この夏の始まり、この夏の終わり。

ニュートランス

プロローグ

「……始まった」


扇風機が風を切る音と、蝉の合唱のハーモニーによって、私は最悪な目覚めで1日のスタートを切る。


取り敢えず立ち上がりカーテンを開けると、部屋に光が一気に飛び込んできた。


日光を身体中に浴びながら「スう〜、ハ〜」


現時刻12時、夏休み初日。早くも夏休み前の生活リズムとはおさらばだ。


「早く1階に降りてご飯を食べないと。お母さんはもう仕事に行ったかな」


私はそんな事を考えながら、集まった消しカスのようなブランケットを畳もうとしたその時、


私のベッドにはもう1人、私の通っている学校の制服を着たまま気持ちよさそうに横たわっている女性の存在に気付いた。


「誰、誰ダレだれ!!??」


─────────────────────


私の名前は木下始きのしたはじめ。髪は長めで、まつ毛が異様に長い。性格は……大人しい方ではないだろうか。


そんな私は高校2年生。1番青春を謳歌できる年なのに、まだカレンダーは真っ白。


本当であれば予定で埋め尽くされる筈だった。


私には彼女が。名は山田終やまだおわり。髪は私と打って変わって短く、周りを巻き込むのが上手で活発だった。


私と終は高校1年生の時に初めて出会い、一目惚れ。


男を見ても一切恋心が生まれなかった私にとって、初めて人を好きになるという体験だった。


直ぐにでも告白して想いを伝えたい。でも私は臆病で、だから少しずつ、lineの交換から、初めてのオフでの遊び。


自分に合ったスピードで交友関係を気づいていき、1年生の冬、私はラブレターをしたためて、彼女に手渡す。


女の子が好きなんて引かれるかもしれない。絶対に振られると思っていた。


終が出した答えは、『yes』。学校から帰宅後、lineで言われた暁には、嬉しさが月面着陸した。


これからは出来ないと諦めていた恋人っぽいことができると。


これからの未来に想いを馳せていた頃、彼女は亡くなった。


駅のホームから自ら電車に飛び込んで自殺したらしい。


何故。まだデートもしてないし、なんで付き合ってくれたのかも聞けてないのに。


それに自殺? あんな活発だった女の子が? ありえない。


それでも他に証拠は見つからず、結局自殺として処理された。


ぶつけようのないこの怒り。それでも私にはどうすることもできない。


私は諦めて、気が付けば1年が経った。


──そして今。


「終? 」


髪が短くて、私のよく知る顔。私の恋人が、確かに目の前に居る。


取り敢えず寝ている彼女を横に揺さぶると彼女は反応を示した。


「んっ……」


「終! 」


「な、なあにい」


声も同じ。間違いない。私の彼女だ。


私は徐に体を起こす彼女を思いっきり抱きしめた。


「ちょと! いきなりどうしたの? 」


「ああごめん、つい」


そう言って私は彼女の体に回した腕を戻す。


取り敢えず落ち着こう。果たして彼女は本物なのか、確かめる必要がある。


「貴方の名前は? 」


「山田終」


「誕生日と年齢」


「2月12日、17歳」


「じゃ、じゃあ私との関係は!?」


「恋人、でしょ? 言わせないでよ〜恥ずかしいんだから///」


「本物だ……」


私は彼女が彼女であると分かった瞬間、大粒の涙が自然と出た。


「じゃあなんで、あの時死んじゃったの……」


「え、私死んだの? 」


「うん、そうだけど」


「正直な話、記憶がないんだ。学校から家に帰ろうと駅のホームで待ってて……そこから思い出せない」


「じゃあ何で此処に居るとかも? 」


「うん。帰りの電車を待ってたらいきなり眠くなって、気付けば此処にいたんだ」


「どういう事? 」


「私にも分からないよ。でも始の言う事を聞く限り、私は死んだんだね……。じゃあ今いる私は幽霊? 」


「そう……なるのかな」


「それじゃあこれからずっと一緒に居られるね! 」


「…………」


確かにそれは嬉しい事だ。だけども……。


「終が私の前に現れた理由がきっとあると思うんだ。この世にまだ未練があるとか」


「未練かあ、それこそ、私の死因、とか」


「そう。終が死んだ原因について知る事ができたら、終は成仏する事ができるかもしれない」


「でも成仏しちゃったら、もう2度と会えないかもよ? 」


「こうやってまた会えただけでも奇跡だよ。でもきっとそんな奇跡には裏がある。終が突然亡くなった時、嫌と言うほど気付かされたよ」


「そうかあ」


終は少し考えてから


「まあ始がそう言うんだったら、探してみようかな」


夏休み初日。私は蘇った恋人と一緒に、死んだ原因を探すと言う不思議なスタートを切った。





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