登場人物紹介
■山田太郎
本編の主人公。
寝坊した朝、トーストをくわえながら学校への道を全力で走っていたら、うっかりアスファルト舗装中のロードローラーに轢かれて異世界に転生する。
辺境の農家の次男として産まれた太郎は、冒険家になることを夢見て鋤や鍬を剣と盾に改造してぶん殴られたり。
この世界に転生した際、神よりありとあらゆる困難を乗り越えるスキル「勇気」を与えられる。強力なスキルではあるが、大量の魔力を消費するうえ、消費した魔力は一切回復しないという厳しい制約があり、生涯で使用できるのは一度か二度といわれる。
太郎が農作業に勤しんでいたある日、神の使いを名乗る発光体に出会い、自らの力と使命を知る。
ちょうど喉が渇いていた太郎が、その困難を乗り越えるべくスキル勇気を使おうとして発光体に攻撃されまくっていたその時、大陸を支配していた帝国を滅ぼした魔王が、辺境をも我が物にせんと畑におそいかかってきた。
ふはははとか言いながら襲いかかってきた魔王は、太郎を攻撃していた発光体の流れ弾を受けて即死。
魔王の片腕と自称していたシエルという子が、なんかわーわー言いながらぽかぽか太郎を叩いてきたので、説教したら涙目になった。
魔王が倒れ、世界も平和になった。
太郎は、幼なじみのエレナと結婚して三人の子供に恵まれる。
あとシエルとの間にも二人の子供をつくってそれはもう大変なことに。
その後に太郎達は、新たな大地をもとめて村の仲間達と別大陸に旅立った。
そこで出会った新たな大地を開拓し、全部畑にして生態系を少し歪めたり。
ある日、散歩をしていた太郎は、いやらしいスライムに遭遇、逆レイプされて腹上死。享年57。
魂となった太郎は、また別の世界へと導かれるのであった。
■エレナ・カルラギ
太郎と同じ村にすむ幼なじみの女性。
太郎と結婚して長女長男次女の三人の子供をもうける。
シエルと浮気して子供までつくった太郎にたいして大変に憤慨するが、同時に妙な創作意欲を刺激され、そういう感じの小説を書いて村の一部でファンを獲得する。
その作品は村だけに留まらず、遠くの町にまで広がっていった。
読んだファン達は読むだけではなく、自分達も作品を作りだして、集まってみせあいっことかそういう感じ。
後年、彼女は、そういう感じの小説のこの世界における開祖としてごく一部で神格化された。享年72。
■吾作どん
誰?
■魔王
町を滅ぼし、都市を滅ぼし、ついには帝国を滅ぼして大陸のほぼすべてを手中におさめた人物。
強大な魔力、絶大な戦闘力で地上全てを蹂躙した“魔王”
その正体は、500年前、地上を恐怖で支配していた邪神を倒すため、異世界より転移してきた元勇者。
転移した際、世界の管理者である神より、スキル「勇気」を与えられる。
ありとあらゆる困難を乗り越えるスキル「勇気」――病気、怪我はもとより、老い、そして死をも乗り越えることのできる、大いなる力。顕現した奇跡、神の残滓。
使命と力を与えられた勇者は、同じく転移してきた仲間達と共に邪神を討伐し、世界に平和をもたらした。
邪神との戦闘中、仲間をかばい一度死亡するも勇気で乗り越える。
しかしその際、死に対し重度の心的外傷を受けた勇者は、死を徹底的に忌避するようになった。
邪神を討伐し、役目を終えた仲間達がスキル勇気を使って元の世界に帰っていくなか、一人それを拒絶する。
元の世界に戻れば、もうスキルは使えない。死を乗り越えられない。
それだけは耐えられない。
彼は一人老いと死を乗り越えつづけた。そしてついに人であることも、生物そのものも乗り越え、世界から拒絶される“何か”へと変貌を遂げる。
ここに世界を拒絶するもの――魔王が誕生した。
このため、以後スキル「勇気」を与えられる者には同じことを繰り返さぬように、厳しい制約がつくこととなる。
魔王となった彼は、邪神に連なるものとして迫害されていた魔族、その最後の生き残りであるシエルを片腕として活動を開始、世界に対して戦いを挑むこととなる。
人であることを越え、生物という器をも超えた魔王は圧倒的な力で地上を蹂躙する。
それに対抗するは、転移転生をもって神が異世界からよびだし力を与えた勇者達。
しかし制約付きの勇者達では魔王を倒すことはかなわず、犠牲者だけが増えていった。
ついに魔王は大陸中央の帝都を制圧。残すは辺境のみとなる。
そんなある日、魔王が目を覚ますと、枕に大量の抜け毛を発見。
あわてた魔王は、毛根一つ一つに心をこめてスキル「勇気」を使用。
安心したところで、ほぼ魔力切れの状態だけど辺境だしろくな戦力ねーだろ大丈夫大丈夫、みたいな感じで進行開始。
思いっきり油断していた魔王は、発光体に倒され、ようやく全てから解放される。
その死に顔はふさふさであったという。享年518。
■シエル
邪神を崇拝し、邪神の影響をうけて変質した、かつては人であった一族、魔族最後の生き残り。魔王と共に世界に反旗をひるがえす。
