第10話

堕落勇者の立ち上がり

第10話「再集結 minus1」


アレキサンダーに乗って沼地を走り抜ける、一秒毎に加速していく。ただこの犬もおっさんと同じ速さの訓練を受けていたと言われるとギリギリ納得は出来る速さだ。

そしてカリアストロ付近を抜けた。そしてアルスの家がある山付近までやって来た。もう百二十秒程すればガリキガラクに到着する事だろう、アルスは落ちないように集中してしがみ付く。


「減速!!」


もう村の近くに来たので減速させた。そしてそこそこスピードが落ちた所で飛び降りた。しっかり受け身を取りアレキサンダーに感謝ともう大丈夫だと言って村に向かう、アレキサンダーは勇者を鼓舞するかのような遠吠えをしてから元来た道を走って行く。


「[バリゲッド・アーケイン]!!!出てこい!!!」


そう大声で叫ぶと村人が出てくる。そして装髪剤も着けていない勇者の姿を見てすぐにバリゲッドを呼んでくる、バリゲッドも焦って駆け付けた。

そして何故装髪剤も着けずにやって来たのか訊ねる。アルスは全てを説明した。そして説明が終わるといつの間にか傍にいた長老が口を開く。


「わしらはわしらでやる事がある!!バリゲッドはすぐに勇者と宮殿に向かえ!!勇者様の剣の状態を見せてもらえるとありがたいのですが..」


アルスはすぐに二本の剣を抜いた。剣は両方素晴らしい状態だ、ろくに斬っていなかったと伝えると長老は今すぐにでも出発させる。


「それじゃあ行ってきますね!」


バリゲッドはアルスと共に走り出した。村の者たちも至急五年前から作っていた剣をかき集め始めた。


「それにしても急だな!」


「あぁ。だがまだ昼には遠い、間に合うはずだ」


「それにしても結構変わったなアルス」


バリゲッドは走りながらアルスの姿を再確認する、五年前とは比べ物にならない程高くなった背丈、子供の顔から変わってイケている美青年と言うのが相応しい顔、みすぼらしさがどうしても拭えない服。

そう言われたアルスもバリゲッドの姿を確認するが全く変わっていない、安心はしたが全く変わっていないと言うのも少し不気味だ。


「もう少しだぞ!」


五年前には無かった整備された道を突っ走り約六百秒走った。そして検問所まで着く、すぐに入ろうとしたが赤髪の男を止めないわけがない。すぐに事情聴取をする為奥の部屋に連れて行かれそうになったが緊急事態なので兵士を突き飛ばし無理矢理入っていった。


「待て!!」


「ごめんなさい!緊急事態なんです!」


アルスは振り返らず走っていく、向かう場所はただ一つ病院だ。途中でアイコンタクトを行いバリゲッドはゴドルフィンがいるはずの鍛冶屋に向か事にした。

二人がそれぞれ移動し始めると異様に目立つ赤髪に超大量の人が群がってくる。なんの訓練も受けていない一般人を突き飛ばすのは少々大きな怪我を負わしてしまいそうで怖い。どうにか人込みから抜け出せないか模索していると完全に包囲され逃げ出せなくなってしまった。


「みなさん!!!!後で事情を説明するので!!今は退いてください!!!」


そう叫んで聞かせようとするが野次馬たちはピタリとも動かず赤髪に感心したりアルスの顔立ちにうっとりしている者さえもいる、アルスは渋々バリゲッドが来るのを待つことにする。

一方バリゲッドは鍛冶屋の中を探し回っていた。だが一向にゴドルフィンの姿が見当たらない、呼びかけても返事は無い。たまたまいなかっただけだろうと待つことにした。

そして相当な時間が経った、ゴドルフィンは一向に帰ってこないしいつ魔王側がアクションを起こしてもおかしくないし外ではガヤガヤと声が聞こえてくる。


「もう待てねぇ!!」


バリゲッドは鍛冶屋を飛び出した。そして野次馬を押しのけアルスの腕を掴み強引に抱えて抜け出して行く。そしてラックの家に逃げ込んだ、アルスはバリゲッドに感謝してからすぐにでも外の様子を見に行く事にする。


「少しでも市民に被害を出さないようにする!僕が囮になって中央広場に集めるからバリゲッドが何買ったら報告して!」


「了解」


アルスは未だ集まっている野次馬の中に突っ込んでいった。そして自然に移動し皆を中央広場へ移動させた、そして数十秒経ったその時バリゲッドが声を上げる。


「あれは!!!」


アルスも周囲を見渡す。すると空には飛行するネズミのようなモンスターに乗った魔王が現れた、魔王はバランスを保ちながら立ち上がり仁王立ち状態で少し高度を落としてから耳を塞がないと苦しい程の声で言う。


