彼岸手前の喫茶店
たこやき
第1話 樋野このえ
──────1年前、妹が死んだ。
誰に殺されたのかは未だわかってない。死体には何回も殴られた跡と乱暴の跡もあった。顔はもう原型をとどめていなかった。思い出したくなくてもほぼ毎晩夢に出る。妹が助けてと叫ぶが私は一歩も動けない。そして最後に見たあの姿で私に恨み言を吐くのだ。もう耐えられなかった。
今、私は人気のない道を歩いている。目的地は県内有数の自殺スポットである『雷鳥ダム』だ。両親も死んでいる。妹もいないこんな世界を生きる意味はもうない。この世に別れを告げようと思いここまで歩いてきた。
昨日は雨だったこともあり、木からはしずくがしたたり落ちてくるし足元はぬかるんでいる。スーツとビジネスシューズで来るにはあまりにも不向きだった。しかしこの服は亡き両親の形見で最後に着る服はこれがいいと思ったのだ。
ぬかるむ足元に苦戦しながら小一時間進んでると視界に小さい光が飛び込んでくる。こんなところに何があるのだろうと少し気になった。進行方向にあるのもありすこし見てみることにした。
そうして進むと途中から立ち並んだ木がなくなり空間が広がっていた。そこには木でできたロッジのような建物があった。看板を見てみると『喫茶清水』と看板がかかっていた。こんなところで喫茶店をやっていることに疑問を感じた。収益などはあるんだろうか。入ってみようかとも思ったが中には人がいないようだった。元の道にもどうかと思い踵を返した瞬間
「どうかされましたかお客様?」
そう急に言われびくりとしてしまう。背後に人がいたことに全く気づかなかった。しばらく唖然としていると
「どうかされましたかお客様?」
そう先ほどと同じ質問を返される。その言葉で意識が戻ってくる。
「いえ、歩いてたら何か建物があって、気になってきてみたらこの喫茶店があって驚いていたんです。あなたはこの喫茶店のオーナーさんですか?」
そう問いかけると目の前の男が答えてくれる。
「ええ。ここ『喫茶清水』を営んでいる四上というものです。こんなところで経営しているのもあって人がくることは珍しいんです。良ければ少し休んでいきませんか?先ほどちょうど頼んでいたコーヒー豆が届いたのでいっしょにいただきませんか?」
そういわれ何と答えていいか戸惑い「ええ...」と答えてしまいそのまま喫茶店の中に案内されてしまったのだった。
「では準備をしてくるのでカウンターでお待ちください」
言われた通りカウンターで待っていると白いシャツに長いエプロンを身に着けた四上が奥から出てきた。
「今コーヒーの用意をします」
と言い、袋に入っているコーヒー豆を取り出し機械に入れる静かな店内にコーヒー豆ががりがりと削れる音が響く。削れた豆を取り出したら計量しドリップを始める。その流れるような動作に感服していると、しっとりと落ち着いたジャズが流れる。コーヒーがこぽこぽと音を立てている。先ほどまで死んでしまおうと考え憂鬱だったことを忘れてしまうほどに落ち着いた空間だった。そんな心休まる時間を過ごしていると
「ブラジル産なので飲みやすいと思いますよ。お代は気にしないで大丈夫ですのでごゆっくりどうぞ。」
といいコーヒーを差し出してきた。一口飲んでみるとコーヒー独特の風味が口いっぱいに広がっていくが苦みがあまりなくどこか甘みを感じられ、四上の言う通りとても飲みやすいコーヒーだった。ジャズを聴きながらゆっくり休んでいると四上が話しかけてきた。
「ここは自殺の名所のすぐ近くです。ここに来る以上何か悩み事があるのでしょう?よろしければ話していただけませんか?」
店主がそう言ってきた。私はすこし悩んだ末、話すことにした。
「私には妹がいたんです。まだ高校生の優しい子でした。私の誕生日には必ずプレゼントを用意してくれ、家事もやってくれて、仕事から帰ってきた私のことをねぎらってくれる。そんな優しい子でした。でもある日そんな幸せな日常は壊されたんです。」
そこまで行った後、あの日の光景がフラッシュバックして言葉に詰まってしまったが、なぜか言わなければならない衝動にかられ続きを話し出す。
「一年前に殺されたんです妹。顔は妹だとわからないくらいにめちゃくちゃにされてしまい、もてあそばれた痕跡もあったそうです。両親はすでに死んでいて最後の血がつながった家族でした。私はあの子を自分の体以上に大事にしてきました。なのに誰にやられたのかいまだにわからないんです。警察が捜査してもわからなかったんです。私にできることもないんです。もう犯人が捕まることもないでしょう。もうつらいんです。毎晩妹の姿を思い出してしまう。そんな生活は耐えられない。だから死のうと思ったんです。」