魔王の趣味で女装させられていた。ゴスロリ系の奴。あとフリフリのロリ系とか黒レザーのボンデージの奴。魔王の趣味で。
魔王と共に辺境の畑に襲いかかるが、いまいち不調の魔王がよくわからないうちに速攻でやられ、一人頑張って立ち向かうも太郎に敗北する。
その後、自分を打ち負かした太郎と、やや濃いめの友情を育む。
最後の魔族としての自分を考えたシエルは、己の、魔族の血を残したいと思うようになった。
考えに考えた結果、太郎の子を産みたいという斜め方向に脱線した結論に到達。
その方法を探っていた時、辺境近くの洞窟で、カズヨシという異世界より転移してきた元勇者と出会う。
この出会いが、世界を少し歪ませることとなる。
カズヨシの協力を得て、妊娠する手段を手に入れたシエルは、太郎をだまくらかして懐妊に成功。
最終的に太郎との間に一男一女をもうけて、それはもう大変なことに。
太郎達と共に別大陸に移住、そこで太郎の死を見送り、エレナを看取る。
その後も村の仲間や太郎と自分の子孫、太郎とエレナの子孫を見守りつづけた。
自分達の子孫が国を立ち上げるのを見届けて静かに息を引き取る。享年245。
■カズヨシ・サイトウ
約20年前に打倒魔王のため、異世界より転移させられてきた勇者達の一人。
神より、制約つきのスキル勇気を与えられ、魔王討伐を依頼される。
勇者としてのつとめを果たそうとしていた彼は、辺境近くの洞窟を探検した際、そこにひっそりと棲息していた“触手”と運命的な出会いをする。
異世界転移前の彼は、いやらしいゲームや本の触手ジャンルに対し、並々ならぬ情熱をかたむける少し変わった性癖の人物であった。
その彼が本物の触手と出会ったことで、リミッターというか、彼を普通の人間たらしめていた何かがぷつんと切れてしまった。以後彼は、触手ジャンルの現実化それだけのために人生を消費していくこととなる。
まず触手を徹底的に研究した彼は、性質や特性について理解を深め、その後人間を襲って犯すように調教と訓練をかさねた。
そんなある日、近くの村に住む可憐な少女が洞窟の辺りに散歩にやってきた。
これぞ夢の実現、願望の現実化、妄想の可視化の絶好のチャンスと見た彼は、万感の思いをこめて触手に襲うよう指示をだした。
指示を受けた触手は、日頃の訓練の成果をみせるかのようにそばにいた彼に襲い掛かり、ぐっちょんぐっちょんに犯して、記念すべき被害者第一号にアヘ顔ダブルピースを決めさせた。
成功か失敗かでいえば明らかな大失敗だったが、夢の実現まで後一歩だった、とポジティブに考えた彼は、さらなる研究に没頭。触手に犯されて妊娠して触手を出産させるという、ややニッチなジャンルに到達する。
しかし、触手が人間を妊娠させるという、夢物語……というか与太話は果たして実現可能なのかという困難が彼の前にたちふさがった。
その困難を前に、彼はスキル「勇気」を何の迷いもなく使用。
もはや彼の目に、魔王とか世界平和とかそういうのは写っていなかった。
こうして人間を妊娠させることのできる触手が誕生、彼の野望は実現にむかって突き進む。
そんなある日、近くの村に住む清楚な少女が洞窟の辺りに散歩にやってきた。
これぞ千載一遇のチャンスみた彼は、夢の実現、その期待に全身を震わせながら触手に少女を襲うように指示した。
案の定、触手は隣にいた彼に襲い掛かり、ぬっちょんぬっちょんに犯して、再びアヘ顔ダブルピースを決めさせる。あとついでに妊娠させた。
困難を乗り越えすぎた触手は、男も女も関係なく妊娠させるという、節操のないというか見境のない代物に進化していた。
これをきっかけにさらなる研究に没頭した彼は、12回妊娠して15体の触手を出産するというよくわからない偉業を達成する。
12回目の妊娠時、お腹が大きくなっていたところをシエルに目撃される。
男が妊娠しているという、世の理から外れた風景。しかしそれはシエルの望む世界であった。
シエルがその思いを熱く語った結果、カズヨシは“触手を使ってショタっこが好きな男性の子を妊娠する”という、そりゃおめーニッチにしても狭すぎだよ! という感じの訴求対象がどこにいるのかよくわからないジャンルに目覚める。
しかし現段階では、妊娠しても産まれるのは触手……これをどうにかして人の子が産まれるようにしなければならない。
この困難を前に、彼はおそらく生涯最後になるであろうスキル勇気を何の迷いもなく使用。問題は滞りなく解決した。
感謝の言葉を述べ、笑顔で村に戻っていくシエルを見送った彼は、自らの研究の集大成、人生の目的そのものである触手を改めてながめる。
その触手が切り開いた、切り開いてしまった世界。
誰もが妊娠出産できてしまう世界。
彼の人生そのものである触手が生み出す新たな世界。
この世界を広げよう、今ある世界を覆い尽くすほどに!
