箱入り坊ちゃんのらねこになる。

翔馬

俺、野良になる。

第1話

ヒトは誰しも胸に傷を抱えて生きている。

だが猫だってそうだ。

今日、俺は捨てられた。


猫風邪を拗らせてびょういんへ連れていかれた。

「えっ、こんなにかかるの?」

「○○さん保険入ってませんよね…どうしてもこのくらいになっちゃいます」

「…はぁ、わかりました」


「あんたはかわいいけどお金がかかるのよね。ごめん」


治療費が高くて驚いたらしい。

だから俺は飼い主から捨てられ、今日から野良猫になる。



覚えている一番古い記憶は箱のなか。

俺は母親のお乳をもらって満腹で寝ていた。

そこの家の主人の友達に俺は引き取られたのだ。

だが捨てられた。

また俺は箱のなかに戻ったのだ。

箱はこうえんってとこに置かれたらしい。


箱のなかとヒトの家のなかしか知らない俺は外の世界にビビっている。

なんだあの白いのは?てんじょうってやつか?壁はどこなんだ?

あのてんじょう、動いてるぞ!青い…。

これはくーらーか?ひげがざわざわしやがる…!


不安で怖くて出したくもないか細い鳴き声が出る。

みいみいなきながら眠って、空腹で目が覚めた。

箱のなかに少しだけあった柔らかい餌を食べると、喉が乾く。

箱のなかに水はない。

外に出て探さなければならないだろう。

だが怖くて震えるばかりで前足は動かない。

誰もすいっちを押してないのにだんだん暗くなっていく。

俺は敷かれたタオルに潜り小さな体を丸めてまた眠った。

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