「我々魔王軍四名はお前らに宣戦布告を行う!!!どれだけ逃げようが許さない!!!絶対に許さない!!!ぶっ殺してやるぅ!!!まず手始めにあの宮殿を...」


そう言いかけた瞬間ある二人の影が視界に飛び込んでくる。一人は剣で飛行しているモンスターを討った。当然魔王は落下するのでそこをもう一人が巨大な剣で斬ろうとする。

その瞬間鉄と鉄がぶつかりあう、魔王は斬られず唐突に表れた直属の部下であるファンタスティアに護られた。ファンタスティアはサーベル状のギフト・ソードで[ラック・ツルユ]の攻撃を受けた。


「要件は分かった、さっさと失せろ。今日中にでも出発してやるからよ、安心して帰ってくれ」


ラックは冷静に言っているが本気マジの目をしている。ファンタスティアも真剣な顔でラックの攻撃を受け流し続ける。

そしてラックも無駄だと言う事が分かると剣をおろす。すると飛行するネズミが目を覚まし魔王とファンタスティアを乗せて飛び立っていってしまった。


「ラック!ゴドルフィン!」


駆け付けたのは五年前に共に旅をした二人だ、多少見た目は変わっているものの面影しかない。

ラックはその声でアルスが来ている事を知るとすぐに人混みを掻き分けアルスの元へ向かう。そして装髪剤を着けていないアルスを見てクソデカ溜息を吐いた。


「まぁいい、とりあえず宮殿へ向かう。変な気配を感じてはいたがまさかあいつらとはな...」


「僕はファンタスティアに朝伝えられた、それでガリキガラクに行ってバリゲッドを連れて来たんだ」


「そうだったのか、じゃあ宮殿行くか。流石にもう隠れる事は出来ない」


「そうだね、バリゲッドも行くよ」


「おう!」


そして四人は全力疾走で人混みに紛れそのままそれぞれのルートで宮殿前へ向かう、道中アルスは追いかけられたがお得意の身体能力で屋根の上に飛び乗り全て回避していた。

そしてバリゲッドが最後で全員が宮殿前へ到着した。検問所は勇者とその一行と言うのと宣戦布告での混乱に乗じ簡単に入る事が出来た。

そして何度か入った事があって内部を知っているラックがずかずかと進んでいく。そして明らかに王がいるであろう部屋の扉の前で立ち止まる。


「入る」


ラックはそう言って大きな扉を蹴って開けた。すると中は魔王城で見たような玉座の間で正面には三人の王がそれぞれ座っている。


「来ると思っていたぞ」


「そりゃどーも。んでこいつが勇者だ。大体ガリキガラクとカリアストロの中間ぐらいの山で住んでる奴な」


「[アルス・ラングレット]です」


「そうか。何故君は姿を隠していたんだ」


「弱いからです」


「弱い?じゃあ魔王にも...」


「いや、正確には弱かったからですね。今ならあんな奴敵じゃないです」


「それないいのだが...それで勇者一行はその四人で良いのかね?」


王がそう訊ねる。だがアルスがリリアの事を説明した。三人の王は納得し五人分の金や食料を召使に持って来させる、ラックは今日中に出発する旨を述べた。


「ひとまずそこに座っていなさい」


王が指差す場所には机と椅子がある。そして召使が紅茶を入れていた、ラックは席に着くと当たり前かのように大量の角砂糖をぶち込む。そして足りなくなったので召使に角砂糖のおかわりを頼む始末だ。


「そんな飲み方してたら死ぬぞ」


「別に良いんだよ、どうせすぐ死ぬしな」


ラックはそう言って角砂糖を追加で入れる。そして激あま紅茶を飲んだ。そしてアルス達と出会った時と同じように何かに納得して頷く。他の三人は何も入れずに飲んであまりの美味しさに驚く、礼儀なんかクソくらえの精神で何倍も飲んでいると召使が入ってくる。


「こちらとなります。少なくとも十日分の食料に百枚の金貨が入っています」


「僕も奥さんに貰ったのもあるしお金すごいあるね」


「..え?奥さん?」


バリゲッドが困惑していたので誤解を解き前勇者の元へ行っていた事を説明した。するとラックとゴドルフィンは大変驚く。


「あいつが!?珍しいな」


「そうじゃのう、あまり稽古なんてつけないのだがな」


そんな話をしつつ部屋を出て行こうとする、王が止めようとするが無視して部屋を出て行った。そして階段を下りたりするのが面倒くさいのでガラスを突き破って外に出た。全員無傷で飛び降りそそくさと城下町を抜けようとする。だがアルスが目立ち人が集まって来てしまう。仕方なくそれぞれで移動し検問を済ませて外で集合する。