そこまで話すと四上が口を開いた
「そうですか、大変だったんですね。でもここで死んでいいんですか?妹さんを殺した犯人に復讐しなくていいんですか?」
そういわれてついいら立ってしまった。
「あなたに何が分かるんですか。警察も半ばあきらめてしまっている。一般人の私にできることなんて何もないですよ」
そう怒り任せに言うと店主は落ち着いた言葉で話しかけてきた。
「もし復讐をしたいのでしたらお手伝いできますよ」
何を言ってるんだ。そう言おうと思い四上の顔を見上げる。そうするとそこには真剣な目で私を見る店主がいた。普通に考えて復讐なんてできない。そう思ったがそれ以上にこの人なら信じてもいい。そう思ってしまいつい
「できるんですか」
そう聞いてしまった。
「ええ、可能です。せっかくなのであなたにも手伝ってもらいましょう。一緒にあなたの妹さんの仇をとりませんか?」
もう悩みなんてなかった。何もできないと嘆いた私の手を取ろうとしてくれるその人に私は必死に手を伸ばす。
「はい。お願いします。何としても妹の仇をとりたいんです。」
「いい覚悟です。改めまして私の名前は四上啓と言います。あなたのお名前を伺ってよろしいでしょうか。」
「はい。私の名前は樋野このえです。」
そうして私の復讐が始まったのだった。
「なにをするにしても情報が必要です。妹さんの事件について少しでも分かっていることを教えてください」
四上に言われ、警察の人から聞いたことを伝える。
「はい事件は一年前に起きました。私が夜遅くまで残業で帰ってきたことから始まります。玄関のかぎを開けて中に入って妹の様子を見ようと妹の寝室を覗いたところ妹がいなかったんです。そこで嫌な予感がして家中を探し回ってもいなくて、そこで警察に駆け込みました。その場で捜索届を出して次の日から捜査が始まりました。私もビラを配って情報を募っていましたが全く見つからず1カ月経過しました。そして警察から連絡を受けました。妹の死体が見つかったと、最初は何を言ってるのか脳が認識していませんでした。私は呆然としたまま警察へと足を向けました。そこで見たのは顔が原形をとどめていない女性の遺体でした。最初こそ妹じゃないと思っていたんですが手元を見たとき私はそれが妹であると認識したんです。手元には私がプレゼントした指輪をつけていました。」
そこで一呼吸を入れるあの時を思い出して息が詰まってしまう。
「警察の人の話では歯型で身分の確認は終わってたみたいでした。手には強く握った跡があり、妹が指輪だけでも守ろうと強く手を握りしめていたそうです。犯人のことはほとんどわかっておらず唯一分かっていることは妹の遺体があった場所近くの防犯カメラに移っていた犯人らしき人物が犬の顔がプリントされたパーカーを来ていたことくらいで、他は何もわかっていないとの子です。」
そこまで語ると四上はすこし考える仕草をした後に
「なるほどそこまでわかっているとあとは何とかできると思います。」
そういった。最初私は何を言ってるのかわからなかった。警察が捜索してもわからないことをこの人は何とかなるといったのだ。
「善は急げです。樋野さん一緒に来てください。」
そう言ってついていくと喫茶店の裏に車が止めてあった。彼に言われそのまま車に乗り込むと四上は車を走り始めた。そのまま車を走らせ郊外へと出た。
そのまま駐車場に車を止め、ついてくるように言われ、薄暗い道を歩いていた。少し歩いていると大きめの公園が目に入ってきた。公園にはバイクが何台か止められており派手な服装をした人物が騒がしくしていた。異様な空気に戸惑いながら四上さんの隣で怯えていると、四上さんは不良たちに向かって話しかけた。
「久しぶりだね。みんな」
そう言うと同時に不良たちがこちらを向いた。と同時に腰を落とし膝に手を当て頭を下げてきた。そして全員が掃除に「押忍久しぶりです」と声を上げてきた。その行動は1秒のズレもない統率の取れた行動だった。その光景に唖然としていると四上さんが口を開いた
「楽にしていいよ今日は聞きたいことがあってきたんだ。単刀直入だけど犬の顔があしらっているパーカーがトレードマークの人に心当たりはないかな」
そう言われたあと不良たちが顔を合わせて話し合いを始めた。そのタイミングで四上さんが私に話しかけてきた。
