く。

 蝉同等の騒がしい空間から荷物をまとめ、脱出する。

 意外にも廊下は他のクラスがまだホームルームだからか、それほど騒がしくはない。

 あぁ、よかった。

 広く深く心を持ったところで本質は変わらない。

 騒がし過ぎるのは嫌いなんだ。

 我ながら集団生活は向いていないと思う。

 輪になることをあまり好かぬ我が性、なんて格好を付けたところで、友人が少ないだけだし、人脈なんて、辞書に単語だけしか載ってない。

 おそらく、みんなは遊ぶための予定を決めているのだろう。

 決まったコミュニティーの連中、所謂、いつメンとやらが各々で顔を合わせ楽しそうに教室で話している。

 楽しそうでなによりだ。

 さっさと帰宅してしまおう、そのつもりで歩きはじめる。


 「おい、ハス!」


 自分のあだ名を呼ばれた。


 「なにさ」


 声の主、相川あいかわ 恵紀よしきは呑気な顔して、俺の肩を掴んだ。


 「一緒に帰ろーぜ」


 いつものことだった。

 彼、恵紀は隣の二年E組に所属している。

 俺の数少ない友人で一年の頃は同じクラスで、学年が上がると同時に行われたクラス替えで離れてしまった悲しきことがあった。

 しかし、今でも、こうして、俺を見つけては声を掛けてくれる。


 「いーぜ」


 これもいつもの返答。

 そして、俺と恵紀で共通の最寄り駅まで歩きはじめた。



 学校を出ても教室とはあまり変わらなかった。

 電車を使うやつらはみんな同じ最寄駅から通学する。

 おかげで、学年やクラスが違う連中が教室と同じことをやっているだけの風景が続いていく。


 「なぁ、ハス。なんで、みんなはあんなに楽しそうなんだろうな」


 どうしようもない、呑気な疑問を恵紀は投げてきた。


 「夏休みだからだろ」


 そう答えるしかなかった。


 「いやいや、そうだけどもさ。長期休暇ってだけで何がそんな楽しさを助長してるんだって話よ。だって、変わらんでしょ、休日やってること」 


 なるほど、そうきたか。

 そうだな。

 ちょっと考えて、らしい答えが思い浮かんだ。


 「翌日も休みっていう期間が増えるだろ。そうなりゃ、泊まり込みで何かしたっていい。やりたいことの幅が増えれば、自然に楽しみが増える。そんな感じか?」


 「ほーん」


 頑張って考えてみた説明に「ほーん」って、何なんだよ。

 どこまでも呑気な奴だ。

 ちょっとイラつきながらも、いつもと変わらない態度に飽きれる。

 まぁ、こいつはこのままでもいいのかもしれない。

 なんせ、恵紀は友人がそれなりにいる人間なのだから。

 そんな奴が単独行動が基本の俺につるんでくるのかは甚だ謎な話ではあるが、こいつがやりたいなら、何も言うまい。

 そうこうしながら、帰路を辿るが、今夏は話しで紛れる程の暑さではなく、頬に汗が伝い、口の端から「暑い」と零れる様なものだ。

 会話の段落が付き、ちょっとした静寂の間に、何度も同じ単語が俺と恵紀の間で零れていた。


 「なぁ、ハス」


 「なんだよ」


 「海行くか?」


 「突拍子もないな」


 突然の誘い。

 前触れもない話に眉を寄せた。


 「いや、そうだな。突然過ぎた。んで、明後日海行くか?」


 やはり、突然過ぎたと思い直したのであろう。

 一ミリ程度の情報を追加し、聞き直した。

 たまに思う。

 恵紀コイツは呑気ではなく、バカなんじゃないかと。


 「なんでだよ」


 罵詈雑言が飛び出しかけたが、ここで言ってもナンセンスだ。

 いろいろと喉元のフィルタを通して、出た言葉だった。


 「この前、ダイスケとかと話してたら、みんなで海行こうってことになって、女子男子3対3で遊ぶことになってさ。ダイスケ経由でもう女子三人決まってるけど、男子があと一人足りんのよ」


 そして、ようやく恵喜はちゃんと成り行きを放してくれた。


 「実質、コンパの数合わせか?」


 「そんな感じ。まぁ、ダイスケと俺の彼女が女子側にいるから、頷きにくくはあるけど」


 要約してみたら、ナチュラルマウンティングされた。

 本当に俺と何でつるんでいるんだろう、こいつ。

 彼女と一緒に帰れよ。

 ツッコミの皮をかぶった文句がつらつらと思い浮かぶ。

 浮かんだものから、コンプライアンス内の言葉をほいとすくい、訊いてみた。


 「彼女はどうなのよ。合同デートwith馬の骨男女だろ?」


 それに恵紀は少し考えて、答える。


 「ちょっと前にさ、いろいろとマンネリを迎えてさ。それをダイスケに話したら、昔、よくあったっていう合同デートやろうって流れになってさ。だったら、新しい刺激の要因で男女一人ずつ入れてみようっつー感じで」


 ははん、どうやら、俺と誰かは知らない女子はスパイスか何かと言う訳か。

 この野郎。

 罵詈雑言ではなくコンプラ度外視の暴言をかっ飛ばしそうになるがまだステイ。

 もう一段あったら、ブチギレてやる。


 「なるほどな。あれだろ、香辛料は男女それぞれのグループから持って来るって話になって、女子は早々に入荷して、ダイスケと女子の頭数の確保に一安心したまま、自分たちの在庫の入荷を忘れてて、安請け合いでお前が俺を誘って現在に至った流れだろ。ふざけんな」


