第30話 競技ルールについて

 矢渡しを行う光陽高校の選手達が、それぞれ『胴造り重心の調整』をする。


 持っている矢の数は、それぞれ1本。

 光陽高校の流派は『斜面打起し』だ。

 会場は、皆その選手達を、注視した。


・1番―大前

 弓構えると、丁寧に引いていく。会へと入ると、一瞬ビクりとする。だが、再び伸び合ってから、離れを出す。


――――カシュン―――パンッ


(なるほど、射形もバランスがいいな)


・2番―中

 弓構えから、小さく打ち起こす。じわじわと引き分け、会へと入る。そして離れ。


―――――カシュン―――ガンッ


(的枠ギリギリだが、的に中てたか。引き分けが長い分、会は短い)


・3番―落ち

 弓構えから、大きく打ち起こす。引き分けを飛び越え、一気に会へと入る。十分に伸び合い、離れ。


――――――カシュン

        ――――パンッ!


(的心か。上手いな)


―伸び合い―

 会に入ったあと、弓を押し、弦を引っ張る事。これが上手いと、離れがしやすい。


 静まり返っていた会場から、拍手が鳴る。

 それを見ていた妹尾が、興味深いといった様子だ。


「全員、詰めてきましたわね。なかなかやりますわ」

「そうだな……」


 光陽高校の選手は、全員矢勢があった。

 特に落ちで引いていた、緑色の髪をした少女……


("コンドルのまお"。なるほど、そういう事か。大きく引いて、勢いのある矢を射るんだな)


 矢渡しが終わり、選手達が退場したところで、再びアナウンスが流れる。


『それでは、これより女子の部から、試合を開始致します。出場する学校の選手は、招集場所にお集まりください』


 アナウンスが終わると、機械的に設備が稼働し、その設備がアリーナの地下へと収納された。


「ウチは2試合目だからな、ちょっと行ってくるよ」

「はい、わかりましたわ」


 妹尾は何やら、使用人からジャンクフードを受け取ると、食べ始めた。


(緊張感ないな〜さすがは妹尾だわ)


 俺は席を立ち上がると、アリーナ1階にある、招集場所へと向かった―――



 アリーナ内の廊下を通過し、招集場所となっている専用のブースへと移動する。

 その途中、廊下のあちらこちらには、ワイワイと騒ぐ他校の選手達で賑わっていた。


 招集場所へとたどりつくと、見慣れた弓道FPS台が、複数台設置されていた。

 1試合目の選手達が、互いに挨拶を済まし、その台へと入っていく。


 公式戦用の弓道FPS台は、一般の台より一回り大きい。

 その理由は、持ってきた道具を台に隣接してあるスキャン用の場所へと収納するためだ。

 収納した道具をスキャンし、仮想空間で忠実に再現する。

 練習用の弓道FPS台と大きな違いがあるとするならば、おそらくそこだろう。



そして、今回の公式戦は、以下のルールで行われる。


・感覚Lvー向上

・身体能力Lvー向上

・使用する道具ースキャン式

・矢の本数ー8本

リロード時間ー60秒


 そして、この選抜大会では、特別に設けられているレギュレーションがある。


・痛覚Lvー現実

・疲労Lvー蓄積


『痛覚Lv』とは、骨折や打撲といった部分に関してだ。

 ただ、弓から放った矢に当たったからといって、その痛覚が再現される事はない。

 要は無茶な競技方法を防ぐ目的があって、設けられている。

 なので仮想空間で骨折したとしても、現実で骨折するわけではない。


 ただし、受けた痛覚が試合続行が不可能な状態になると、ステージから退場する。

 例えば、深い水中に没する、高所から転落するなどだ。


『疲労Lv』とは、公式戦においては、疲労が蓄積されていくという意味だ。

 例えば、無駄に矢を射れば、それだけ疲れるという意味である。

 スタミナが向上しているとはいえ、限界はあるって事だ。

 ただしそれぞれの試合事、仮想空間内での話だ。試合が終われば、再びリセットされる。



 俺は招集場所に設置してある、モニターを見てみる。

 そこには、森林のようなステージで、矢を射ち合う選手達の姿。

 アリーナの観客席では、盛り上がっている歓声が上がっている。


「じっくりと観察したいところだが、まあそういうわけにもいかないよな」


 俺がモニターを見ていると、平安時代から来たのかと思うような服装に身を包んだ、おっさんが声をかけてきた。珍妙である。


「君かね? 真弓高校の顧問とやらは?」

「ん? あぁ、そうだけど?」

「ラッキーだよ〜初戦が真弓高校だなんて。君たち、弱小校だからね」


(なんだこのおっさん……頭にくる奴だな。ちょっと反撃してやろう)


「三本高校の顧問の方だな? なんだが、変な帽子を被っているみたいだが。それ、恥ずかしくないの?」

「ムキーー!! この姿の素晴らしさが分からないこの猿めが!!」

「ははは、面白い人ですね。でもそんな様子じゃ、ウチには勝てないね」

「ムッキーーーー!!」


 顔を真っ赤にして、頭からプンプンと、何やら白い吹き出しがでているようだ。

 このおっさん、雑魚キャラ感が半端ない。


「おい、変な頭。弓道で、白黒つけようぜ?」

「良いでしょう、覚悟しなさい」


 招集の係をしている人から、顧問の方も試合の準備をしてくださいとの指示があった。

 少し離れた場所で待機していた選手達が、こちらへと歩を進めたのだった。

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