第99話

「えぇ〜〜なんで帰っちゃうわけ!? 鈴ヶ丘高校を応援してってよ!!」

「だから、応援のためだけにココに残るのは、予算的にもしんどいんだよ」


 現在、先ほどの4人で昼ご飯を食べている。

 キーホルダーを贈呈した件の事もあり、日高が奢ると言い出したからだ。

 そのため試合会場の近くにあったパスタ屋さんへとやって来ている。


 このお店の名物らしい「あんかけパスタ」を食べているのだが、その名の通りパスタの上に「トロトロした餡」が掛かっている。

 どうやらご当地グルメらしいのだが、ボリュームもあり、結構美味しい。


 隣のテーブル席では妖狐が楽しそうに会話しながら、熱々のパスタを食べている。

 対面に座っているのは「久保田くぼた美結みゆ」と言うらしく、鈴ヶ丘高校の補欠メンバーらしい。

 学年は妖狐と同じ1年生だ。


 久保田の髪は銀色っぽいショートヘヤー、童顔なのだが、妖狐とは違い性格はしっかりしている。

 ドラゴンの魔力はともかく、おとなしそうな雰囲気でパスタを食べている。


 俺の目の前にいる日高は箸を使って食べているのだが、、よく食べる奴だ。

 パスタ大盛りを食べ終え、ゴクゴクと水を飲んだならば、デザートを注文したようだ。

 しっかし、本当によく食べる奴である。


「ん〜じゃあさ、今度ウチと練習試合しようよ!! 県も近いんだしさ、最悪オンラインでもいいじゃん。色々メンバー組んで〜絶対いい経験になるって!!」


「練習試合か、悪くないな。本城や武田にも声をかけてみるか? インターハイが終わった後なら、しばらく公式戦はないしな」


「いいじゃん、いいじゃん!! せっかくだしさ〜っちとかにも声かけとくよ。今年はインターハイ出れなかったって言ってたけど、元高校弓道部同期、しゅうけつ〜ってね!」


 日高はウキウキしながら、注文したデザートを食べ始めた。

 それにしても、このみってどんな奴だったか。

 俺は過去の記憶を呼び起こすも、やはりボンヤリとしたシルエットしか浮かばない。

 結局思い出すのを諦め、俺はパスタを食べ終えると、冷たい水を軽く喉に流し込む。


(元弓道部か、そっか)


 全員ではないものの、昔の弓道部員が集まるのだ。

 少し楽しみな気持ちにもなる。

 俺が過去を回想していると、日高がアイスクリームを食べながらこんな事を聞いてきた。

 それは、これからの公式戦についてである。


 基本的には3年生が出場する大きな公式戦はもうない。

 大きな試合と言えば国民体育大会、通称『国体』くらいなものだ。


 別に他の試合が無いというわけではないが「新人戦」だったり「〇〇盃」だったりと、その規模は小さく、あまり念頭には入れてない。

 それに国体の競技ルールには、従来の競技ルールが適用されるため、これから『斜面打起し』へと切り替えるウチとしては、国体に向けた練習をするといった余裕は無い。

 その事を伝えるなり、日高は首を傾げた。


「国体はともかく、弓道FPS盃があるじゃない。あの試合は非公式戦だけど、規模は全国クラスよ? 後藤の高校はインターハイに初出場だから知らないかもしれないけど。まぁともかく、その大会も規模はあるよ?」


『弓道FPS盃』日高に聞くところ、要は弓道FPSの国体バージョンらしい。

 各県で代表選手の選考会を行い、選ばれた3名がその県の代表となり、まずは地方別の予選で戦うと言う。

 そこを突破した優勝県には、各地方戦を勝ち抜いた県と戦い、全国1位を決めるという。

 選考会の参加条件としては、インターハイに出場経験がある、もしくはお偉いさんからの推薦が必要との事。

 今回で真弓高校は出場権を満たしているので、選考会のお呼びがあるだろうとの見解だ。


「なるほどな。だけどウチから出る選手は居ないかもしれないな〜」

「そうなの? ま、あたしにゃあんま関係ないけどさ。でも選手が出なくたって、選手を強化する顧問に選ばれる事だってあるのよ?」


 日高の言うように、国体の場合においては、国体選手強化のため、各校の顧問からの推薦等を考慮し、教える専門で顧問のみが参加する場合がある。

 要は『弓道FPS盃』でもそれは同じだそうだ。


 ただ、俺的にはあまり興味がない試合なので、選考会参加の有無は、部員達に聞いて見てから考えようと思う。

 ちなみに、その試合の選考会は10月頃にあるらしいので、慌てて考える必要はないと思う。


 日高がデザートを食べ終わり、妖狐と久保田も食べ終わったようだ。

 約束通り日高が食事を奢ってくれたのだが、一応やると言った事はちゃんとやる奴なので、そこは律義な奴だとは思う。


 パスタ屋さんから外に出るなり、妖狐が久保田を遊びに誘っている。

 おいおい、さすがにそれはちょっとなぁ……

 補欠選手であるとはいえ、日高も了承しないだろうよ。

 それを聞いた日高は腰に手をあて、何かを考えているようだ。


(さすがの日高でも、試合中に遊びに行く事を了承しないだろよ。妖狐も、もう少し大人にならないとな)


「ん〜まぁいいわよ! どうせ明日は交代させる気ないし。知らない土地で女の子2人だと不安だから、後藤もついて行ってあげてよ」

「……なんで俺がついていくんだよ? それに、おっさんがついて行って、逆に怪しまれないか?」

「いいじゃない別に、どうせ試合もないんだし。選手のメンタルケアも、立派な顧問の仕事よ? んじゃ、あとはヨロシク〜〜!」


 そう言って、日高はスタスタと歩いていった。

 俺はため息をつきながら、妖狐達について行く必要はないだろう?

 と聞いてみた。


 すると妖狐はペロリと口角を舐め、久保田はモジモジとし始めた。


「なんじゃ、妾が誘拐されても良いのか? お主はちと、繊細さデリカシーを考えたらどうじゃ?」

「あ〜っと、その…大人の人が居てくれたら、安心かなーなんて…」


(あぁ……面倒くせぇ事になっちまった…2人ともいく気マンマンだし。何でこうなるかな〜)


 俺は一応、アプリ「YUMI」で連絡をしておく。

 返事の内容はまぁ、それはそれは酷いものであったが……

 こうして、アリーナの横にあるお城を観光する事となったのだった。

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