 毒の漏れ出しを起しながら、どうせの推理を投げつけ、溜息を吐いた。

 どうやら、推理は当たったらしく、「おぉ」と小さく感嘆した恵紀は改めて聞いた。


 「その通り。で、どうする?行く?来る?」


 その利き方じゃ、どっちもYesじゃねぇか。

 ポケットからスマホを出し、近日の予定を確認した俺は予定を踏まえて、こう答えた。


 「行く」


 こうして、俺、雨屋あまや れんの夏休みは始まった。




EP 1  変ったなんて、言い訳だ



 8月2日、恵紀に誘われ、香辛料として投下される当日。

 俺は待合場所として決められた目的地の最寄り駅、その構内にあるベンチに座っていた。

 クーラーが利いた空間だからいいものの、外出なんてするんじゃなかったと後悔していた。

 現在の気温は31℃であり、本日の最高気温が33℃、最低気温ですら27℃。

 その、なんだ。

 バカじゃねぇの。

 天候が神様によって決められているのだとしたら、調整が下手なんてものじゃない。

 断ればよかった、文句を言うならその通りだろう。

 しかし、実のところ、誰にも誘われず何もないまま終わる夏を予定していた今年。

 何かしたいとは思っていたが、何をしたいかなど思い浮かぶほどの発想力はないままだった。

 誘われたら、どうであろうが乗ってやろう、そのつもりでいた手前。


 「屋内でやってくれないかなぁ…」


 そう小さく呟いてボヤくことしかできなかった。

 突然だが、音というのは振動の複合体な訳で、いつか振幅は小さくなり、帰ることは普段はない。

 そう、本来なら。

 しかし、返って来た。


 「せっかくなんだ。シケたこと言うなよな」


 その声に目だけ向けると、ダイスケこと、浜村はまむら 大祐だいすけがいた。


 「暑いからよぉ・・・」


 身長190㎝を超過し、筋骨隆々で高校生ではなく、何かのプロアスリートだろと思うようなダイスケはその体格によく似合う爽やかな笑顔で白い歯を見せながら言う。


 「まぁ、俺もそれはわかるさ。同調して室内へと籠りたいところだが、彼女の手前、同調すらできないだけだ」


 「お前、何者なんだよ」


 ダイスケの格好の付け方に俺は突っ込む。

 恵紀と仲がいいだけあり、何となく感性が似ている。

 そう思っていると、巨大な筋肉ダイスケの陰から小さい声が聞こえた。


 「暑いなら、暑いって言いなよ…」


 まさに、ひょっこりという擬音が似合うようにダイスケの陰から顔をだす少女。

 ダイスケの彼女である有岡ありおか さきだ。

 140㎝代の小さな身長でダイスケとは50㎝差ハーフメートルカップルなんて言われている。

 言っちゃ悪いが、ダイスケと有岡さんを見ていると巨木と小枝にしか見えない。

 ダイスケの筋骨隆々に反し、有岡さんはほっそりしているというか、ぶっちゃけガリガリな体型も相まってそう見えているのだろう。


 「あ、雨屋君…」


 ふいに、有岡さんが俺に小さな声を掛ける。


 「はい」


 それに変に畏まった返事を俺はする。


 「みんなで遊ぶんだから、だれかが付き合っているとかは気にしなくていいよ…」


 気遣いだった。


 「あぁ、うん。わかった。楽しもうぜ」


 だから、俺もその場の気を遣った。

 ダブルデートにスパイスを加えただけの本日。

 カップルに不用意に近づく気などはない。

 何なら、ステルスする気が満々だ。

 しかし、到着直後でステルスするのは礼節に欠けるというものだ。

 何気ない雑談を三人の間に流してゆく。

 そうこうしていると遠くから見知った声が聞こえる。


 「待ったー?」


 恵紀の声だ。

 三人でそこ声に顔を向けると、当然、恵紀の姿が50mほど先にあり、その後ろに恵紀の彼女である逢坂おうさか 海華梨みかりが誰かの手を引っ張ってこちらに向かっていた。

 誰か、というかは今回のスパイスの女子なのだろう。

 同じ穴の貉仲間。

 仲間は誰なのだろうか。

 クラスのメンバーの名前と顔なんて絡む奴くらいしか覚えてないから、気になったところで初対面のような反応なのは変わらないのだが。


 「いやー、ごめん。駅乗り間違えちゃった」


 こちらにたどりついた恵紀の開口一番がこれだった。

 五分だとは言え、恵紀達は遅刻していた。

 それなのにこんなに呑気なんて、恐ろしい。

 そんな彼にバシンと一閃の衝撃が後頭部に走った。 


 「少しは申し訳なくしろ」


 恵紀の後頭部をシバいた逢坂が締まりのないことに喝を入れ、俺たちのほうに顔を向けると、とても申し訳なさそうに話し出した。


 「本当にごめん、みんなで乗ったのは良いんだけど、快速に乗っちゃって、一戸先の駅までって感じでさ…」


 「…ううん、だいじょうぶ。そんなに待ってないから…」


 それに対して、有岡さんはまた気を遣っている。

 あまり待っている云々の話ではなく、恵紀だけは絶対に正したほうが良い、今後のためにも必ず。


 「咲ちゃん、いいんだよ!?なんだかんだで私を引っ張って快速に

乗り込んだ恵紀ばかが悪いんだし」


 マジかよ、恵紀。

 逢坂の気遣い返しで判明する新事実。

 俺はため息をついて、ダイスケの顔を見ると、その視線に気付いたダイスケももう何も言うまいというような呆れ顔で首を横に振った。

 なんだかんだで二組での会話がはじまりだし、いつ移動するのだろうと思い始めた頃だった。


 「今回、男子側で呼ばれたって人?」


 声を掛けられる。

 メンバーを見つつもぼうっとしていたせいで横に人が移動していることに気付けず、肩を驚きに跳ね上げてしまう。


 「あ、ごめん…」


 彼女はそんな俺に短く謝罪の声を掛けた。

 恰好悪いところを見せたな、そう思ってしまい声の主の彼女に視線をむけることさえできなかった。

 しかし、被害者同士、面を合せないのも何か無礼な様な気がして、少しの深呼吸で気持ちを改めて、できるだけ何気ないように顔を向けた。

 

 「あはは、びっくりしちゃってた?」


 俺の考えなんて筒抜けだったらしい。

 そこに立っていたのは、セミロングくらいの黒髪に青色のインナーカラーが映える髪を揺らしながら、優しく笑う少女だった。

 見たことある顔だ。


 「雨屋 蓮くん、でしょ?」


 「え、うん」


 いきなりフルネームで呼ばれ、俺史上一番しょぼい返事を返した。


 「あってた。私の名前、わかる?」


 その返事を確認すると、彼女は訊いた。

 見たことある顔、なのだが、名前が出てこない。

 いや、そうだ。

 名前なんて、どうだっていい。

 彼女の顔をどこで見たのかまで今、思いだした。


 「なんで?」


 俺は彼女に対し、思わず質問を質問で返した。


 「久しぶり♪」


 回答代わりのあいさつだった。

 

 「うわ、マジかよ」


 俺は事実に頭を抱えた。

 彼女は――――、


 「世界って狭いよね、ハス」


 水原みなはら 夢莉ゆうり、過去に両思いだった少女だから。


 「狭いよね。三年くらい空白が人にこんな変化を与えるって言うくらいには、世界は広いって思ってたのに」


 空を仰ぎ、俺はそう言わざる負えなかった。

 昔は黒髪ロングの地味で清楚な女の子だったはずだ。

 それこそ、今、目の前にいる彼女のようにインナーカラーとか、髪の隙間から覗かせるゴッテゴテに開けたピアス、それに巷で云う地雷系メイクなんて縁遠い人間だったはずだ。

 そのはずなんだが、そうじゃないと考えたものすべてに該当する少女が夢莉本人だと自分の経験と記憶が言っている。

 どこまで変わっても、その人である。

 その法則を守っていながらも、彼女自身の在り方が大きく湾曲して変ったのを感じる。

 だから、訊いた。


 「…何があったの?」


 その質問に変に優しく微笑んで、夢莉は言う。


 「聞きたい?」


 答えと取っていいのか、誘い水と取っていいのか。

 俺には、それを考える余地はなかった。

正確に言えば、考える余地はあったのに、その余地に気付けなかった。

 その末に、水は引かれず、出てこなかった。

 わちゃわちゃとお互いではしゃぐ四人の声が間に流れた。


 「…ねぇ、二人、どうかしたの?」


 冷たい水を止めたのは有岡さんだった。

 目の端に変な空気が流れているのに気付いたのだろう。

 本当に気を遣ってくれる人だ。


 「え、あぁ、まぁ、・・・うん、知ってる人だったわ」


 俺は有岡さんに迷ってから言った。


 「うんうん♪そうなんだ。咲ちゃん、私ら、中学時代仲良かったんよ」

 