新たな目的を手に入れた彼は、触手と共に旅に出た。
たくさんの忌避、非難、拒絶、そしてわずかな感謝。
長い長い旅の途上、彼は病に倒れる。
街道わきの大きな木の下で、触手の隣に横たわる。
体調がよくなったら、道の向こうに見える町に行こう、そこで触手と一緒においしいものでも食べて、それから、それから……
微笑みながら目を閉じる。そしてその目はもう開くことはなかった。
最後まで前を見続けた。夢に向かい続けた。
ただ、人生が足りなかった。
ただ、それだけだった。
彼の遺した足跡は、世界をわずかだが確かに変えた。享年48。
■触手
粘液に覆われた多数の触手をもつ正体不明の存在。
いつのころからか、辺境近くの洞窟でうごめいていた。
相手の嫌悪、恐怖などを察知して近寄る習性をもつ。
たまに人と遭遇するが、近寄ろうとすると即座に逃げられるので、接触をもつ機会はなかった。
そんなある日、自分に対して喜びの感情剥きだしにして近寄ってくる、カズヨシという人間に出会う。
この妙な人間は、喜びといういままで見たこともない感情に驚いて逃げようとする触手を捕まえ、妙な訓練を施す。
ある日、洞窟の近くに人間がやってきた。
カズヨシは何か言った。触手は襲いかかった。カズヨシに。
これまで触手が攻撃した人間は、苦痛や恐怖等の暗い感情をまき散らしながら死んでいくだけだった。
カズヨシはなんか喜んでいた。変な顔して両手チョキしてた。
恐怖と苦痛、絶望や屈辱しか食べてこなかった触手は、喜びを初めて食べた。
嬉しい、そんな感じの何かが触手の中にうまれた。
それからずっと触手はカズヨシのそばにいる。
カズヨシは旅に出る。触手はもちろんついていく。
長い旅の途中で、カズヨシは倒れ動かなくなった。
触手は静かに、いつものように寄り添う。カズヨシと同じようになりたい、そう考えて同じようになった。
ひとりとひとつは、ゆっくりと分解され、混ざり合いながら沈んでいった。
もう、あふれることも、形になることもない。
最後までそばに寄り添い、これからも共に在りつづける。
ただ、それだけ。享年不明。
■触手(子)
触手とカズヨシとの間にできた子供。15体兄弟。
ひとりとひとつが遺した伝説や噂をもとめ、やってくる人間達に妊娠する手段を与える。
男性の場合は、体内に触手の一部を寄生させ、それを腟と子宮の代わりにした。
体内の触手は、睾丸から精母細胞を採取し、それをもとに卵子に限りなく似たものをつくる。
そこへ精子がくれば、受精して限りなく人に近い何かが産まれる。
女性の場合は、一部分だけ外部に露出した状態で寄生。やはり卵巣から卵母細胞を採取、限りなく精子に近いものをつくる。
これを卵子と受精させれば、限りなく人に近い何かが産まれる。
生殖細胞を別のものに作り替える時に混ざる何か。
触手の何かが混入していく人類。
遠い遠い未来、混入しつづけた何かは、ある時境界を越えて人類を未踏の世界へと導く。
人でありながら人ではなくなった人。神の祝福――管理から外れてしまった人類。
あたたかく、やさしかった世界は、表情を変える。
世界からの庇護を失った人という種族。
これは逆にいえば世界からの制限を受けなくなったということ。
真の自由を手に入れた人類は、新たな段階へとなんかどこかで見たような話になってきたなあ。よし、これはなかったことにしよう。
触手は今日も元気にうねうねしている。
明日もきっと元気にうねうねしているだろう。
昨日元気にうねうねしていたように。
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