「彼らは県内全域で活動している暴走族『桜蘭会』の人達だ。彼らは昔県内を駆け回って暴力を振りまくどうしようもないヤツらだったんだけど、ある日僕が全員とお話して人に暴力を振ることはなくなったんだ。今はただのツーリング集団だよ。ただ県内どこでも走っているから色んな不良や学生と交友関係があるから彼らは県内有数の情報通でもあるんだ妹さん襲ったヤツが不良だったらここが1番だと思ったんだ。」
なるほどだからここに来たのか。そう納得したと同時に話し合いが終わったのか、代表と思われる人物が話しかけてきた。
「ここにいる連中に聞いたところ心当たりがあるやつがいたッス。そいつ曰くで田端市で幅きかせてるチンピラ集団『ケルベロス』のヤツらの幹部が犬の顔が着いたパーカーを着ているそうッス。」
そう話したあと続けて聞いてきた
「ボスもしかすると犬の顔って正面を向いて牙をむき出しにしている犬の顔じゃないッスか?」
「なぜそう思ったんです?」
「いえ、そいつケルベロスのトップなんですけどね最近殺しを好むやつでしてしかも親が政治家なのもあってこの辺じゃあ逆らえるやつが居ないんですよ。殺しをやってもプロに揉み消させてそのうえで警察にも圧力をかけてるそうッス。しかもそいつが束縛強くて部下は皆首にチョーカー付けさせられてるみたいなんスわ。まあ噂のたぐいなんですが、ほぼ事実みたいッスよ。うちの木っ端の知り合いがそいつに逆らってその後行方不明になってるみたいッスし。裏じゃあケルベロスに逆らうとろくなことが起きないって噂ッスワ」
そこまで聞くと四上さんは少し思案したあとに
「そうですか。ありがとうございます。これで調べやすくなりました。樋野さん行きましょう」
そう言って公園を後にしました。公演を離れて少し歩くと四上さんが口を開きました。
「明日から本格的に調査を行いましょう。今日はこのまま解散しましょう。集合場所は私の喫茶店で宜しいでしょうか。」
そう言われて私は「はい」としか言えなかった。そうして私は家路についた。
次の日、私は言われた通りに山の中にある喫茶『背水』に行くことにした。ついたときには四上さんが外で待っていた。
「おはようございます。今日は事件のあった場所周辺で聞き込みなどを行いましょう。なにか手がかりがあるかもしれません。
そう言うと彼は車に乗るよう促してきた。私はそれに従い助手席に乗り込む。少ししてから私は口を開く。
「私も聞き込みは行いましたが事件の情報は出てきませんでしたよ。い朝ら何かがでてくるとは思いませんが...」
「そうですか。でも何回も行ってやっと有力な情報が聞けることもあります。まあ念のためにくらいの気持ちで行いましょう。」
そう言われて私は黙ることしかできなかった。たしかに私がやっていた頃はビラを配っても無視をされるだけだったが、今はこの人がいる。信じてみよう。そうして変わることがあると信じてみよう。そう心に決めながら車窓に流れるイチョウの木を見ていた。
そうして数十分で妹の遺体が見つかった場所付近についた車を降りるとヒヤリとした冷たい風が私の頬をなでる。体が少し震えるが足を動かしていく。目の前の公園が妹の見つかった場所だ。私が寒さで震えていると四上さんが語りかけてきた。
「ではこの辺りで聞き込みを行いましょう。樋野さんは私についてきてください。」
そういわれ私は彼の後ろについていくしかできなかった。
四上さんは買い物袋を持った中年の女性に近づいて話しかけた。
「こんにちは。お買い物の帰りですか?」
そういわれ中年女性は少し訝しげな眼でこちらを見た。
「ええ、そうですが何か御用かしら」
「はい。少しお話をお聞きしたいなと思いまして。あっ袋片方持ちますよ。」
「あらありがとう」
女性はそう言うと片方の重そうな荷物を差し出してきた。四上さんは笑顔で荷物を受け取る。そして並んで歩き始めた。私は後ろをついていくことしかできなかった。少し歩いたところで四上さんから話し出した。
「そういえば、この辺りかなり治安がよろしくないと聞きますが大丈夫ですか?」
そう聞くと女性は語りだした。
「そうなの。この辺りの廃ホテルにガラの悪い人たちは屯ってるし、最近死体が見つかったみたいだしほんと嫌よね。」
「そうですね。あの事件まだ犯人捕まっていないみたいですし、不安ですよね。」
「そうそう、そういえば近くの不良たちが最近女性に乱暴したみたいよほんと品がないわよね。」
そう聞いた後、四上さんの目の色が変わったような気がした。
「というと?」
