第8話孤独の魔女と独りの戦い

暴力 閉塞感 理不尽 無力感 悪意 諦念 欺瞞 破滅



元々そういった物で この世は満たされていると思っていた



ししょーと出会って、そんな陰鬱としたものばかりではないと思い知らされたが…それでもやはり、世界とはなんとも鬱屈としているのだろう


欲張った卑怯者が高く笑い、足蹴にされた弱者はそれに気づかずまた笑う


清廉な者は俗世を離れ 賢き者は己の領域へ閉じこもり着々と姿を消す、故に世界はそういった汚い人間が多くの比率を占めていき汚濁汚穢を極めるのだ


エリスは昔、何も知らなかった 世界の外 己の事、そして何も知らないと言うことすら知らなかった、…だから理不尽な仕打ちに怯え泣いた…けれど、今は違う


ししょーの元で知識を得た、立ち向かう力を得た…ならば、かつてエリスを わたしを苛んだ、醜い悪に 今なら一矢報いることが出来るのでは無いだろうか



「んっ…んんぅ…」


未だ太陽も登り切らぬ未明の刻、鳥すらも眠る無音の世界となった星惑いの森の奥…孤独の魔女の居宅にて、レグルスの寝息が窮屈そうに響く…


ししょーはまだ眠ってる 、ししょーはいつもお日様が煌々と登ってから起きるからまだ眠いんだと思う、…もうししょーと過ごして1年近くになる、だからししょーが起きる時間も起きる合図も 全て記憶している、起きそうになってもエリスには分かる


「でも…静かに静かに…」



ししょーが寝ている間に、 静かに毛布から這い出て、玄関へと抜き足差し足で進む、この家は床もボロだから下手なところを踏むとギシギシと音がなる 、そうすると流石のししょーも起きてしまうから、そういった場所を踏まないように慎重に 慎重に


エリスが今、こうやってししょーに内緒で外へ出ようとしているのは…秘密の特訓の為なんだ、ししょーにも内緒の秘密の秘密の魔術特訓






「ふぅ…ふぅ、魔力を集めて魔力を高めて…」


家から少し離れた 森の中で、一人体の中の魔力を高めて編み込み練り上げる、…制御のコツは体の中に水を意識することだ


コップになみなみ注がれた水、それを真ん中でクルクルと渦を作ってやり…押し出されて溢れる水 いや魔力を、手元で束ねてからこう囁くんだ


「……『火雷招』」


そう唱えれば、体から溢れて霧散しかけていたエリスの魔力がグッと凝縮し、手元で別の存在へと生まれ変わる


小さな小さな炎の雷、手の内側で燃え盛る熱 迸る雷…これが超自然を御し人の身で起こす天災 名を魔術、詠唱を大幅に削ったせいでこの程度の大きさしか出ていないが…それでもきっちり熱は放たれている


詠唱を全て唱えたら どうなるかはエリスにも分からない…そう思う程に力強いエネルギーを脈々と放っている



実はこれ…結構前から使える、ししょーに止められているから、ししょーの前では使わないが


ししょーはエリスに魔術を教えていないつもりなのだろうが、エリスは 一度見た物聞いた物は絶対に忘れない、 ししょーがお手本として見せてくれた魔術詠唱も移動の時に使う魔術詠唱も、全部完璧に暗記しているから 詠唱だって完璧だ


「…ししょー、怒るかな」


本当はししょーに隠れて修行なんてすべきでは無いと思う、だってこれはししょーのことを信用していないに等しいのだから、でも 今は取り急いで力がいる、だから…致し方ないと思う


「今はとにかく覚えてる魔術を完璧に使えるようになっておかないと」



エリスが現状取得しているのは、ししょーがエリスの前で使用した二つ…


炎を纏う雷を放つ攻撃魔術『火雷招』


風をまとい高速で移動する移動補助魔術『旋風圏跳』


二つとも、未熟なエリスが使っても十分な威力を発揮する程強力な魔術だ…、ししょーの言う通りエリスはまだ完璧に魔術を使えるわけではないが、それでもあの偽物を倒すには十分だ


そう…偽物、ししょーの



全ては、あの偽レグルスが現れた時から始まった


いきなり村に現れて、村のみんなを騙して 好き勝手にやってる憎き偽物



あいつは、ししょーの 魔女レグルスの名を使って村で好き勝手に過ごしていた、


エリスは知っている あいつの悪事を、金品は要求しないとは言ったが 、要求しないだけで差し出されれば受け取るし、村を守った報酬としてムルク村では考えられないような豪勢な晩餐を毎晩村人に用意させ食べている


領主のエドヴィン様よりも豪勢な食事をだ、そんな物毎日食べるなど 村にとって負担以外の何物でも無い…確かに彼女は盗賊から村を守っている、けどそれだけで得られる対価ではない、断じて



それでもそんな勝手が許されるのは『魔女レグルス』だからだ、八千年前世界を救い 八千年間世界を救い続ける魔女の一人だからだ、だからみんな 逆らわないし逆らおうと言う気さえ起こらない


