祖父母~父方の罪、母方の優しさ~




「アトリア様」

 セバスさんが、夜私の部屋にやってきた。

 重い表情をしている。

「何でしょうか?」

「クロスレイン子爵が貴方をお見えになりたいと」

「クロスレイン……子爵?」

 嫌な予感がした。


 客間に行くと、父によく似た吸血鬼の男性と、吸血鬼の女性がいた。

「アトリア様のお父上ティーダ・フォン・クロスレインの父アリウス・フォン・クロスレインとアリー・フォン・クロスレインだそうです」

 セバスさんが私にささやく。

「真実かどうかは?」

「真実でした」

 その言葉に、私は怒りの感情が芽生えた。

「何をしに来たのですか? 今更」

「ティーダが人間の平民にたぶらかされ居なくなり、死んだ事をしり私達は絶望したのだ、だが、人間の血を引いているとは言え、子が居た。ならば引き取ろうと──」

「お断りします」

「何故⁈」

「母と父は愛し合った、母は父をたぶらかしたりなんてしていない、人間という事だけで排除していたのは貴方達の方だ。そんなに人間の血が入っているのが嫌なら二度と会わなくて結構です」

「良く言ったアトリア」

「良く言いましたねアトリア」

「良く言ったわアトリア」

「良く言いましたわアトリア」

 グレンにアルフォンス殿下、ミスティにフレア、皆いつからそこに居たのだろう?

