透き通る気持ち

姫路 りしゅう

0:Last scene

「ごめんね」

そう溢したユズは、罪悪感よりも、安心の方が大きいように見えた。

「ごめんね、トモくん」

 ぼくは見ていることしかできない。

 離れたところで、ただ見ているだけ。


 自分の最愛の人が、いままさに別の男の腕に抱かれている最中だというのに、ぼくは動けなかった。


 男がユズの唇に指を当てた。

「こういう時、別の男の名前を出さない」

 そしてそのまま唇を重ねる。

「んっ......」

 ユズはぼくに気付かず、小さく吐息を漏らす。

 ぼくは見ていることしかできない。

 数度、軽い口づけが交わされる。

 唇が離れた後も、お互いに見つめ合っていた。

 ユズは一瞬目を伏せて、今度は自分から男にキスをした。

「......」

 ぼくは見ていることしかできない。

 本当は見たくないのに、なぜか目が吸い寄せられてしまう。

 ユズ。

 ユズ!

 弾けるような彼女の笑顔が脳裏に浮かんだ瞬間、二人の舌が絡み合ったのがわかった。

 

 ぼくの頬を、涙が伝ったような気がした。

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