ししょーは目に見えて悪いことをしない限り それは村の問題と割り切ってはいるが、許される話でないのは明白だ…


エリスがやるしかない、エリスが この力で守るんだ 村を領主様をししょーを…それがきっと、魔術の正しい使い方だから



「…あっ、大変 そろそろししょーが起きる」


森の木々からチチチと、鳥の鳴き声が聞こえる…あの鳥が鳴き始める頃からししょーは起き始める、急いで朝ご飯の支度をしないと


勿論、急ぎながらも音を立てないように抜き足差し足で家へ戻り…


「んっ…んふぅ…」


ベッドで未だ寝息を立て パタパタと手探りでエリスを探すししょーを見て、安心する…バレてないバレてない、エリスはししょーのことが好きだ 嫌われたくない、だからこの秘密の特訓も 偽レグルスを倒したらやめにするつもりだ


つまり…今日でもう 秘密の特訓は終わりと言うことだ…、今日で概ね準備は整ったと思う





ししょーを傷つける奴も悲しませる奴も みんなみんな許さない…エリスは、もう理不尽に怯える弱い名無しの奴隷ではないのだ



………………………………………





「クフハハハハハ!、愚か者共め!『ヒートファランクス』!」


「ひぃっ!?ま 魔女に勝てるわけねぇ!退却退却!」


ムルク村のど真ん中で、今日も歓声は巻き起こる


もはや見世物の一種のようになり始めた、偽レグルスによる盗賊退治ショーは今日も盛況なようで、村の真ん中の広場には今日も人集りが出来ている

いや人集りと言うよりは海か?ムルク村にいる人間 そのほぼ全てがここに集まってきているのだから


「おお!すげぇ!今日も追い返したぞ!」


「相変わらずド派手な魔術!流石魔女様!」


「魔女様が居ればこの村は安泰だ!」


ザワザワと ガヤガヤと、大人も子供もなく 男も女もなく、そして危機感などまるで無く、ただ妄信的に我々の味方の魔女様が今日も勝ったのだと 喜び騒ぐ観衆たち


こうも連日盗賊達から村を守ってくれている以上、守っているところを見せられている以上信じない者はいないのだが、…いやでも誰も疑わぬのだろうか


何故、盗賊は目立つ昼間に決まって襲ってきて 、夜襲など搦め手を使わないのだろうか


何故、魔女様は盗賊を追い払うばかりで捕縛しようとは思わないのだろうか


何故、盗賊が現れると示しを合わせたかのように魔女が登場するのか



まるで子供向けの演劇だ…、悪者が現れて偶然それを倒す英雄が現れる、それに気づかない者はいないわけではないのだが 一度ついてしまった熱狂の火は中々消えないもので、あっという間になんの娯楽もないこの村は 魔女の見せる魔術に魅入られてしまったのだ


「はぁ…、なんか 嘘くさいんだよなぁ」


と…少し離れ遠巻きに見ながらため息をつくレグルス、別に みんなでワイワイするのはいい…それは構わん、だがな 魔女レグルスの戦いを見たいからと 店ほっぽり出してみんなで野次馬に行くのはどうかと思うぞ


空っぽになった魚屋 八百屋 肉屋を見ながら、再度ため息をつく


せっかく買い物に来たのに、ここ最近 森で取れる物しか食ってないからそろそろ市場で売られてる魚や肉が食いたかったのだが、あの分じゃ 少しかかるな…あの後みんなでワイワイキャーキャーいいながら魔女様を囲むんだ、それから宴コースの可能性もある


毎日毎日よくも疲れないものだな、あの偽物も村人も


「ししょー…」


おおっといけない、こんな顔ばかりしていては我が弟子エリスも不安になると言うもの…ただでさえ最近は威厳もないのだ、少しは格好をつけておかねば


「そう心配したような顔をするな、ちゃんと晩御飯の材料は買って帰るから」


「違います、そうじゃありません…ただ あの偽物、だんだんやる事が無茶苦茶になっている気がするんです」


あ そっちか…ううむ、それはそうだな、反論はせん


あの偽物 最初のうちはそれでも質素なもてなしを受けていたのだが、自分が村に受け入れられていると分かるや否や それはもうすごい豪遊ぶりを発揮するようになっていた


金は受け取らないが、その分高価な酒を要求したり肉を山ほど食ってみたり その遊びっぷりたるや酒池肉林の如く、小国の王よりも散財してるんじゃないかってくらいだ



そして当然、そのシワ寄せは村に行く…このまま行けば 村が破産する勢いだが、村人はそれで納得しているのだろうか?それとも見ないフリしてるのだろうか



「そうだな、正直メチャクチャだ…だが、それも捜索騎士団とやらが来るまでの辛抱だ」


エドヴィンが皇都に連絡して呼び寄せた魔女探しのプロフェッショナル達 魔女捜索騎士団とやらは、まだ着かない そもそも遠いし…それに辺境からの申請だ 後回しにもなるのだろう