 そんな俺に続けるように言ったくせに、真逆のテンションで夢莉は答えた。

 俺はそのテンションが何となく嫌になった。

 自分が知らないだけなのに。


 「…そ、そうなんだ。知らなかった。世界は狭いね」


 「ね♪」


 有岡さんの言葉に夢莉は同調した。

 なんだよ。

 とにかく、いい気分じゃなかった。

 だけど、俺がそういう雰囲気を出してしまっては目的に支障を来たしてしまう。

 だから、いろいろなものをしまった。


 「全員揃ったし、いくか?」


 俺は切り出した。

 それに一同は頷いて、歩みを進めた。




 砂浜の上、俺達は水着に着替え、目的地に拠点を設営していた。

 女子たちは逢坂の指示のもと、柔軟体操。

 設営自体は男衆がになっていた。

 中肉中背くらいの俺と恵紀はダイスケの肉体美に尊敬の眼差しを同時に送ってもいた。


 「すっげー、バルク」


 思わずだろう、恵紀がそう呟くと、ダイスケは爽やかな笑顔を浮かた。


 「どうだ?努力の賜物だぜ」


 そりゃ、そうだろう。

 しかし、同年代かと疑う程の肉体美にやはり、努力とだけでは言い表せない何かが在る様な気がしてならない。


 「まぁ、それにしても」


 ダイスケは早々に自分の肉体への賛美を断り、視線を女子たちへと移して頷いた。

 あ、コイツ。


 「うん、わかるよ」


 恵紀も同じく視線をそっちに向けて頷く。

 コイツもか。


 「咲はかわいいな」

 「海華梨はかわいいな」


 同時に言った。

 彼女自慢かよ。


 「眼福でよろしいようで」


 俺はどうでもよく言って、設営に集中した。

 そうこうして、俺達も準備体操を済まし、海へと足を運んだ。

 パシャパシャ、バシャバシャ、足音を聞きながら、俺は拠点のパラソルの下、レジャーシートの上に座って、みんなを眺める。

 カップルでチームとなり、夢莉を審判にバレーっぽい、とりあえずボールを落としたら負けのゲームを繰り広げていた。

 楽しそうだ。

 俺が入り込まないのは、持ち物が盗まれないように見張りをするため。

 なんてものは建前。

 カップルの邪魔をしたくないという気持ちと、記憶に在った姿ではなくなった夢莉と接することが難しいと判断したからだ。

 人は変わるってわかってたけども、連絡もいつしかめっきりなくなっていたから、そうなのかなって思ったけど。


 「きっつ」


 俺は夢莉ゆうりの何なんだよ。

 そういうツッコミが自分から鳴って、思わず客観的な感想を口に出した。

 考えるのは、辞めよう。

 そのつもりで、潮騒に耳を傾け、呆けることにした。




 「ハス」

 「んぉ!?」


 呆けてしばらくたったころ、名前を呼ばれて、情けない声をあげた。

 もう二回目だよ。


 「夢莉、なんかあったのかよ」


 俺は言う。


 「ビックリした?二回目だねぇ♪」


 名前を呼んで一本取ったような殊勝な表情の夢莉が隣に座った。

 並んだのは良いものの、何もなかった。

 会話も、動きも。

 呆けていた時と同じくらいに。

 でも、せっかくなんだから。

 そのつもりで、俺は口を開いた。


 「いいのかよ、混ざらなくて」


 あっちいけ。

 なんて気分ではあった。


 「いいんだ。ハスだって混ざらなかったじゃん、のっけからさ」


 でも、夢莉に言い返された。

 それにぐうの音も出なかった。


 「それに、うーん、イチャイチャしそうな流れだったしね」


 苦笑いを浮かべて、彼女は理由を加えた。

 「ふーん」とだけ、俺は返事する。


 「久しぶりに話そうよ」


 何もわかってないのか、なんなのか。

 いやわかんなくて当然か。

 彼女は切り出した。


 「話しか」


 避けたいんだよ、そんな代わりに反芻。

 遠ざける言葉はナンセンスだ。


 「そう、お話し」


 二人だけで拒絶なんて喧嘩別れくらいだろう。

 さらに重ねる彼女の声にそう思った。


 「夏振り?」


 だから、地平線を眺めながら、話題を提供した。


 「中二の夏振りだね」


 ニコニコと楽しそうに笑いながら、彼女は頷いた。

 そして、続ける。


 「あの後さ、転校して、新しい場所からでも連絡するね、なんて言って、しなかったじゃん」

 