「うちの前通っていた不良たちが、最近ボスがいい女連れてきたから廻してやった。ってほんと嫌よね。そんな話聞きたくもないのに大声で話すから寝室から聞こえてきちゃったの。拍がついたって喜んでたわ。何がいいんだか。わたしにはよくわかんないわ」
「なるほど。大変ですね聞きたくもない話が耳に入ってくるのは。」
「そうなのよ。あっもう家近いしここまででいいわ。ありがとうねここまで運んでくれて。」
「いえ、こちらも貴重なお話が聞けて良かったですよ。」
「そう?じゃあまた機会があったらお茶でもしましょう」
そう言ってその女性は足早に去って行ってしまった。女性が見えなくなると四上さんは話し出した。
「これは一回目からいい情報が手に入りましたよ。」
そう言われ私は首を傾げた。ただの世間話のように聞こえたのだがほんとにいい情報があったんだろうか。そう首をかしげていると彼は話し出した。
「この調子で話を聞いていきましょう。もしかすると犯人を探すのに大事な情報があるかもしれませんからね」
そういい、その後、遺体発見現場で世間話や情報集めを行っていた。世間話は四上さんのほうで情報収集は私が行っていた。途中からはこの人に任せるんじゃなかったとすら思ってしまった。そして2時間ほどたって情報のすり合わせを行うことになった。
「私のほうは何も情報はありませんでした。犬のパーカーの男を見た人物もいなければ殺害現場を見た人もいませんでした。」
私はわかりきっていたことを言った。そして四上さんに何か情報は見つかったか聞いた。その時私は同じような結果だろうと思っていたが違ったようだ。
「はい。こちらはおそらく有用な情報を手に入れました。」
そういわれ私は驚いた。この人がやっていたことと言えば、最近不良怖いね。みたいな世間話くらいだったはずだ。なぜ有用な情報が出てきたのかはなはだ疑問しかない。
「この辺りをよく徘徊している不良ですが、おそらくケルベロスの可能性が高いです。理由として全員が首にチョーカーをつけていたようで、これはケルベロスの部下の証だと桜蘭会の子達から聞いてます。そうしてくると、一番初めに話を聞いた奥様の話に合ったまわされてしまった女性はあなたの妹さんかほかに被害にあった女性だと考えられます。親が政治家なのもあってやりたい放題みたいですね。幸いにもアジトは特定できました。すぐに突入したいところですが、もう少し情報が欲しいですね。明日もうちの喫茶店に来てください。明日も情報収集になります。今日はゆっくりお休みください。」
そしてその場は解散になった。私はこの人をなめていた。自分だけなら何も情報を得ることなく終わっただろう四上さんには感謝しかない。妹を殺した犯人まであと少しのところで届くのだ。気合を入れよう。そう思いながら帰路についた。
次の日、着実に犯人まで近づいている。その実感を感じながら喫茶店まで進む道を軽快に進んでいく。朝7時、喫茶店につくと四上さんがカウンターで待っていた。私がはいいてきたことに気が付くと彼は
「もうすぐコーヒーができます。座って待っていてください。」
そういって目の前の席に座るよう軽いジェスチャーで促してくる。私は四上さんの目の前の椅子に座る。
「昨日あの後に、ケルベロスの根城にしている所を見張っていたんです。」
昨日解散した後にそんなことをしていたのか。そんなことを思いながら話の続きを聞く。
「中にいた下っ端の会話だと幹部連中はあまりアジトに顔を出さないみたいです。そしてその幹部の人間なんですが、相当な力を持っている人物しか幹部に慣れないみたいで、金、名声、腕力、、何かに特化している人間が幹部になりそんな幹部に自然と人が集まるみたいです。そしてそんな幹部が唯一顔を出す日が幹部会で、それが明後日行われるみたいです。」
この人はすごい。たった二日でここまで情報を集めてくるなんて。私だけではここまでできなかっただろう。私は運がよかったのだろう。もしこの喫茶店を見つけられなかったら私は妹の復讐をあきらめて死んでしまっていただろう。いまなら、この人となら、復讐ができる。そう思うと体の中で何かが燃えているように、体が少しだけ熱くなるのを感じた。
「今日はある人物に会いに行きます。待ち合わせの時間も近づいてきたので行きましょう。先に外に出ていてくださいすぐに準備します。」
そういうと四上さんは私が飲み終わった後のコーヒーカップをふきカウンターを後にした。
車で30分ほど走らせてついたのは町はずれのカラオケ屋さんだった。