だが騎士団がつけば あの魔女が偽物とバレる、そうすればみんなの目だって覚める筈だ



「おや、クフハハ 奇遇と言うものか?何時ぞやの賢人殿ではないか」


「ッ!?…」


突如 響いたナメくさった声、何者か?など考えるまでも無く噛みつきにかかりそうなエリスを後ろに隠し視線を向ける


全く…エリスにはああは言ったが、やはり面倒極まりないな…この女は


「これは孤独の魔女様 ご健勝のようで、何より」


「まぁな?、我は魔女故 あのような雑魚如きに遅れはとらぬ、しかしそちらは呑気に買い物とは いや我が村を守っているから良いものを、魔術師として力あるものとしての役目をなんと心得ておるやら」


「いやいや、返す言葉もない 魔女様がこの村の平和を守ってくれているから、私もこうして 何事もなく平穏無事に過ごすことが出来る、頭が上がりません」


孤独の魔女レグルス…私の偽物が、どうやら遠目で私を見つけたのか 態々寄って来ていびりに来たようだ



こいつ、村での影響力が高まるにつれて だんだん態度が大きくなって来ている気がする、いやまぁ最初から態度はデカかったが、最近はもはや完全なる嫌味いびりのような罵倒を私に投げかけてくるようになった


村人からしてみれば、魔女様が私を叱責しているように見えているらしいが、こいつの瞳にゃそんな殊勝な心がけは微塵も感じられない、他者を貶め自分を上げる 単純な優劣を言葉によって決めつけ、優越感に浸る… ただそれだけの為の物だ


「ふん、やはり田舎魔術師か プライドのカケラもないと見える、誇りある魔術師ならば 決闘の一つでも行って 己の力を見せつけたいとは…思わぬか?」


こいつの狙いは何か、多分 村人の視線と魔女のいびりイジメで私が精神を病んで 村を出てくなりなんなりするのを狙っているのだろう、もしくは私が怒り 偽レグルス相手に攻撃を仕掛けるの…とかな


きっと私が怒って偽レグルスに攻撃を仕掛けた瞬間、奴は大義名分の元私を殺すつもりなのだろう…馬鹿にして、真っ向からやりあって私に勝てるつもりでいるのなら そちらの方が腹ただしい


「思いませんな、…誇示するだけの力に 何の意味もありません」


「何を…、まぁ良い この村ではもう貴様の役目は何もない、何やら紛い物のポーションなど売って村人アピールしているようだが、我が治癒魔術があればそんなものも必要ない…早々に身の振り方でも考えたらどうだ?、なんなら我が貴様に真なる魔術でも教授しようか?」


んん? と言いながら舐め回すように私を見回す彼女の目には、強烈なまでの自尊心が滲み出ている、力を持つと…持て囃されると、誰もが態度が大きくなるものだが彼女のこれは元の性格があれだな、この子の性格は元より歪んでいたのだろう


その手の手合いをまともに相手していては苦労するのはこっちだ


「ははは、では魔女様の時間が空いた時にでも 魔の深淵のご教授を是非お願いしたいですね」



「……はぁ、ここまで言われてのらりくらりと何も言い返さないか…もう良い、なんの気概もない魔術師には興味もない、失せよ」


期待した返答を何一つとしてしない私に、言う通り興味を失ったのか手をパタパタと払いながら立ち去る偽レグルス、いや失せろと言いながら自分から失せるのか


彼女はきっとこれから忙しいのだろう、盗賊を退治してくれたお礼として これから村人達からの歓待を受けるのだから…いやほぼ毎日受けてるからそれはもう歓待じゃないような気もするが


…うん、ほぼ毎日だな 盗賊が来る 偽レグルスがそれを倒す みんなからお礼を言われる、このルーティンは殆ど毎日 決まった時間に決まったように行われている、いや 流石の私でも気づくぞ





これ 裏で手を結んでるだろ 盗賊と偽レグルスが…


いや最初からそのような気はあったが、まさかここまであからさまにするとは思わなかった…、あの疑うのが苦手なエドヴィンでさえ最近はそう口にし出している




村を守るならどれだけ怪しくとも危害を加えない限りは放置する、私は当初そう口にした筈だ、…だが 自分で危機を用意し 自分でそれを解決し 村から様々なものを搾取して行く


これははっきり言って村への害以外の何物でもない、ならばこれ以上好きにさせる必要もまた…


「と言っても、あの盛り上がり具合だからな…今更真実を口にしたり偽レグルスを倒しただけでは収まりも着かんな…」


今 村は一種のカルトに取り憑かれたかのような雰囲気を醸し出している、皆 魔女様を称え始めている…、魔女を崇め信仰することは別に珍しいことでもなんでもないが 些か熱を上げすぎだ


もう偽物どうこうじゃないな…やはり、なら先に偽物の協力者であろう盗賊から潰しておくか、何 どこに隠れているかは分からんが魔女の目から逃れられん、一人二人ならまだしも大勢の人間ならば 生活するだけで痕跡が残る、郊外の森をちょちょいと探せばすぐに見つかるだろう