 「うん」


 「転校先の、その地元で出会った人とさ、付き合ってたんだ。中三の秋ごろから」


 「そうだったんだ」


 「でも別れた」


 「いつ?」


 「高一の夏頃かな」


 「そうなんだ」


 「合わなくってさ」


 「へぇ」


 「今はハスと別の学校にいるけど、夏休み明けからハスと同じになるんだよ、学校」


 「え、転入?」


 「うん。転入試験、ムズかったよー♪」


 「良く受かったな」


 「えへへ、だからさ、夏休みの間に引っ越して、すぐ、バイト見つけて、そこで海華梨となかよくなってね」


 「逢坂と有岡さんが同じバイトだから、それ経由か」


 「そゆこと」


 「そうか」


 会話だけ。

 向こうはどうかわからないが、こっちは会話だけをした。

 興味とかは全部置いといて。

 そうなんだ、くらいで。


 「じゃあさ、ハスはどうだった?私が知らない時間でなんかあった?」


 だから、彼女がそう訊いて、俺はこう答える。


 「何もなかったよ、普通に」


 どうにだって使える言葉で返した。

 嫌いなわけではない。

 線を引かなきゃ、なんか駄目な気がしたから、線の内側で投げれる球を投げる。


 「普通かぁ。そうだよね、普通はそうだね」


 彼女は笑う。

 ふと、離し続けてた目線を彼女の顔に向けた。

 笑えてはいないような、そんな笑顔だった。

 多分ずっと、俺の顔を見て話してたのだろう。

 椅子の向きが少し俺側に傾いていた。

 そして、また視線を逸らした。


 「ねぇ、ハス」


 彼女が改めて、声を掛けた。

 返事の視線をまた彼女に向けた。


 「なんか遠いね」


 少し寂しそうな笑顔を浮かべた彼女がそこにはいた。


 「遠いんじゃなくて、変わったんだよ、多分」


 視線を海へと向けて、俺は行った。

 精一杯の答えだったから。

 女々しいな。

 なんて、思った。




 一度、みんなでビーチバレーをしようという事になり、カップルにスパイス一人を一つまみ、2チームスリーマンセルで何回か戦い、昼食をとった、そのあと。

 なんだかんだやって、夕暮れが空にちらつき始めた頃。

 カップルたちはなんかやってるんだろう、あたりには見えずにまた、夢莉と二人きりになった。


 「ビーチバレー楽しかったね」


 夢莉がまた隣りで話し出す。


 「あぁ」


 短く、俺は返した。


 「ハス」


 夢莉は名前を呼んだ。

 俺は何も答えず、彼女へと向いた。


 「ねぇ、どうすれば、近づけるかな」


 彼女はそう言った。


 「…距離が変わっただけだから」


 また、言い訳をした。

 わかっているんだ。

 彼女は昔のように気兼ねなく話したいだけなんだってこと。

 俺がカノジョの見た目や話し方の変化についていけてないだけだってこと。

 彼女が未だに自分のことを忘れたままんんじゃないかって思いこんでいるだけってこと。

 全部わかってる。

 自分で話した距離を変わったって言い訳してるんだから。


 「どうしようもないよ」


 そう言った俺に彼女はずっと笑っていた。

 ずっと俺を見て、明るく装って、笑っていた。

 そこからはずっと無言だった。

 浜辺に敷かれたレジャーシートの上、隣り合う影が砂浜に映っているだけだった。




 いつしか暗くなって、電車に揺られているのは俺と夢莉だけになった。


 「まさか、夢莉の引っ越し先が俺の家から近いとは…」


 「まさかだね。今後は昔みたいにまた一緒に学校行ったりする?」


 「ばかいうなよ」


 「うへへ♪」

 

