ジェームズ・モリアーティはなぜ死んだのか

 ジェームズ・モリアーティはシャーロック・ホームズを一度は殺したが、瞬時にライヘンバッハの滝から舞い戻ってきたホームズによって抹殺され、逆にライヘンバッハの滝に投げ込まれた。ホームズは柳生と契約し蘇ったのだ。

 このときモリアーティには日本へと逃れた子息がいた。

 これがジェームズ二世である。二世は伊賀流忍者の隠れ里(三重県伊賀市郊外)で育ち、伊賀の者と交わった。そして伊賀の者と二世の間に生まれたのがメアリ・クラリッサ・モリアーティである。伊賀の隠れ里でメアリは健やかに成長し、両親から犯罪術と忍術を教えられて育った。だがある日、柳生一族による地球地域活性化政策が施行された。

「簡単な推理だよ。火力の優勢こそが戦場の問題を解決する鍵ということさ」

 超々巨大複合商業施設『日本』建築の為、西日本の土地所得を任されたホームズはワトソンにそう語り、四十センチ砲搭載のムカデ型自動建築機械十体による砲撃で伊賀市を更地に変えた。

 ホームズが率いるのはブリテン柳生とソビエト柳生の混成部隊だった。ホームズは自動小銃を装備するソビエト柳生を率い、ワトソンは大小打刀と脇差を差したブリテン柳生を率いた。

 伊賀の隠れ里は伊賀市内に存在し、このときメアリは中学生だった。

「柳生の末席に名を連ねるのだからね。効率的な殺戮を行わなければならないというわけだよ。さてゴミ掃除の時間だ。総員着剣」

 半日における砲撃で市街を焦土に変えると、ホームズは先陣に立ち一般市民に斬り掛かった。このときホームズは砲撃を生き残った伊賀流忍者百人斬りを果たしたという。

 ともあれ燃える市内の中で柳生剣士に一般人が切り殺されている中でホームズとモリアーティの末裔は出会った。

「同志名探偵殿、何者かに次々と我らの同志剣士が切り殺されています」

 ソビエト柳生出身の男がホームズに報告すると同時に投擲された銃剣が刺さって死亡した。メアリが数百メートルの距離から銃剣を投擲したのだ。メアリは実家が伊賀流忍者であるため、投擲が得意であった。

 砲撃が始まった段階ではメアリは下校途中で、表道具を持っているわけがなかった。メアリは一般人に斬りかかる柳生剣士を徒手空拳で襲い死骸から刀を奪った。剣士を殺すごとに刀を奪い、戦場の狂気の中で六刀流を編み出したのだ。

 もしも柳生が伊賀市を焼くような政策を行わなければメアリは殺人の才を開花させずに一生を終えただろう。

 見晴らしの良い焦土の中、柳生剣士を次々と切り殺しメアリはホームズに迫った。

「こんな世界の果てにあのモリアーティの末裔が居たとは……これも予め決められていた現在イマというわけか」

 ホームズは逸脱の推理力により、メアリがモリアーティの末裔であることを看破した。無いに等しい判断材料から真実を見出すことのできる才能がホームズの推理力だった。

「このイカレ探偵野郎がッ!!何も知らない一般人カタギを殺戮するのが名探偵の仕事か!?」

 メアリは刀を指の間に挟み、片手に三つの刀を振るう。単純計算であるが、これは通常の三倍の殺傷力を持つ。当たればの話であるが。

 メアリの連撃を避け、ホームズは距離を離そうと逃げ回る。

「何故私が世界一の名探偵にして柳生剣士の一人、シャーロック・ホームズと分かった?」

 このときのホームズはライヘンバッハの戦いで受けた傷を隠す包帯で顔面を全て覆っていた。外見からホームズを判別する材料は無い。

「僕も解らない」

 ホームズがホームズであることを何の判断材料も無く看破した。これは一体どういうことだろうか。だが、そんなことは戦場において些事だ。

 剣の間合いから大きく距離を取ったホームズ。メアリは六本の刀を全てホームズに投擲した。一つ一つが装甲車の装甲を貫くような必殺の一撃であった。ホームズはその刀をすり抜け、メアリに掌底を叩き込んだ。

「私は柳生の中でも無刀を極めた柳生でね。相手の武力が多大であればあるほど力が増す不剣理ノンロジックという異能を持つのだよ」

 そう言ってホームズは焦土に崩れ落ちるメアリに背を向け、伊賀市の土地所得を完了とした。

「同志名探偵殿、そこの不穏分子はどういたしますか?」

 また別のソビエト柳生の剣士がホームズに尋ねた。

「何もしてはならない。これは四百年前から未解決の江戸幕府簒奪事件を解く鍵だからね」

 ホームズはメアリを見逃した。ホームズにとってもっとも重要なことは謎を解き明かすことであった。それは柳生の利益より優先される。

 ホームズたちが去って三時間後、意識を取り戻したメアリは逃げた。既に鎮火した市街から山を登り、大阪に逃げた。そして海を越え、不法入国した合衆国で、ミスカトニック大学に検体として保護された。

 現在ではニコラ・テスラ直属の秘密工作員としてミスカトニック大学に所属し、柳生殲滅計画に携わっている。

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