協力者の盗賊を先立って潰せば、仕事がなくなるのは偽物の方だ …むしろ楽しみだな、盗賊が来なくなった偽物がこの村でどう立ち回るのかが、魔術を使って村の便利屋として働くか?それは見ものだな


それで、何もできなくなった偽物をこの村に繋ぎ止め…エドヴィンの呼んだ捜索騎士団とやらに引き渡せば、盗賊はいなくなり偽物もお縄につき村は平和に元どおり


うん、完璧だ




「よし…エリス?私はこれから少し寄るところができた…」


そうと決まれば早速やっておくか まずはエリスだ、エリスを盗賊退治に連れて行くわけにはいかん、一旦エドヴィンの所に預けよう…いや領主館を託児所扱いするのもな、また同年代の子と遊ばせるか?それはそれで危ない気も…ってあれ?


「エリス?…エリス!?」


いない



いなくなってる、エリスが消えている!?さっき私の後ろに移動させた時はいたのに…



「アイツ!、まさか追ったのか!?魔女レグルスを!?」


やらかした、偽物との会話に気を取られてる隙に私から離れたのか!?、行き先など容易に想像がつく!偽物のところだ…、大方私が不甲斐ないからと偽物に文句でもつけに言ったのだろう


ヤバい 危険だ、相手が盗賊と繋がっているのなら それこそ何をされるか分からん!、くそっ 勝手な真似を…いや それもこれも私が至らないからか…


兎も角、直ぐに連れ戻さなければ…!



「賢人様?…」


「なんだ、後にしてくれ!今弟子が…」


騒々しい、今忙しいんだとガラにもなく怒鳴り声を上げ…ようとして気づく、一言で言うなれば…違和感 、どうしようもなく気持ちの悪い違和感を


「弟子?それよりあんたは今 自分の心配した方がいいんじゃないのか?」


嗄れた声の主は、目つきの悪い男数人であった、手には刃物 顎には無精髭 目元に傷がある者もおり なんともおっかない見た目をしている、…こんな粗雑極めた見た目をした人間 村にはいなかった筈だが などと、戯言を抜かす気にもなれん


こいつら村の人間じゃない…、私もあまり記憶力が良い方ではないが 確か、偽物の魔女が退治していた盗賊の中にこんな顔の連中がいたような気がする、まぁ私の考察が正しいなら『そう言うこと』なのだろう


「お前達は…」


「おおっと、助け呼ぼうったって無駄だぜ?この村の人間は全員魔女様の命令で村の奥で宴の準備してんだ、今更泣き喚いて走ったって 誰にも聞こえやしねぇよ」


確かに周りを見回してみれば、あれだけ騒いでいた村人が一人もいなくなっているのに気づく、成る程 偽物に率いられて別の場所へ移動させられていたか、物の見事に人払いさせられたな


というか、普通に魔女様 なんて単語が出てきたな…と言うことは



「…やはり、あの魔女レグルスと裏で繋がっていたな…くだらないマッチポンプで村人の信頼を勝ち得て この村を自由に動かせるようにしたと…」


「ご明察、魔女だと証明させしちまえば村人を思うままに操るなんざ楽勝だしな…この村にゃ俺たちの都合のいいように働いてもらうとしてだ、あんたにゃ ちょいと痛い目見てもらわんと困るんだ」


予想した通りの言葉が飛び出てなんだか少し安心する、荒事担当です って顔してるもんな、これで話し合いに来ましたって言ったら 面食らってたよ


というか、普通にペラペラ話してくれてる時点で察していた…遂にというかなんというか、偽物側も準備が整ったから本格的に私を排除にかかってきた という事だろう


「さっきも言ったが、急いでいてな…慌てているんだ凄く、要件なら後日聞く というのじゃダメか?」


「ダメに決まってんだろ、お前にはここでこの村から消えてもらうんだ…安心しな、テメェ一人消えたって魔女様が適当に村人に説明すりゃあ全員納得して明日には忘れてるぜきっとよ」


全員が全員、頑丈そうな棒やらナイフやらを片手に私の周りを距離を詰めて囲い込む、魔術師相手の基本の型だ、魔術師は詠唱をしてから魔術が発動するまでのラグがある…故に このように距離を詰めれば大体の魔術が発動する前に先制攻撃を行うことが出来る


詠唱されても顔に一発くれて黙らせれば不発になるしな…なんて物騒なことエリスに教える日は来るんだろうか


「そうか、ならあんまり手加減は出来ない」


「ハハハこの距離で魔術師が手加減かよ…、ああ後 加えてもう一つ 言うなれば…、男だったら刺し殺すつもりだったが、上玉の女だからな 裸に剥いて鎖に繋いで連れ帰れって魔女様から命令が来てんだ 殺しゃしねぇよ、まぁ、生意気だから少し分からせろとも言われてんだがな!」