「よし全員集まったな」


「そういえばリリアは?」


「俺も知らん。どこ出身かも分からないからな」


どうするか悩んでいると遠くから物凄いスピードで近付いて来ている人物に気付く。見覚えがある、アレキサンダーに乗っているおっさんだ。


「おいアルス!」


「どうしたんですか」


「こんな手紙が来てた」


そう言って一通の便せんを取り出す。それは少し泥で汚れた普通の手紙だ。アルスは何なのか分からなったがとりあえず開けてみる、少しだけ警戒しつつ中を開けるとただの手紙だった。


「手紙?」


「誰からの手紙なんだ?ちょっと確認してくれよ」


「うん」


アルスは手紙を朗読し始める、皆何か嫌な予感を感じている。


『ごめんね。私一緒に行けないや。ずっと秘密にしてた、ごめんね。

 あやまる事しかできないや、ほんとにごめんね。

 私は擬態型の魔人なの、あのレイピアを持っていた擬態型の魔人のお姉ちゃんなの

 戻らなきゃ行けないや、私も一緒にいたかった。けど無理っぽいね。

 今は旅が終わってから1年だよ。いつになるか分からないけど宣戦布告をしたらこの手紙を渡してもらう事にしてあるから、また会おうね。バイバイ

       リリア・スギラウェンド』


最後の方はシミがあった、リリアの涙だろう。四年経ってしまってシミとなったのだ。


「どういう事だ」


ラックが焦りながら手紙と便せんを奪い取る。そして便せんの中に一つの写真が入っている事に気付く、五年前の写真だ。ラックはもう何も言わない、アルスにそれを押し付け地面に座った。

誰も言葉が出ない、おっさんは状況が掴めないが順を追っていく事でリリアが魔法使いなのだろうと悟った。おっさんも何も言う事が出来ない。


「行くぞ..アルス」


バリゲッドがそう言って歩き出す。だが他のみんなは動かない、バリゲッドはアルスの元へ行き胸ぐらを掴んで大きな声で諭す。


「行くぞ!!助け出しに行くんだ!!お前はリリアのおかげでここまで成長出来たんだ、リリアを助けるのがお前の役目だ!!行くぞ!!!」


「分かってる..けど...」


「うるさい!!行くぞ!!」


バリゲッドは無理矢理連れて行く、ゴドルフィンも黙って着いて行く。一方ラックは立ち上がったものの着いて行かない。おっさんと何か話している。


「助けには来なくていい。俺らの問題だ。お前には家族もいるんだ、死の恐怖に晒される必要はない」


「だけど..」


「来なくていい..いいんだ」


その時のラックは今まで見た事のない程辛そうな顔をしていた。前勇者は思う事があった。だがここでは口にせずラックを送り出す。

ラックは三人に合流して歩き出す。


「今日は帰るか、アレキサンダー」


「わんっ!」


おっさんは城下町に入る事も無くアレキサンダーに乗って自宅へと戻る、準備をする為に。

一方四人は重い足取りで五年前と同じ道を辿る、全く違う雰囲気になっている場所もあれば全く変わっていない場所もある。何事も無くその日は夜まで時間が進んだ。

五年前馬車で来た場所まで来た。皆鍛えていて相当歩くのが速くなっている。


「大分進んだな、この調子なら明日の昼前には...」


「駄目だ、今日行く」


一番体力が無く疲れているアルスが休憩を拒み進み続けようとする。ラックが止めるがアルスは振りほどき道を辿ろうとする。だがもう限界も限界なのだ、アルスは足を前に出したところで気絶するかのように倒れた。


「言わんこっちゃないのう」


ゴドルフィンが簡易的な寝床に着かせた。皆焦っているのは同じだ、だが今は体力を極力温存しなくてはならない。魔王や直近の部下三人の実力が分からない以上焦ってはいけない、リリアを連れ戻すのは後でも大丈夫なはずだ。そう考える。


「流石に驚いたわ」


「そうだな。リリアが魔人か..でも本当に違和感ないんだな」


「あのレイピア女は気付けなかったしリリアなんて妙に積極的だから気付く余地さえ与えてくれなかった」


「わしも気付けんかった、擬態型と言うのは最早人なのではないか」


「もしかしたらあるかもしれねぇんだよ。魔人から人間が産まれてそれを擬態型と称しているだけかもしれない」


「そうだとしたら相当ヤバイことしてるな」


三人の空気間は絶妙なものだった。楽しくも無いしつまらなくもない謎の空気間だ。三人は焚火で暖まっていると次第に眠くなって来る。

三人は火も消さずに眠りにつく。リリアが反旗を翻した事を知り衝撃を受けたアルスや仲間は少し落ち込んでいた、だが救い出すことは出来るだろう。魔王や部下も適当に殺したりする魔人ではないと分かっている。

だから今はゆっくりと休もう、魔法使いの女の子を助ける為、人生の転機に導いてくれた救世主を今度は自分が助け出すのだ。アルスは眠りながら決意を固めたのだった。



第10話「再集結 minus1」

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