/1ミツバツツジ 抑制のきいた生活



〔記録 終わりの始まり〕


2○○○年 +月☆日

星全土における連鎖的巨大地震発生

全世界天候観測機構より異常気象警報発令

各地にて原因不明の人体発火現象が確認

急速的や海面上昇により<%○大陸が沈没


「あー、えーと、それからなんだっけ?」

がり、と男は頭を掻きむしった。膨らんだ、跳ね散らかした、という言葉すら生優しい。おそらくは数日洗っていないであろう頭皮を爪でガリガリと引っ掻くと痛気持ちさに落ち着いてくる。


机と呼ぶには半壊した木箱の上に置かれた黄ばんだ紙に記される文面の堅苦しさとは正反対に、男は乱雑で適当な様子でため息をついた。


「くそ。何が記録だよう。こなもんいらんじゃろ。こぉ、一言。色々あって滅びました!でえぇじゃろぉ…」

もうすっかり男のやる気は削がれてしまって、眠気が襲っているわけでもないのにあくびまで出る始末。


星は退廃した。

男が紙に記された物事以上に、それこそ、“色々あって”その果てに廃れた。何億とかけて築き上げられた文明も、幾年も継ぎ足され続きたい文化も、大いなる無邪気な悪意の前にはなんの役にも立たずあっさりと。

突然の大雨に茹だるような暑さを異常気象と騒いでいた頃が懐かしい。いや。あのかつてにおいては確かに異常であったし、困り果てていた事案ではあった。けれど、星が退廃したのはそれらの地続きに、起こるべくしてと考えるにはあまりに同時多発的に予兆なく起きたので考え好きは何らかの陰謀論やらを唱えていた。


男は決して信心深いような類の人間ではなかったが、多宗教受け入れ国家のオタク文化が盛んな国の血が混じっているせいもあってか神の存在については否定的ではなかった。だからこそ思う。神様がいるならきっともういない。


陰謀論なんかの動画を見ては「ばからしい」「あーそれは確かに」「考えてんなぁ」とやじを飛ばすだけの人種ではあったけれど、こればかりは思ってしまう。陰謀とは呼べないかも。でも、神様がこの星を滅ぼしたくてちゃんとそうしたんじゃないか、なんてこと。


男は果たして運が良かった。あるいは、悪かった。だから今、こうして五体満足…とは少し違うけれど。生きている。


「こんなもん、残す意味がわからんが。…まぁ言われとるし。記録ンつけるかぁ」

億劫な仕草で再びペンを取ると、面倒がっても丁寧な文面を綴っていった。



記録

×月〒日 退廃世界の生き残りのうちドクトルによって信心種が誕生

これにより毒に侵される星の中において“ ”が実現される試みとなった



男には白い羽が生えていた。廃れた世界にはあんまりにも美しい天使のような羽が生えていた。

どうしてもその紙に「希望」なんて言葉だけは書きたくなくて、埋まることなく空欄だけが存在した。

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