咄嗟、 言いたいことを言い終えて満足したのか 手前の盗賊崩れのチンピラが 一歩 強く踏み出し、いきなり側頭部目掛け棍棒が振るわれる


問答無用とはまさにこのこと、しかし 相手が力によって事を成そうとしているのであれば、私としても非常にやりやすい…何せ こちらも力で答える事が出来るのだから


「まぁいい、いくつか聞きたいこともある…手短に終わらせよう」



ため息と共に、足を少し開く…


手早く終わらせてエリスを迎えに行かねば




…………………………………………



「魔女様 村の外れで宴やるって 本当ですか?」


「ああ、いつも村の中でやっていては窮屈であろう…我がいるならば、村の外に危険はないも同然、ならば広々とした場所で 皆と飲み食いした方が楽しかろうぉ?」


ムルク村の郊外付近に集まる村人達、手には酒 肉 麦…どこにこんなに溜め込んでいたのやらと言うほどのご馳走の数々を持ち寄り持ち出し、今日もまたいつものように魔女様への御礼を込めた宴の準備をしているのだ…


もうここ数週間はほぼ毎日宮殿もかくやというような豪勢な食事をとっており、 はっきり言って あまり裕福ではないムルク村の食糧貯蔵事情に大大 大打撃を与えているのだが、みんなそんなこと見ないフリだ


魔女様がいるから食糧だろうがなんだろうがなんとかなる という言い聞かせに近い楽観視から、村人達は本来の節制を失いつつあるんだ、村人としても毎日どんちゃん騒ぎが出来るなら楽しいことこの上ないわけだし



「魔女様が外で飲みたいっていうんなら、そうするか」


「ああ、 寧ろなんかお祭りみたいでいいかもね」


「なら外に諸々の物持って集まらねぇと、今日も盛大に騒ぐぞぉ」


食べ物は木箱に詰めて 魔女様が座る豪勢な椅子は数人がかりで、男は酒樽を 女は馳走をたんまりと、全て魔女様への感謝と持て成しの念を込めて 皆嫌な顔せず運び出す


「…ククク」


そんな無知かつ蒙昧な村人達を眺め見れば、可笑しい可笑しいと浅く笑う魔女レグルス…いや、偽りの魔女…本来の名を捨て自らが魔女であると僭称し、村人を騙し盗賊を謀る非道の者


おかしくておかしくてたまらなかった、以前はどんな大魔術を使って見せても


『燃費が悪い』『派手なだけ』『実戦向きではない』なんて、才のない愚図どもに言われ、実力がないからと嫉妬したクソ共にアジメク宮廷魔術師の座を奪われ剰え皇都さえ追い出されたが どうだ?


魔女レグルスの名を名乗るだけで、奴らがバカにした私の派手なだけの魔術は 大いなる魔女の御業へと昇華した


『流石魔女様』『天の怒りの如き威容』『私達では遠く及ばない存在』だとよ、…盗賊達も似たような手口で騙してやればあっという間に頭領の座へ着くことができた


バレたら極刑と怯える者もいるが、要はバレなきゃいいんだ…皇都に近づけばバレやすくなるが、こう言った辺境で甘い汁すする分にはなんの問題もない



それもこれも全て名前だけ残して消えてくれた魔女レグルス様のおかげだ、ありがたいったらありゃしない、どこで何をしているか知らないがな


「しかし、こうも上手くいくとはな…」


準備のため村の外へ出て行く村人達とは別方向、村の奥の方へと足を進める…魔女様に宴の支度を手伝わせる不遜者はいないだろう


当初の計画通り、事は進んでいる


この村に来たのは 、村の主導権を握り それとなくここに裏市場を作るのを村人達に手伝わせる為、その為にはまずこの村人達を自由自在に操れるようにならなくてはならない


そこでマッチポンプだ…、配下の盗賊達に村を襲わせそれを私が退治する、一応加減はしてあるが 死んだなら死んだで別にいい奴にしか村は襲わせてない


それで盗賊を見事退治し村の連中の信用を勝ち得て、みんなが私を魔女だと崇めるようにする 、そうすりゃ後は適当な言い訳をして裏市場建造の木材やら子供の奴隷を生かす最低限の食糧やらをこの村から搾り取りまくればいいだけ、これで私達は出費殆どゼロで大儲けできるって寸法だ


「グフフ…、田舎の村は派手な魔術など見慣れておらんからな…もう少し時間をかけて騙す予定だったが、殊の外楽に騙せたわ…おかげで毎日美味い飯にありつけて、レグルス様様だクヒヒ」


ああ、あともうどうでもいい事だがブエルゴ捕縛に一枚噛んでる臭いあの惑いの賢人とやらも始末しておくことにした、あれは少々賢そうだし 魔術の知識があるのでは騙し難いしな 、ああ言う奴から先に片付けるに越したことはない


大人の奴隷を取り扱うつもりはないから商品にはしないが、幸い奴は美人だ 鎖に繋いでアジトに放置し 部下の息抜きにでも使うとしよう


ああ、アイツは我が嘘をついてると決めつける目をしたからな、当然の報いだ あたしはあたしを嘘つき呼ばわりするやつを許さない絶対に…!