 他愛のない会話をそこでする。


 「ハス、家来る?」


 「行かねぇよ」


 「そしたらさ、ハスの家、行っていい?」


 「くんな」


 「えぇ、いいじゃん。久しぶりだよ?」


 「…、…今度な」


 そんなタイミングで電車は止まった。

 降りる駅だ。

 二人は顔を見合わせて、電車から降り、駅を出て、何も言わないで、俺は少し方向の違う夢莉の家まで送る様に歩き出した。


 「久々のハスの家、楽しみだ♪」


 「今日じゃないし、決まってもないのによくそんなに楽しみにできるな」


 「えへへ、だって、昔、よく遊びに行ったじゃん」


 「来てたよ、もう数えられないくらいに」


 「勉強会とかもしたね」


 「どっちも伸びたり、伸びなかったりだったけど、よくやってたよ」


 「楽しかったなぁ♪」


 「そりゃ、よかった」


 「あ、そうだ。ハス、連絡先教えてよ」


 「何の」


 「電話番号とメールアドレスとチャットアプリのアカウントとSNSのアカウントとマイナンバー」


 「欲張りかよ」


 「それじゃ、チャットアプリのアカウント」


 「いいぞ」


 お互いのスマホを出し、QRコードでアカウント情報を読み取り、アプリ内にチャット相手として、夢莉が現れる。


 『文面だよー。ちゃんと送れてるかな?』


 『送れてる』


 『おぉー』


 チャットで夢莉と短い応答をする。

 話せよ。

 そうちょっと思ったが、何となく慣れた。


 『ねぇ、ハス』


 『文面でもその切り口なんだな』


 『いつハスの家行っていい?』


 『一週間後は完全にフリー』


 『日曜?』


 『ニチアサ見るわ』


 『まだヒーロー番組見てるの?』


 『基本、見てない。でも、ダイスケから勧められたのは見た』


 『ダイスケ君そういうの好きなんだ』


 『アイツ、オタクだぞ』


 『へぇー、今度、私も面白いのあるか聞いてみようかな』


 『女児向けの奴も見てるから面白いんじゃないか?』


 チャットは不意に止まり、夢莉の足もそこで止まる。


 「私の家ここなんだ」


 マンションへと彼女はそう言って進む。

 どうやらその一室の彼女の住処はあるようだ。


 「じゃあな」


 俺はそれだけ言う。


 「うん、またね」


 夢莉もそう言って返し、エントランスを抜けて、歩いて行った。

 その背中を少しの間見て、さっきまでの会話に懐かしさを覚えたことを思いだし、そこをあとにした。





EP2 知らないことがこわい事だった



 これは昔のことだ。

 雨屋 蓮は水原 夢莉は仲が良かった。

 小学校からずっと良く遊ぶ中でお互いの家族も二人の仲の良さに付いて行くように良好な交友関係を築いていた。

 小学校高学年くらいからだろうか。

 二人は互いのことを男女として意識し始めた。

 小さな恋だ。

 稚拙で曖昧な物。

 周囲は男女で仲良くともに行動する二人のことを囃子立てる訳でもなく、いつもの光景になっていた。

 周囲は何かを言うなんてことはしなかった。

 仲が悪かったり、二人ではない日は周囲はむしろ、心配していた。

 だから、二人の間の恋情を邪魔する人間なんていなかった。

 しかし、その恋情を抱く二人はそれを打ち明けることが出来ずに、お互いが好き合っているなんて知らなかった。

 それでも二人の毎日はずっと続いていた。

 二人は中学に上がり二年目の夏を過ごそうとしたその手前のある日。

 父親の転勤という理由で水原 夢莉は転校することになった。

 遠い他県への転勤という事もあり、単身赴任するわけにもいかない事情が彼女の両親にはあったらしく、彼女は長年ともにしてきた雨屋 蓮と別れることとなった。

 別れの品に水原 夢莉は雨屋 蓮に一通の手紙を送った。

 そして、別れ際に約束をした。

 『返事は引っ越し先に送って。離れても連絡を取り合おう』

 手紙はラブレターだった。

 その時、初めて二人は両思いだったと気付いた。

 雨屋 蓮は返事を改めて、手紙にした。

 しかし、その手紙は数日後、彼の元に戻ってきてしまった。

 理由は住所が違う。

 実は水原家が引っ越そうとしていたアパートがいろいろな事情で取り壊され、空き地になってしまい、また別の引っ越し先に急遽、変更しなければならなかった。

 そこから、水原 夢莉からの手紙は来ず、雨屋 蓮との関係は空中分解され、過去の思い出となってしまった。

 それが、雨屋 蓮の水原 夢莉という少女との記憶だ。




 蒸し暑い夜、十時程だろうか。

 俺は、手紙を見ていた。

 かわいらしい丸文字で『ハスくんへ』と俺のあだ名が掛かれている。

 いつしかのラブレター。

 破いて捨てようかなんて考えても、わかりやすい両思いだった親友との品を捨てるのはどうしても抵抗があって、捨てることが出来ずにいた。

 住所とかそういうのは、別に思うところはない。

 しかし、いくら待っても彼女からの手紙、連絡の一つも来なかったあの頃を思い出し、移り変わる現実を何となく知った気がした。

 悲しかった、そんな感情のしこりは心に残っているのを未だに感じている。

 黒く長い髪を小さく揺らし、照れたように笑った地味だけど、可愛らしい記憶の中の夢莉は記憶の中のまま。

 記憶に価値はあっても、それ以上にどういう事にもならない。

 今。

 ただそれだけ。


 「あー、忘れられないのなー…」


 手紙を机の上に置き、スマホを手に持つと、棒読み気味に自室のベッドに寝転がって呟いた。

 未練がましいったら、この上ない。

 情けないと自分が笑えて来る。

 夢莉との再会から、二週間ほど過ぎて、チャットアプリの彼女とのチャットスペースを眺める。

 あの日から何も動いていない。

 恵紀や、ダイスケ、逢坂の良く話す奴らの履歴が上にあがり、ごくまれに、ダイスケの扱い方を相談してくる有岡さんの履歴があり、それよりももう少し下に夢莉との履歴があった。

 多分、交換するだけなんだろうな。

 そう思った。

 どうせ、そういうことなんだろう。

 くよくよとした感情のまま、スマホも枕元に置いて、ただただ天井を仰ぎ見た。

 そんなタイミング。

 ピコン♪

 トークアプリの通知音だ。

 誰だろうか。

 疑問符の中で、再び、手にしたスマホの画面には、夢莉のアカウントが表示されていた。

 少し驚いた。

 しかし、その驚きもすぐさまに冷めて、無感情にチャット画面を開いた。


 『ごめん、二週間過ぎちゃった』


 文面を見て、まだ忘れてなかったんだと思う。

 ほっとする気分と裏腹に忘れろよという気持ちが同居していた。

 真逆なのに、矛盾はなぜか、納得として、心に居座った。

 そして、チャットに文章が追加される。


 『まだ遊ぶ約束は有効かな?』


 俺はそれに返した。


 『有効だよ』


 間も置かず、返信が返って来る。


 『やった。それじゃいつなら大丈夫?』


 『今週はいつでも』


 『おぉ♪』


 『で、いつ来るの?』


 『楽しみにしてるじゃん!えっとね、明後日とかどう?』


 『いいぞ、まる一日分は空いてる。楽しみどころか、憂鬱だけどな』


 『ほんとはうれしいくせに』


 『うるさ』


 『じゃー、明後日の昼に行くから、家を空けずに待ってね!』


 俺はそれに返信を返さなかった。

 それで会話が終わる事を知っていたから。

 そしてまた、ぽいとスマホを枕元へと戻すように投げた。

 うれしかないや。

 そんな言葉だけ浮かんで、水の泡のように、時間がそれを弾いた。




 来たる当日。

ピンポーン。ピンポンピンポンピンポンピンポン。

 ご機嫌なドアチャイム連打が午前十二時ちょうどに鳴り響く。

 俺の家のチャイムはゲーム感覚で連打していいボタンでは、少なくともない。

 チャイムが壊れる前に、足早と玄関に向かい、ドアを開ける。


 「お邪魔しまーす♪」


 笑顔で立っている夢莉の開幕の挨拶に、


 「邪魔どころか、のっけから邪悪だよ」


 俺の文句が交わされた。




 「久しぶりに来たよ」


 夢莉は俺の部屋に勝手に入るなり、ベッドに腰かけてそう言った。


 「よく家の場所が分かったな」


 そんな俺の疑問に対し、呑気な声で彼女は答える。


 「いやー、この前、一緒に帰ったとき、馴染みのある場所を通ったからね。小学校から住所変えてないなーって」


 御名答だ。

 まぁ、確かに、よく考えれば、小学校からずっと実家暮らしで住所も変わっていない。

 元住んでいた場所と大して変わらない場所に戻って来た彼女からすれば、住所を断定するのは容易いことだろう。


 「それにしても変わらないねぇ♪ベッドは変わっちゃったけど、机とかはそのまんま」


 彼女はベッドの上から部屋一面を見渡し、感慨深そうに言う。


 「変える必要ないからな」


 彼女の前に机の椅子を置き、そこに座ると、余計な一言なのだろうと思いながら返した。


 「だよねー。私、昔のもほとんど捨てちゃったよ」


 「え?」


 返された言葉に、思わず聞き返した。


 「いやいや、いろいろあってさー」


 たはは、なんて明るく笑う彼女に何か、かげを覚えた。

 だから、海じゃ、変に嫌悪したくせに、言った。


 「夢莉」


 「んー?」


 「お前、どうかしたのかよ」


 とても端的だけど、何となくわかりやすい、指さずとも指す言葉で訊いた。


 それに、夢莉は苦笑いを浮かべながら言う。


 「聞きたい?」


 それに、俺は頷く。


 「あはは、やっぱりそうだよね。うん、何となく聞かれるとは思ってた」


 苦笑いを隠すような明るい笑いで、彼女は語り始めた。




 私ってさ、前は押しに弱くて、自分の意志はすぐ他人に委ねちゃう感じだったじゃん。

 それが悪かったんだろうね。

 中三の時、転校した先の学校でいじめられたんだ。

 すでに派閥が形成されてるっていうのもあって、何処にも入れなくてさ。

 いやー、きつかったね。

 無視だけならともかく、陰湿。

 噂流すとか、誰かがやった駄目なことをあたかも私がやったように擦り付けられたり、個人情報がネットに流れたり、誰かの経血がついたナプキンをバッグに知らない内にモッサリと入れられたり、学校裏で裸にされたりってのもあったね。

 ひどかったよ。

 でさ、ストレスって、人を変えるもんでさ。

 私、狂暴になって、壁が壊れて、どーでもいーやって。

 そう思って、夜にお外に出歩く様になっちゃってね。

 すごいよ。

 もうやっちゃいけないことバンバンやっちゃって。

 そんな時に、悪い男の人にあってさ。

 あー、私この人に連れ込まれるんだなー、人生狂ってるからどこまで壊れるんだろうなーとか、思いながら、家についていって、中学三年の秋から高校一年の夏までの一年ちょっとの間、実家とその男の人の家を行ったり来たりしてたんだ。

