第44話「激突! 二匹の蛇」

「矢野と榊󠄀原は、窓枠の両端を同時に射ったのか?」


 基本的に、窓枠はアルミ製の材質なので、矢を2本同時に中てたなら、吹き飛ばす事は可能である。

 だが、まさかここでそれをやるとは、驚いたものである。


「フッフッフッフ、面白い」


 武田のその笑いは、とても不気味なものだった。不気味と同時に、少し恐怖をも感じる。


(なんだ……この嫌な感触)


 *


 二ノ宮高校の選手が一人、光の霧となり退場する。


「おのれぇぇ……おのれぇぇぇぇ! よくも、よくもやったなぁぁぁ!!」


 北条が怒る叫び声が、ステージを駆けめぐる。

 その隙に藤原は中庭を抜け、西側の校舎にへと入りこむ。


 北条は怒り狂うようにして、矢をつがえた。


「いいぜぇ、教えてやるよ……"海蛇の北条"の……恐ろしさをなぁぁぁぁぁ!!」


 北条は残りの矢を雑に射ると、わざとリロード時間となる。

 その間、割れた窓から西側の校舎内へと飛び込んだ。

 そのまま上の階を目指し、猛烈な勢いで階段を駆け上がっていく。


「まずいニャ!! 2人とも、気をつけるニャ!! 北条がそっちに行ったニャ!!」


 藤原は校舎の外に出て、屋上にいる筒野をめがけて矢を放つ。


――――バシュンッバシュン!


 筒野が怯んだ隙を狙い、矢野と榊󠄀原は屋上へと上がる。

 矢野は鳩小屋の側面に回り込むと、筒野をめがけて矢を放つ。


――――バシュンバシュン!


 榊󠄀原は入口付近で矢をつがえ、会へと入る。登ってくる北条を待ち構えているようだ。


 遅れて藤原が屋上を目指し、階段を駆け上がろうとしていた頃――その海蛇うみへびは、屋上へと現れた。

 榊󠄀原は出てきた瞬間を狙い、矢を射る。


―――――バシュン!


 北条との距離はさほどなく、捉えたかのように思えた。

 だが――その海蛇は体を捻じ曲げ、紙一重で矢を避けた。


「あめぇよ! あまめぇんだよぉぉ!! キンパツぅぅぅぅぅぅ!!」


 北条のリロード時間は、まだ少しある。

 そう思った、矢先だった。


―――――〈ドシィィィンッ〉――


 その一瞬の出来事に、俺は目を疑った。

 時間が、止まったかのように思えた。


 北条に体当たりされた榊󠄀原の身体は、勢いよく、屋上から弾きだされる。

 その榊󠄀原の身体は、徐々に中庭へと落下していく。


 地面へと激突したその瞬間。

 痛々しい音だけが鳴り響く。


 地面に落下した瞬間の、榊󠄀原の叫びは聞こえてこない。

 そして悲痛な表情をしたまま、その金髪の少女は、光の霧となり消える。

 その光景だけが、俺の脳裏に焼き付いた。


「まさか………舞?」


 そして、悲しげな藤原の声が、静寂している空間に虚しく響いた。


 *


 アリーナの観客席は、静まり返っていた。

 その出来事に、誰がどう思ったのかすら、聞こえてこなかった。


「後藤、これからが本番だなぁ! なあ、あおいぃ!!!」

「ふざけやがって!! この糞野郎が!!」


 *


――怒りのこもった、藤原の声―――――


「北条久美………お前は………」


「あぁ~ハッハハッハ!! おもしれえなぁぁ…おもしれえなぁぁぁ!!」


――楽しそうな、北条の声―――――――


 矢野は歯を食いしばり、耐えていた。

 今の自分が戦っても、勝てない……その思いが、唇を噛みしめたその表情から伝わってきた。


 藤原は勢いよく階段を駆け上がり、屋上へと飛び出る。

 そして北条を見つけるなり、睨みつけた。


――その瞬間、藤原は『毒蛇』となる――


 北条は藤原に反応すると、矢をつがえた。


「お前だけは―――私がたおすぅぅぅ!!」

「おもしれえ!! おもしれえなぁ!! ふじわらぁぁぁ!!」


 二匹の蛇が、蛇行しながら互いに矢を射ち合う。

 互いにギリギリで矢をかわしつつ、間髪いれずに射ち合う。


――バシュンッバシュンーバシュ!

       バシュンーカンッカン!―――


 矢野は歯を食いしばり、筒野に向けて矢を射る。藤原を援護するかのように、前に出て筒野を狙い射つ。

 筒野も負けじと、矢野に応戦する。


―――――バシュンーバシュッ!

―――――――ターンッバシュバシュ!


 校舎の屋上では、無数の矢が飛び交っていた。


「おもれぇなぁ!! ふじわらぁぁぁぁぁ!!」

「しとめる!! 絶対にぃぃぃぃ!!」


 矢を弾き、北条との距離を詰めながら、藤原は叫んだ。

 互いに残すは、一本の矢―――


――――そしてその距離――

          ――15メートル!――


 二匹の蛇は疲弊しながらも、双方大きく引き分け、会へと入る―――


 *


 アリーナの観客席からも、頑張れと、応援する声―――


「いけぇぇぇぇ!! 藤原!!」

「ニノ宮高校なんて、やっつけろぉぉぉ!!!」

「いけーーー猫ちゃゃん!!!」


 *


 最後の一本を射つ直前、藤原は言葉を発した。疲れているはずなのに、その声には、力があった。


「ハァ…ハァ…矢野……あとは、任せたニャ―――」

「ハァ…ハァ…筒野ぉ……負けんじゃねぇぞ―――」


 二匹の蛇は、その一射に力を注ぎ込むと、互いに睨み合い、同時に矢を放った。


――バシュンッ――――――

――バシュンッ――――――


 それは交差し、すれ違ったその矢は――互いを同時に貫いた――二匹の蛇は光となり、霧となる。


 そして―――消えていった


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