嬲られ痛めつけられ裸で震えながら生まれたことを後悔させてやるんだ、あたしは嘘つきじゃない嘘つきじゃない、あたしは本物の……


「レグルス様?」


「なっ…おほん、山猿か」


いけないいけない、考え込みすぎた…熱中した頭を咳払いで冷やし落ち着けば、どうやら無人になった村の中央まで来ていたようだ


「いやぁ、ボス…レグルス様が上手くやってくれたから、オレ達も簡単に村に侵入できやしたよ」


「誰にも見られて居らぬだろうな」


「オレ達ぁ日陰者ですぜ、隠れるのにゃ慣れてますし そんなヘマする奴は連れてきてませんぜ」


村の中央で、八百屋からでも盗んできたのか 、赤い果実をシャクシャク音を立て食いながら、あた…我に向けて首を垂れる背の低い中年の男…


こいつは我が率いる盗賊団の中心メンバーの一人 山猿だ、名前は知らん 覚えてない 、なんか猿みたいにせせこましくズル賢いから我はそう呼んでいる、…ただ他の粗暴な山賊と違い こいつは賢い上に使えるから 特に重用しているのだ


「ならば良い、首尾よく進んでおるか?」


「へい、レグルス様のおかげで 特に障害もなく 順調に行きやしたぜ」




既に村人は我の支配下に置かれている、奴らを自由に動かせるならと 村人を外に出し我が部下を村へ招き入れた、今日 計画を次の段階に移行させる為に


「例の惑いの賢人はどうした」


「ちゃんと荒事担当を7~8人送っときやした、アイツらには対魔術師用の戦い方も叩き込んでおきやしたんで、次レグルス様が目にする頃にゃ服を剥がれてしおらしくなってるはずでやす」


「ふん、そうか…手筈通りなら何も言うまい、邪魔者も消えたことだ…それでは計画を第2段階へと進めよう」


あの女魔術師は消えたと見ていい 田舎の魔術師では7~8人の人間に距離を詰められ取り囲まれては成すすべもないだろう、邪魔が入らぬなら 第2計画へ進めよう…、まぁ第2とは言うが 内容は簡単、取り敢えず 取れる物を取る だけ


「辺境の村ってのはいいもんですなぁ、きっと村に悪人が出ないもんだからみんな戸締りが雑で雑で、金庫なんかだーれもってないもんだから 銀貨も食料も取り放題でしたわ」


「うむ、ってなんだ これだけか…」


山猿と 山猿が選んだ部下が、無人の村を駆け回って集めた銀貨は…まぁ大きな麻袋にいっぱい詰まってはいるが、なんだか期待したほどではなかったな、やはり辺境の村だからか?、いや…


「貴様ら領主館には行ったのか?、あそこは一応貴族が住まう館 銀貨どころか金貨も置いてありそうなものだが」


「ああいや、あそこはダメでやした 玄関先をメイドが掃除してて…多分、領主も中に居そうだから引き上げてきやした」


賢明だ、賢人と違い流石に領主やメイドを裏でこっそり消すことは出来ない、なら見つからないのが一番であろう…しかし領主か、思えば奴は我が宴には一度も足を運ばなんだ まだ信じきっていないのか?


だが、村の主導権は既に我の手の内にあり 今更引きこもり領主に何が出来ようか



「ただ領主館には入れなかった代わりに、レグルス様が喜ぶかと思いやして…『コレ』も確保しときやしたぜ?」


「ん?、ふふふ…いやご苦労…、流石に仕事が早いな山猿」


そう行って山猿が銀貨や食料と共に見せるのは、縄で縛られて布を噛まされた子供達だ…数はザッと十人強は居ようか、皆が皆、目元に涙を溜めながら泣きわめき目の前の正義の味方の魔女様に必死に助けを求めている…だが残念、その魔女様が黒幕なのだから


山猿め 中々やるな、子供の確保とは中々に難しく 時として費用や対価を求められることもあるが、ここでタダで子供を確保しておけば売れる商品も増える、細かなところにまで気の利く部下を持つとこれだから良い



「んんぅーっ!んんんーっ!」


「大人は宴の支度をしている間、子供達はどこかで遊んでなさいって…別の場所で遊ばせてたんでしょう、いや楽な仕事でやした」


「子供は大体金貨3枚…ここにいるだけで少なくとも金貨30後半は固いな…、クフフフそれがタダで手に入ったなら儲けも儲け大儲けではないか、クヒヒもはや領主館の財産など取るに足らん…ん?おい、この子供」


「へい?、なんでやしょう」


縛られて泣きわめく子供達の中に一人…静かに座りこちらを睨む子供がいる、この金髪のガキは確か…


「こいつ 惑いの賢人の弟子ではないか?」


「………………」


確か、惑いの賢人がいつも後ろに連れていた弟子だ、村人達の話からも都度都度出てくることがあった…具体的にどう言う存在かとかそういった話は聞き出せなんだが、いつも賢人が背後に隠すことから 相当大切な愛弟子であろうことは予測がつく