 でさ、その生活の間、その男の人と付き合っててね。

 確かその人は大学生って言ってた。

自称だったから、もしかしたら違うのかもしれないけど。

さっきも言ったけどさ、私、自分がないからさ。

彼がこうやれ、ああしろっていう事、嫌われないように、全部、聞いたよ。

髪型変えたし、ピアスめっちゃ空けたし、スプリットタンにもしたよ。

いろんなことも覚えた。

いやもー、そりゃ、いっぱい。

多分、同い年の子たちがしたことない事、大体は経験済みかもね。

そんだけやってたけど、彼からしちゃ、程よく、若い女の子が言いなりになってくれるって感じだったんだろうね。

 ある日、彼の家に居たらさ、知らない男の人たちが彼と一緒に来てさ。

 まぁ、うん。

 あとは何となく察せると思うけどね。

 でも、あえて言うよ。

 私とのコトをどっかで撮っててさ。

それ、仲間に売って、お金稼いでたんだよ。

 で、その仲間を連れて、私ごと売ろうとしたんだよ、その日。

 でさ、今でもなんでそうだったのかな。

 わからなかったんだけど、彼のこと好きだったからさ。

 好きだったから、頑張って、怖かったり、痛いことも覚えて、彼に染まっていったのにさ。

 裏切られた気分っていうか、本当に裏切られたんだけどね。

 怖い痛いに勝ってた好きがその瞬間、負けちゃって。

 怖くて、暴れて、逃げたんだ。

 そこからさ、好きがグッて冷めてね。

 もう嫌になったんだ。

 でもさ、人間ってすごいんだよ。

 趣味とか、趣向とかがさ、そのままなの。

 染み付いたものは取れないってことなのかな。

 今もそうだから。

 でもさ、そういうの以外は違ってね。

 今までなんでこんなことしてたんだろうとか、知らなきゃよかった、よかったんだ、あげなくてよかったんだとか、とか。

 後悔と虚しさが凄かった。

 でさ、やっぱり他人に委ねてたらさ、その誰かが居なくなった瞬間に何 もかも崩れるんだ。

 これもある意味、洗脳みたいなものなのかもしれないけどね。

 なんにも、できなくなっちゃったんだ。

 それで、自分のことを考える時間が出来て、この時に初めて、自分のことがどうでもよくなんかないって思い始めた。

 一応ね、元カレと別れるとか、そういうことされろうになったって、パパとママに話したんだ。

 勿論、色々あって、警察のお世話にもなったりして、裁判とかいろいろ、パパとママにやってもらってね。

 私はその間、精神科に通って。

 まぁ、この時期のことはわたしの頭の中がぐちゃぐちゃ過ぎて、細かくは覚えてないんだけどね。

 それでも、精神科の先生のカウンセリングで自分のことを考えるようになったのは言えるかな。

 うん、少し逸れちゃったけど、顛末はね、あっさりしてて。

 元カレは逮捕さえれて、元カレの家族から慰謝料をもらった。

 私は今も精神科に通ってる。

 こんなかんじかな。




 夢莉が話したことは衝撃的な事だった。

 連絡すらなかった理由も察せたし、変わったわけも、わかった。

 でも、俺は、彼女の親友だった人間、雨屋 蓮として、言いたいことを言うことにした。


 「なんで、むしろ、なんで、連絡してくれなかったんだ」


 それに、目を伏せて、笑顔を崩さないようにと表情を作る夢莉は返す。


 「どんなに仲良くても、好きでもね、どうしようもできないって思っちゃったんだ」


 それに俺はどうしてもと言う。


 「俺だって、好きだったんだ。何があっても、投げ出してでも、お前のところ行ってたよ」


 多分、今初めてだ。

 当時、俺の答えは届かなかった。

両思いだったという事は知らなかったことだろう。

 俺の言葉に目を丸くして、夢莉は驚いたような表情を作った。

 そして、まん丸と開いた目を何度か瞬きさせたあと、夢莉は笑った。


 「なぁんだ。なんだよ。両思いだったんだ。私、勝手に思い込んじゃった。それで、ハスが好きだったってしちゃって、どーでもよくなっちゃって」


 彼女の頬を水滴が伝った。


 「わたし、ばかだね」


 必死でこらえて、笑顔を夢莉は作る。

 ばかなんかじゃない。

 そう言いたいが、言えない。

 言えそうにない。


 「私、どうしよう」


 夢莉は言う。

 涙をぬぐって、ぐちゃぐちゃの顔で言う。


 「何も持ってないよ…。何にもないよぉ…」


 …。

 俺は後悔していた。

 再会した彼女に代わって知らないモノになっていたからという理由で怖がって。

 遠ざけて、勝手に失望して、嫌っていた。

 俺は、何もしてあげることが出来ない。

 いや、何かするほどの立場にすら、立ててはいない。


 「ごめん」


 俺はただ謝った。

 涙を流しながらも笑顔でいる彼女にただ、ただ、謝る。


 「夢莉、ごめん。ごめん。俺が悪かった」


 謝る事しかできなかった。

 涙に謝罪。

 再開した人間同士がやるもんじゃない。

 でも、俺と彼女のそれがこれなのかもしれない。

 夢莉は笑顔をやめて、泣き顔だった。

 涙も鼻水も全部こぼして、その表情を見ないように俺は頭を下げた。





EP3 新しい私から今までの君へ



 時間は過ぎて、俺は気付けば、夢莉の隣に座っていた。

 夢莉は疲れたのか、うつらうつらと船を漕ぐ。


 「・・・夢莉」


 「何?」


 俺の呼びかけに少し目を醒ましたのか、短く訊き返した。

 それに続けて、俺は夢莉に話して、彼女は相槌を打った。


 「俺さ、変わった夢莉を見たとき怖かったんだ」


 「うん」


 「それで、遠ざけちゃってさ」


 「うん」


 「だからさ―――」


 続けようとした言葉を遮るように、彼女は言葉を挟んだ。


 「もう聞いたよ。そのさきの言葉」


 わかってた。


 「だよな」


 やっぱり。

 さっき、たくさん言ったもんな。


 「私もわかってたんだ。なんで、ハスが避けてたのか」


 「…」


 言葉にならない音が俺の喉からでた。


 「怖いもんね。高校デビューにしても、異常だもんね」


 「ごめん」


 「あーもう、ほら、謝った」


 「ん・・・」


 思わず、手で口を覆ってしまった俺に彼女は笑う。


 「あはは、カッコわる。さっきは肩を抱いてくれたのにね」


 「・・・え」


 そんなことしたっけ?