「大方、王族との繋がりが欲しくて今更のうのうと顔を出したのでしょう?」

 アルフォンス殿下の笑ってない笑顔で言う言葉に、祖父母は青ざめる。

「そ、そんなこと、誓って……」

 アルフォンス殿下は赤い石を見せる。

「貴方の今の言葉を真実の石は虚偽と判断しました」

 アルフォンス殿下は冷たいまなざしを二人に向ける。


「今後私の伴侶アトリアに二度と近づかないでいただこう、出なければ家を取り潰させて貰う」


 二人はひっと悲鳴を上げて、セバスさんに屋敷から追い出されてしまっていた。

「水でもまけたらいいのだがな」

 そういや、この世界だと塩の代わりに水まくんだっけ。

 でも、アルフォンス殿下達が居るから水をまけないのかセバスさん悔しそう。


「アトリア」

「は、はい」

 アルフォンス殿下に呼ばれ、私は振り向くと抱きしめられた。

「今後、君が利用されないような環境を作ります。約束いたします」

「殿下……」

「ちょっと殿下、抜け駆けはなしですわよ!」

「そうだそうだ!」

「そうですわよ!」

「おっと、これは失礼」

 そう言ってアルフォンス殿下は私を解放した。

「それにしても吸血鬼至上主義とは久々に見たな、父上に報告せねばなるまい」

「吸血鬼至上主義?」

 私は首をかしげる。

 言葉通りなら、吸血鬼こそ至上の存在というものだろう。

「聖ディオン王国の人間至上主義とは真逆の思想。吸血鬼こそが人間を支配するべき存在だというものだ」

「国王陛下──真祖様が禁じられた思想でございます。吸血鬼と人間、共に生きて行かねばならないのだと」

「……」

「おそらくアトリアの人間の血を排出させようとしていたのだろうね」

「え?」

「そうか、まだ習ってないから知らないのだね、ダンピールの血に過度の吸血鬼の血を与えると、人間の要素の血が排出され、吸血鬼になってしまうんだよ」

「っ……!」

 そんな事が起きたら母との絆が断たれてしまう気がしてぞっとした。

「ちなみにこれも禁忌行為とされています、もしやったら取り潰しじゃあ済まないだろうね」

 にこりと笑うアルフォンス殿下がかなり怖く見えました。


「アルフォンス殿下、アトリア様をあまり怖がらせるものではありません」


 セバスさんが苦言を呈する。

「ははは、すまない。あまりにも可愛く見えたものだから」

 そんなアルフォンス殿下がちょっと怖いです。


 それから数日後、一人で学園の中庭で過ごしていると見慣れない人物達がやってきた。

 何かを確認するような仕草をしてから、私に襲いかかってきた。


 とっさの事だが、今まで修羅場は伊達にくぐってない。

 全員叩きのめした。


「アトリア、大丈夫ですの?」

「おい、大丈夫か、アトリア!」

「大丈夫か、アトリア」

 レオンとグレンが襲いかかってきた連中を縛り上げながら言い、カーラは私の体を触って傷がないか確かめているようだ。

「やはりアトリアを狙ったか」

 アルフォンス殿下は忌々しそうに呟いた。

「アトリア、怪我はないかい?」

 そしてすぐ穏やかな表情に戻り、私に言う。

「は、はい」

「さて、では──」


「罪人の処刑を始めなくてはね」



 依頼者はすぐ判明した。

 私の祖父母だ。

 大量の吸血鬼の血を用意してあり、私を吸血鬼にする準備を整えていた。


 そこから芋づる式で吸血鬼至上主義の連中が捕まった。

 結構な数板らしく、国王陛下──真祖様は頭を抱えになった。

 アルフォンス殿下の進言もあり、各領地を徹底的に調べると、人間が民で吸血鬼至上主義の領地では人間はおもちゃ扱い、奴隷扱いと酷い様。

 それを見せないように、吸血鬼至上主義の領地では人間を脅していたそうだ。


 もちろんそんなことやっていた連中は処分、アルフォンス殿下が事前に問題ないと調査した貴族達に任せることにしたという流れだ。



 祖父母が処分を言い渡された時、私に嘆願してきた。

「アトリア、どうか慈悲を!」

「そうだ、アトリア、お前の祖父母なのだぞ、私達は!」

 その言葉に私はこう返した。

「私と母の絆を切り裂き、父が愛した母を愚弄した貴方を救う気は無い」

 その後わめき散らしたが、処分が確定し、処分されたそうだ。


 祖父母を失った、という悲しみはない。

 寧ろ、私の母を侮辱した連中が消えてさっぱりしたという気分だ。


「私の母方の祖父母達はどうなったんだろう?」

「既に父方の者達に処分され、亡くなっております」

「墓は?」

「ありません」

 それにずきんと胸が痛んだ。


 きっと私は恨まれているだろう。

 こんな私が幸せになってよいのだろうか、不安が残る。


「アトリア様」

「?」

「亡くなられたお母様が、自分が恨まれていると思っていると感じているようなら渡すようにと」

 そう言ってセバスさんは私に手紙を渡してきた。

 封を切り、中身を見ると、母の筆跡だった。





 アトリア、もし貴方がティーダの祖父母に会い、そこで何かあったとき、恨まれていると思ったならそれは間違いです。

 私の母も父も、貴方が生まれてきてくれることをとても喜んでくれました。

 ですが、ティーダの父の領地では危険だと私達を送り出したのです。

 父と母にも来るように言いましたが、老体は足手まといだ、といい着いてきてくれませんでした。


 だから、アトリア。

 ティーダの父母は貴方の出生を喜ばなくても。

 私の父母は、貴方が生まれてくることをとても喜んでいたのよ。


 愛しいアトリア、貴方が何も不安になることなく幸せになることを私は願います。





 目から涙があふれてきた。

 手紙を汚さないようにしながら、ハンカチで目を覆う。

 セバスさんも手紙を読んだようで、それを丁寧に仕舞い微笑んだ。

「アトリア様、貴方のお母様は嘘を言う御方ではありません、私もお会いした時色々とお話を聞きました」


 セバスさんは語ってくれた。


 母と父の出会い。

 二人は一目で恋に落ちた。

 吸血鬼の時間帯ではない日中に無理をして母に会いに来た父。

 そうして逢瀬を重ね、妊娠した。


 その後生まれてくる私と母を守る為に、家の財産の一部を持ち出して母と駆け落ちをした父。

 その際母方の両親を連れて行こうとしたが、足手まといになるからと譲らず時間もないということで置いていくしかなかった事。


 父はそのことを悔いていたこと。

 だからその分私と母を愛そうとつくしてくれたこと。


 など色んなを私に教えてくれた。

「どうしてセバスさんは母にそういうことを?」

「私がアルフォンス殿下の従者であり、今後もアトリア様をお世話させていただく立場の者だと言ったら快く話してくださいました」

「母さん……」

「本当は自分の口から貴方自身に話したかったそうです。ですが自分の残された時間が分かっていたらしく、私に託してくださいました」

「……」

 学園に行っていなかったら、聞けていただろうか。

「アトリア様のお母様は貴方が学園に行ったからこそ話すことができた、とおっしゃいました。そして、アトリア様を愛してくださる方々を見て、この方々ならアトリアを任せられると信じたのです」

「母さん……」

「だから、アトリア様、幸せになってください」

 その言葉に、私ははいとも、いいえとも言うことができなかった──






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