「あの賢人の?、こいつ なんだかコソコソ動き回っていたから、軽く取っ捕まえてやったんですわ…しかし、よかったなぁお前さん 今頃お前さんの師匠は、オレ達の仲間に半殺しにされて 死ぬより辛い目にあわされてんだろうぜ」


「……ッ!!」


師匠が師匠なら、弟子も弟子だな なんと可愛げのない事か…縛られても泣くどころか、山猿の言葉を受けて ギリギリと布を噛みながら睨み上げてくるではないか、少しは可愛らしく涙でも流してやれば 我の気も少しは治ると言うのに師弟揃って我を苛立たせる


「貴様…名はなんというか知らぬが 、貴様は今から奴隷となるのだ…恨むなら力のない師を恨めよ?、まぁすぐに恨むどころ騒ぎではなくだろうがなぁ?クフハハハハハ!」


「…………っ」


おお?奴隷という言葉を聞いて若干冷や汗を流し始めたなぁ、それで良いそれでよい そういう反応が見たかったのだ クヒヒヒヒ


こいつは師に似て見目麗しい 多少ふっかけても値段はつきそうだな…金貨4…いや思い切って5で行くか?、ケヒヒ 今から売るのが楽しみになってきた


「では連れていくぞ、子供の奴隷を集めている仮設のアジトがあったであろう?そこで戦利品を整理する…今日は我も久々に奴隷の様子と状況を見に行く」


「え?いいんですやすかい?、村を開けたら連中怪しむんじゃ…」


「逆だ馬鹿者、どう取り繕ってもお前達が盗んだ銀貨がこの村から消えたのは誤魔化せぬだろう?、銀貨が村から盗まれた時魔女様はどこで何をしていたとなったら言い訳ができん…、故に 仮設のアジトからそれらしいの引っ張ってきて犯人に仕立て上げる、我はそれを捕まえに村の外まで出ていた事にする それで言い訳が出来よう」


「なるほど、盗まれた銀貨は擦った揉んだの末になくなっちまいやした にすればいいか」


「その通り、それにそろそろ建築用の材木の目処が立ちそうなのでな、頃合いを見て裏市場建築に手を出しておきたい、設計図云々はアジトにあるし話を固めるならそちらの方が良かろう?」


いくらタダで建材が手に入るからと 村人に裏市場建築を手伝わせるわけにはいかん、故に当然ながら建築は我々だけでせねばならん…人員の確保や土地の把握は粗暴で馬鹿な盗賊では出来んからな、賢い我はやることが多い


「村の裏手に馬車止めてあるんで そちらで移動しやしょうか…おらお前ら、急いで銀貨運びこんどけ、ガキどもも一緒にな!」


なんて山猿の言葉を聞き流しながら裏手に進む、万事順調だ…


全て全て 上手く行っている、このまま市場を作って 子供の奴隷を専門に扱う場として名を馳せて、各地で取引しまくって金儲けまくって…それでいつか皇都の奴らを 私を追い出した奴らを…あのいけ好かない騎士を鼻で笑ってやる、我の方が あたしの方が 成功したと




……………………………………………………………………




ガタゴトと揺れる馬車の音を聞きながら考える 大丈夫、上手く行っているんだと


メソメソと啜り泣く子供達の声を聞きながら言い聞かせる エリスはこの子達を助けにきたのだと


エリスはししょーの目を盗んで、偽レグルスを追跡していたら…村の中に入り込んでいた盗賊が、子供達を誘拐しているのが見えたんだ


最初はその場で盗賊を倒して助けようと考えたが…、もしかしたら他にも捕まっている子がいるかもしれないと思い、こうしてわざと自分から捕まり潜りこみ、窮屈な馬車に他の子供達と一緒に詰め込まれたんだ



ししょーも言っていたが、目の前の敵を倒して終わるほど物事は簡単じゃないらしい 、だからエリスは目の前以外の敵も倒すことにした、こいつらのアジトに潜り込んで 内側から倒す


幸い、あの偽物もこの一件に深く関わっているらしく 一緒にアジトに移動することになった…


「ググッ…!」


そう 冷静を装っても恐怖は湧いてくる…上手く行くのかと言う恐怖、そして怒り あの男が言った事 ししょーが死ぬよりも酷い目に遭わされていると、ししょーは強い 多分大丈夫だと思うけど、もしものことがあったらエリスは…



「ぅっ…ゔぅっ…」


はたと、誰かの泣き声で冷静さを取り戻す…そうだ、エリスはこの子達を助けるんだ


ここには村の子供達がみんないる、ケビンもクライヴもルーカスもメリディアもみんなだ、みんな広場で遊んでいた時とは違い 涙で目を真っ赤にしている…怖いのはわかる、エリスも怖い


そして、奴隷になったら 怖い程度じゃ済まないのも エリスは知っている


最初はあの偽物をぶちのめすだけで終わりにしようと思っていたが、もはや話はそれだけでは済まなくなってしまった、助けよう エリスが全員を…この場で魔術を使えるのはエリスだけなんだから