カラオケ屋さんに入ると四上さんはカウンターの人に手を振って迷うことなく進みだした。後ろをついていくと102号室の手前で止まる。こんこんとノックして中に入った。中に入ると一人の男性がいた。少しだけ太っているように見える高身長な男性だ。四上さんが黙って座ったので私はその隣に座った。そうするとその男が話しかけてきた。
「隣の女性は?」
「今回の依頼人の樋野さんです。」
「ああ、この人が樋野朱美のおねえさんか。」
私は驚いて口をはさんでしまう。
「何で妹の名前を知っているんですか。」
そうだ。樋野朱美は私の死んでしまった妹の名前だ。妹の交友関係はある程度知っているがこんな男はいなかったはずだ。私の警戒心が強まる。なぜ妹の名前を知っているのか。疑問だけが強まる。そうすると目の前の男が口を開いた。
「まあそう警戒しないでくれ。俺は情報を扱ってるものだ。四上さんは俺の客で良く世話になってんだ。あんたの妹の名前知ってるのも、その男に言われて調べてからだよ。」
すると四上さんが、口を開いた。
「彼の言う通りです。今回彼の情報を頼りにしてここに来ました。彼の腕は確かなものです。私たちが知らないような情報を彼ならきっと入手しているでしょう。」
そういわれて少しだけ警戒を解くことにした。今では四上さんへの信頼は高い。彼が信用する人なら問題ないだろうと思いながらも、妹の名前を開幕から言われてしまい警戒を解く気にはなれなかった。そんな私を置いて話は進む。
「言われた通り妹さんの事件を調べてきた。犯人だが、ケルベロスの幹部で親が政治家で、名声のある名倉東吾だ。本人が酒の席で人殺しのことを言いふらしていた。拍が付いたんだってよ。俺には理解できないねぇ。まあ殺しで足がつかないように親の名声で警察に圧力をかけてるらしい。それが原因で事件の調査がまともに行えないらしい。警察は事件を迷宮入りさせるつもりだ。」
私は怒りで震えていた。警察の不甲斐なさからか、怒りの矛先がハッキリしたからなのか、自分で調べられなかった不甲斐なさからなのか。ハッキリはしないが今、私の中で怒りの炎が燃えているのは確かだ。怒りで何も言えないでいると四上さんが口を開いた。
「親のスキャンダルと名倉東吾の居場所は割れているのか。」
「もちろん。今そっちに送った。親のスキャンダルはこっちで広めようか。言い燃やし方を知ってるぜ。」
「ではよろしく頼む。タイミングはこちらから指示を出す。」
そこまで話すと四上さんは私に話しかけてきた。
「これで復讐の用意は整いました。この後どうするかはあなた次第です。なんでもできますよ。社会的に殺すか、監禁して一方的に痛めつけるか、一思いに殺すか、何もしない選択肢もありますよ。どうします?」
とまるで誕生日プレゼントを前にして喜ぶ子供みたいな笑顔で聞いてきた。どうすると改めて聞かれても困る。少し悩んで私は四上さんに答えた。
目を覚ます。鳥が鳴き、車が通る音が私の耳を通り抜ける。重い瞼をを擦りながら歯磨きをする。その後冷蔵庫にあるコーヒーをコップに注ぐ。四上さんに頼んで入れて貰ったあの日のコーヒーだ。ソファーに腰かけニュースを見る。内容は政治家の名倉が息子の起こした殺人事件をもみ消そうとしたという内容だった。名倉はこの件で罪悪感を抱えたらしく自殺したそうだ。警察もこの件を再捜査することにしたらしい。そして肝心の息子は行方をくらましたらしい。評論家やネットでは事実空港に名倉東吾が映っていたことから事件発生から時間もたっているし海外に逃げたのだろうという意見がほとんどだ。私は知りたかった情報を聞きテレビを消す。支度を整え車のエンジンをかけた。行き先はあの喫茶店だ。
「ありがとうございました。」
喫茶店についてすぐ私は頭を下げ、感謝の言葉を述べていた。その様子を見た四上さんは
「気にしないでください。人助けは私の趣味なので」
言われて私はまた感謝の言葉を述べる
「あなたのおかげで私は救われました。お詫びとして私に出来ることがあればなんでも言ってください。なにか力になればと」
そういうと少し悩んだあと彼は口を開いた
「ではウエイターとして働いてくれませんか?業務内容は少し変わってますが給料も出ますし。1人だと少し寂しくて」
「そんなことでよかったらぜひ」
こうして私の復習は終わり新たな日々を迎える。日常から少しかけ離れた、でも確かに日常のすぐ側にあるような日々が、私は無意識に覚悟を決め新たな日々に足を踏み入れた。
彼岸手前の喫茶店 たこやき @TAKOYAKIasa
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