 いきなり提示された気づいてない事実に唖然とした。

 確かに気付いたら、夢莉の隣にはいたけども。


 「そんなことしたっけ・・・?」


 「えー?してたよ。すっごくうれしかった」


 「え、あ、うん」


 嬉しそうな、でもその行為を覚えてないことにがっかりしたような表情な彼女に、俺は煮え切らない反応を俺は返してしまう。

 そして、夢莉は一息ついて、俺の方へ体を向け、顔を近づけていう。


 「ねぇ」


 夢莉の顔を久しぶりにこんな近くで見たかもしれない。


 「私さ、自分のこと考えて、わからなくなったものをずっと探してて、気付いたんだ」


 そう言って、俺の両肩に夢莉の両手が乗り、彼女の体重がかかる。

 もさ。

 ベッドに決して、激しくはない音が響く。

 夢莉は俺を押し倒した。

 ずっと近づいた顔が少し離れ、天井の替わりにじっと俺を見つめる両の目が少し潤んで輝いた。

 

 「聞いて、ちゃんと」


 彼女の声色は少し震えていた。

 でも、俺はそれに意思を返す。

 首を縦に振る簡単な行為だけ、それだけでも。


 「・・・うん、言うよ。変わっちゃった私だけどさ、今でも変わらないハスに、あの時、ちゃんと言えなかったから」


 夢莉は息を飲む。

 飲んだよりも深い感情が俺に投げられるのだろう。


 「ハス、ううん、蓮くん」


 依然として真っ直ぐ向けられる彼女の視線に今度は逸らすことなく、俺は応じる。


 「あぁ」


 短い返事に、彼女は優しい笑顔で貯めた言葉を口にした。


 「好きだよ」


 四文字。

 長いと回り道をして、ようやく口にできた言葉。

 彼女の思いに、届けられなかった手紙はとっくに捨ててしまったけど、その便箋をポストに入れた、届けた気持ちのまま、返す。


 「俺も好きだ」


 三年越しの告白。

 俺はその感覚に高揚し彼女を抱き寄せた。


 「わ」


 小さな悲鳴と共に、もっと、その重さが俺の身体に伝わった。


 「積極的、だね」


 彼女は照れくさそうにそう言った。


 「いいじゃん」


 俺は少しわがままに、答える。

 昔、あの頃だってそうだった。

 俺がちょっとわがままを言って、それをやれやれと夢莉が付き合ってくれた。

 いま、久しぶりにあの頃に戻れたような気がした。


 「じゃあ、いま、する?」


 彼女の問いに俺は身近う笑って返す。


 「恵紀が言ってたぞ。シてるときの愛の言葉は鳴き声みたいなもんだって、それに・・・」


 「それに?」


 「そういう好きなんかじゃないからな。その段を踏むとしても、今じゃない」


 答えに夢莉は納得したらしく、彼女も抱き返して、言う。


 「えへへ、そしたら、ハスが初めての彼氏だ」


 表情は見えなかったが、耳元で嬉しそうに零れたその言葉だけで、俺は嬉しかった。


 途切れた初恋は、再開して、成就した。

 今日はそんな日だった。





EP4 サイアイ、カノジョ



 付き合ってから、数日が立ち、チャットアプリに通知が一件。


『産みにいこー』


 はぁ?

 唖然とした俺にまた通知音が届く。


 『誤字った。海に行こー!!』


 すさまじい誤字だった。

 いったい何を生み出すのかと、一瞬、恐怖してしまったが、それは胸にしまって、返信。


 『いつ行く?』


 今度は乗り気で。

 毎日、連絡は取っているけど、今回は電話はしない。

 ワクワクしときたいから。

 ちょっと気持ち悪いかな、なんてことを考えている内に、通知音。


 『四日後はどう?』


 すぐさまカレンダーとスマホに残してある予定を確認して、即応答。


 『オッケー』


 こうして、俺と彼女のリベンジ海水浴が決定した。




 当日、宿泊できるコテージに俺たちはいた。


 「広いね♪」


 目を輝かせて、夢莉は楽しそうに言う。

 今の彼女らしい服装でいる彼女の背中を見て、思う。

 あの頃と変わっても、変わることの何がわるいのだと。

 避けたのは知らなかったから。

 変ってしまった彼女と、絶たれた時間。

 今は、変わっても、その変化に対して、まだ慣れなくても、そういう変化もあるし、そう変わっても受け入れなくてはいけない、そんな気持ちが芽生えている。

 別に多様性がどうこうではなく、その在り方はどうあってもいいのかも。

 なんて。


 「ハス、ベッド、見に行こう!」


 コテージの居間にあたる部分は見終えたようで、二階建ての二回に位置する寝室へと足早に上がって行った。


 「あぁ」


 子供のようにはしゃぐ彼女を追いかけるように俺も、荷物を持って上へと向かった。




 寝室は当たり前だが、一つしかない。

 寝るときは、まぁ、致し方なし。

 しかし、着替えるしかり、そういうタイムングでは、優先的に夢莉がつかうことして、俺は彼女の使用後に使うという事になった。

 という事で、海水浴場へと向かう準備のため、俺は寝室の前で待っている。

 遡るほどでもないが、夢莉が服の下に水着を着たいといい始めたので今にいたる。

 小学生の頃、プール学習で夢莉と二人そろって、服の下に水着を着て、着替えの下着を忘れた思い出が浮かんできた。

 あの頃よりは忘れ物はなくなったが、未だに小さい忘れ物をしている自分になんとなく苦笑いがこぼれた。

 しばらく待つと、寝室のドアが開く。


 「ゴメン、待たせちゃったよね」


 着替えた夢莉をみて、言う。


 「待ってないよ」


 本心。


 「そっか」


 俺の答えに安心したように笑って、夢莉は俺の手をとった。

 引っ張られる自分の身体。

 その後に昔の自分たちがいる、そんな気がした。

 引っ張る、引っ張られる、互いに入れ替わったけれど。




 バスで移動し、最低限の荷物だけ持った俺たちは更衣室兼、貸出ロッカーに貴重品を預け、水着で砂浜で準備体操をしていた。

 デジャブにも似た光景の横で、自分も参加しているという事実に不思議な気分になる。


 「よし!体操終わり!遊ぶ!!」


 片言になっている夢莉に笑いつつ、また引っ張られる。

 移動は基本手を繋いでいる気がする。

 どうでもいい位に当たり前になっていたけど。


「ねぇ、ハス!!」


 手を放し、先に掛けた夢莉は手で水を掬うと勢いよく俺にかけた。


「むご」


 顔面で受ける。

 おかげさまで、情けない声が出た。


 「あはは、情けな♪」


 悪かったな、なら―――。


「やりかえしてやる」


 そう言って、海へと俺も足を踏みいれた。




 気づけば、夕暮れが海を照らし、オレンジ色の光線があたりに乱反射している。


 「もうこんな時間になっちゃった」


 太ももくらいまでの水位がある場所で夢莉はその景色を見ていた。

 隣りと言うには少し離れたところで俺は彼女を含めた景色を見る。

 彼女の髪が風に揺れ、夕日の逆光の中、乱反射した光が彼女を淡く照らし、瞳はさらにうっすらと反射光を作り出している。

 きれい。

 その言葉以外が見当たらない。

 息をのんだ俺に、彼女は視線を移した。

 そして、見惚れる姿を見て、照れるような、楽しいような、明るい笑顔を送った。


 「見惚れた?」


 夢莉は訊く。


 「あぁ。これ以上ないくらいには」


 あえて、気障なセリフを返した。




 更衣室の外で待ち合わせ、そういう約束をして、俺は約束通り待ちぼうけ。

 男は着替えが早いのだ。

 女子はいろいろあるから比較的遅い。

 常識扱いされている事実だろうか。

 まぁ、遅かれ早かれ、どうでもいいけど。

 