「おい、着いたぞ…降りろ、先に言っとくが 変に逆らおうなんて思うんじゃねぇぞ、治癒魔術がありゃあテメェら幾ら痛めつけたって 、商品の価値はさがんねぇんだからな」


馬車を動かしていた屈強な男が降りてきて私たちに声をかける、…太陽が結構傾いてる…馬車で結構な時間移動した事から 村からかなり離れている事が推察出来る


…ここで暴れても、直ぐに取り囲まれて 他の子供達諸共エリスは叩きのめされるだろう…、なら いまは言うことを聞いておいた方が良い、ここからは冷静に判断し選択していかなくてはならない ししょーには黙ってここまできた、つまりししょーの助けは望めない


「おら、 とっとと降りて歩け…逃げたら足を砕くからな」


「んんぅっ…んん゛…」


重たそうな木の棒で叩かれながら次々と馬車を降ろされるていく子供達、メリディアも必死に泣くまいと我慢しているが 眼の端から溢れるそれは 無情にもボロボロと溢れている、気の弱そうなケビンやルーカスは言わずもがな、あのクライヴでさえ声を上げて泣き怯えているのだから 仕方ないといえば仕方ない


「ったく、こいつ結局最後まで泣かなかったな つまんねぇ」


「…………」


最後はエリスの番がやってくる、鈍重な棒でポカポカ叩かれながら馬車の外に引っ張り出されれば…それは直ぐに見えてくる



「クヒヒヒヒ…うむ、やはり相変わらず汚い事この上ないな…実用性があるのが唯一の救いだが?」


巨大な砦だった、どこかの森に聳え立つ苔むし蔦で絡め取られた幽玄な砦、周囲を囲む森と太陽を覆い隠すように立つ巨大な山、この二つによって巧妙に隠蔽されたアジトはこの場所を知らなければ発見そのものすら難しいと言えるだろう



この時点でエリスはまだ知らなかったが、どうやらこのアジト、元々アジメクで使われていた廃砦らしい、大人数を中に収容でき 防衛力にも富む


唯一欠点があるとするならばアジメクはこの砦を放棄しただけで未だにその存在を認知していると言う事、下手をすれば見つかる可能性が非常に高い為長居は出来ないという致命的な欠点がある


そして当然、砦ならば地下には捕虜を捕らえる牢屋あり…


「おらとっとと歩け!、泣こうが喚こうがどうにもなんねぇんだ ならせめて痛い目くらいは見たくねぇだろう!」


「んんぅ…」


エリス達は一列に並ばされ 砦の奥へと歩かされていく、この砦 中は見た目以上に広く、特に地下は入り組んでおりあちらこちらになんの部屋か分からないような部屋が沢山点在している…


きっと この地下の何処かに別の奴隷もいると見ていいだろう、こんな広い空間をただ遊ばせておくわけがないから…



「ゔうぅ…ぅぅう」


「ははは!おもしれぇ泣きべそかいてやがるぜ!」


「これだからガキは面白いよなぁ、ほらもっと泣け!」


泣きながら歩かされる子供を見て大の大人がそれを恫喝する、ししょーとの生活で薄れてきた感覚…奴隷根性とでも言おう物がふつふつと蘇ってくるのを感じる、そうだこの感覚だ …恐怖で頭が動かなくなり、うずくまることしか出来なくなる感じを…






歩き続けること数分…、やっと目的地に着いたのか エリス達は 地下の一番奥、最も入り組んだ最奥の狭い牢屋へ全員まとめてぶち込まれることとなった


「……」


「…うゔぅ…ゔぅぅ」


「んんーっ…んんぅ」


当然牢屋に入れられても猿轡は外れないし、手は縛られたまま 唯一足は動くが…元々狭い牢屋に十数人と子供がひしめき合っている為、そう自由には動けない


鉄格子は錆びてはいるが、まぁ 頑丈な作りであろうことは想像に難くない というか脆かったら牢屋の体をなさないし、隙間は…どうだろう 小柄な子だったら通り抜けられそうだな、エリスはギリギリ無理だ…確かケビンに妹がいたが 彼女なら通れるかもしれない


「ったく、何が楽しくて こんなところで見張りなんか…おらっ!せめて泣いてたのしませろー?」


まぁ行かせないが、だって牢屋の外には当然見張りがいる、手には棍棒と酒瓶 退屈そうにエリス達を監視して、時折脅かそうと小石を投げつけてくる、勤勉な見張りではないが その分、持ち場から動かない…隙を見て なんての無理だ


「んんぅ……」



さて、状況は全て 記憶した…あとはここから 子供達を連れて外へ出て、仕上げに偽物を倒せば万事解決だ、


エリスは 自分に配られた手札をもう一度確認する…エリスが切れる手札は3枚


1枚目は魔術 『火雷招』と『旋風圏跳』の二種


2枚目は他の子供達…怯えきっている上、拘束されているから直ぐには動けないが、人数は力だ


3枚目は記憶 エリス自身の…頭に入っている情報




手札は少ない、切り札もない だが…この三枚で脱出し 必ずあの偽物を打ち倒してやる!


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