 「ヤバイ」


 そんな一言と共に、夢莉が戻って来た。

 しかし、何というか、普通ではない様子。

 腕で胸をかくして、少し内股気味。

 見たことがある。

 

 「え、もしかして、着替えの下着、忘れた?」


 予想を行ってみると夢莉はうなずく。

 大正解、図星のようだ。


 「下はショートパンツだから、大股さえ開かなきゃだけど、上はシャツだけだし・・・」


 「本当になにやってるのさ」


 理屈っぽいことを行っている夢莉に俺はほんの少し呆れながら、上着を掛ける。


 「あ、いいの・・・?」


 ちょっと驚いたような表情でそう訊く彼女に、俺はあまり、目を向けないようにうなずいた。


 「シャツの上に着れば、ほら、浮かないだろ」


 言うのも恥ずかしかったが、言われた方も恥ずかしかったようで、顔を赤らめながら、


 「えっち」


 夢莉は俺に言った。

 表情と言い、言葉と言い、現実離れしたようなもので、俺は、変に恥ずかしくなる。


 「持ってくりゃいい話だろ」


 どうしようもなく、単に正論だけ言って、俺は帰路に就こうと歩き出した。


 「まってよ」


 その一言と同時だっただろうか。

 腕に温かさと柔らかさと重さが加わった。


 「エロ野郎にはこうしてやる」


 なんの仕返しだろうか。

 夢莉は腕に抱き着いて、してやったりというような表情を浮かべる。


 「エロ野郎言うな。そんなこと言ったら、ノーブラで抱き着いてくる方が痴女だろうが」


 売り言葉に買い言葉。


 「痴女ってなんだ。ハスだって、今もしっかりチラチラおっぱい見てるでしょ」


 昔はなかったであろうノリ。


 「見て何が悪いよ。男はおっぱいが好きなんだよ。押し付ける奴に問題があるね」


 ケンカ漫才、そういう言葉が一番合うだろう。


 「言うね!私はわざとやってんの!」


 わかってるんだからケンカにならないし、楽しいだけ。


 「痴女じゃん!やっぱ、変態はそっちじゃん!」


 言いあう俺たちは笑顔で、二人で道を歩いて行くだけだ。

 これは今だからこそできること、なんだと思う。




 夜になり、あらかじめ買っておいた材料を使い、二人で修学旅行気分になりながら、カレーを作り、夕食をとって、その後。

 また着替えるといって、夢莉は寝室へと向かった。

 また待つことになった俺は食卓の椅子に座り、何をすることもなく待つ。

 待ってばかりだが、待つことが楽しくはある。

 決して暇じゃないのは、どうしてなのやら。

 知る気なんてない答えを頭に浮かべる。


 「見て」


 そんな声に俺は体ごと向ける。


 「あ」


 向けた先にいる夢莉に小さな声を挙げて、息を飲んだ。

 思いだす。

 真っ白なワンピース。

 何か大切な日にしか着ないなんて、子供のころ言ってた服装。

 その服自体は違うが、それでも、俺はその服装を記憶していた。


 「えへへ、どう?」


 照れくさそうに笑う彼女に思い出の好きだった彼女とまた会った気分になった、そんな気がした。

 遠く遠くの感情が引き起こされてゆく。


 「どう?似合ってるかな」


 夢莉は訊く。

 俺は、昔と変わらない言葉を返す。


 「うん、似合ってる」


 あの時から、変わらないモノ。

 なのかもしれない。


 「えへへ、ありがと」


 照れ隠しのようにまた彼女は笑った。


 「かわいい」


 そして、あの頃からもう一歩だけ、付け加える。


 「・・・、知ってる♪」


 少し驚いたような顔から、取り直すように笑顔になって、彼女は答えた。

 自信にあふれているような、そんな笑顔の彼女に俺は見惚れて、それが自分の好きな人で、彼女なんだ。

 愛しい彼女の姿に言葉が浮かんで、浮かんで、吐き出すには、形にするには、まだまだ足りなくて。

 どうしようか、考えても、わからなくて。

 とまどったその時。


 「ねぇ、外、出ない?」


 そんな言葉で、また手を引かれた。




 外に連れ出されて、コテージから少し離れた場所まで来た。


 「見て、空」


 夢莉がいうように、俺も見上げる。

 星空。

 宝石箱、なんて簡単な言葉で済ましたくない。

 今の俺の持てる言葉を散りばめても、それに値できない。

 だからこそ、この言葉を使うべきだと思った。


 「綺麗だ」


 呟く様に、口から零した。


 「・・・ねぇ、覚えてる?」


 その中で、夢莉は訊く。

 俺は答えずに空を見続けた。


 「中一のころにさ、ここじゃないけど、一緒に星を見たの覚えてる?」


 「覚えてる」


 「そのときさ、私、ハスに告白しようとしてたんだ」


 「知ってるよ。その時も白いワンピース来てたからな」


 「だよね。私の白いワンピースっていつもそういう感じだったし」


 「昔っから、楽しい思い出にしたい時とか、何かをやりとげたい時とか、大切な時に来てるもんな」


 「ゲン担ぎっていうのかな。何となく、好きだったんだ。それがずっと続いたら、そうなってて」


 「あやふやだな」


 「あやふや。そうだよ。私らしくて、唯一、私らしくない。そんな決めてて、変えたくないもの」


 「…今日は何なんだろうな」


 「なんだろうね」


 「思い出作り?」


 「そうだけど、そうじゃない」


 「へぇ」


 そして、会話が途切れた。

 途切れて、目の前に夢莉が現れ、少しだけ背伸びした。

 同時に唇に熱く柔らかい感覚。

 小さな水っぽい音。

 キスしたんだと気付くまで、少しの時間がかかった。

 俺は何の音も出さずに、彼女を抱きしめる。


 「もっと、強めのする?」


 夢莉が訊くが、俺はそれに首を横に振った。

 しゅんとした、表情で彼女は言う。


 「スプリットタン苦手?」


 「嫌いじゃないけど、今はこれで」


 「段階を踏むってやつだ」


 「そういうことだ」


 会話を交わし、二人の視線は空へと移す。

 大好きな彼女と共に同じものを眺めていることを感じながら。





Ending サイカイ、カノジョ



 コテージの寝室、同じベッドで俺と夢莉は目覚め、体を起し、お互いに向いて、笑った。

 同じ朝だ。

 そんな幸せを感じながら、夢莉と一緒に朝食を作り、食べる。

 そこから着替えて準備をして、キスをして、荷物をまとめて、コテージをあとにした。

 電車を乗り継ぎ、お互いの家に帰る。

 その後のお話。

 春が来て、大学を卒業した俺は夢莉と交際を続けた。

 青い春を最後まで過ごし、曖昧が形になるその瞬間を二人で描いた。

 そこからさらに二年後。

 就いた仕事が安定し、夢莉は雨屋 夢莉になった。

 あんな再会が、初恋の続きを描いて、今を繋いだ。

 彼女と過ごすこれからが幸せである様に。

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