第11話

堕落勇者の立ち上がり

第11話「突入」


アルスは光に当てられ目を覚ます、辺りを見渡し昨日何があったかを全て思い出した。すぐに皆を起こそうとしたが三人共既に起きていて出発する準備をしている。

アルスも出発する準備を終える、ラックが先頭でどんどん進んでいく。五年前と変わらない道をただ辿る。ろくに会話も無くただ進むだけだ。


「そういや急に話し出すけどよ、俺の出身の話していいか?」


「いいぞ、俺ずっとラックの出身知らなかったからな」


「わしも生まれは知らんからのう」


「うん。僕も気になる」


ラックは淡々と話を始める。その出生についてだ。だが三人が思っていたより予想外かつ意味が分からない言葉が出てくる。


「まず俺はこの世のものではない」


「急にどうしたの?五年間の過多な糖分接種で頭おかしくなった?」


「違う。この世にツルユと言う苗字は存在しない。この時点で可笑しい」


「でも名前だけなら偽装なんて簡単だし...」


「そうだ。だから四歳の頃から謎に迫っていた。そして二十五年前、俺は魔王の側近である魔人に訊ねた「俺の血筋を探せ」と。そいつの能力は『血を操る』だった。だから血筋ぐらい分かるのではないかと思って聞いたんだ。実際同じ血筋の者を探すぐらい余裕だった」


「まさか...」


「そうだ。存在しなかった。[ラック・ツルユ]と同じ血筋の人間、魔人、モンスターは一匹たりとも存在していなかったんだ」


全員の動きが止まる。急に始まった怪奇的な現象の話に皆思考を巡らせざるおえない。だがまだ予知はあった、突然変異ミュータント化が起こって血がおかしくなってしまっただけかもしれない。

だがその考えも数秒で討たれることになる。ラックがもう一つ根拠を上げた。


「そもそも赤子の俺が生きられるわけがないんだ。俺の能力はアルスみたいな能力ではなく『剣の形を変えられる』だ。俺は城下町の隅っこで産まれたとされたが親もいなかった。そんな状況で生きられるわけがない、既に受け入れてはいる。俺はこの世界の人間じゃない、神にでも作り出された"駒"なんだろう」


誰も理解が追い付かない、当然だろう。ただアルスは一人だけある事が気になった、リリアの事だ。擬態型魔人が人国に入って来ていただけなら違和感は無い。だが何故勇者を探し、立ち上がらせのか。よく考えればリリアを使って魔王城に誘き寄せている様にも見えてくる、出来過ぎだ。すべてが出来過ぎている、アルスはある仮説を立てた。だがそんなのありえないと心の奥底にしまって置くことにした、後々判明することになる。この仮説が当たっているか当たっていないか。


「とりあえず歩け。あんま時間が無いんだ」


ラックのその一言で皆正気に戻り足を動かし始める。結局その話をしてしまったせいで誰も次の話を振る事が出来なかった。

そして国境へと到着した。カリアストロに存在する巨大な渓谷だ。前作った木の橋は帰る時にぶっ壊していたのでバリゲッドの為もう一度橋を作ろうとアルスが働きかけたらバリゲッドは一番に飛び越えた。


「え!バリゲッド凄い!」


「俺も五年間鍛えてたんだよ、みんなに着いて行くためにな!」


「そっか。じゃあ僕も!」


アルスは勇者の身体能力で軽々跳び越えた。ラックも跳んで渡った。ゴドルフィンは一番ギリギリで歳を感じていた。


「もう八十代後半か..時の流れは速いもんじゃのう」


この世界の平均寿命は六十歳近くだ。そのためゴドルフィンやガリキガラクの村長は相当長生きしていて一目置かれているのだ。だが二人共ピンピンしていて最早死なないのではとさえ思っている者もいるぐらいだ。


「あんま無理すんなよ、結構歳いってんだから」


「この世の者じゃない奴に心配される程置いてないぞい」


ゴドルフィンは冗談交じりにそう言うがバリゲッドとアルスは流石に引いていた。だがラックは何とも言わずむしろ冗談にしてくれた方が良いのだろう、少しだけ笑っている。二人は流石二十五年の仲だと感心してしまった。

そしてそこからは少しだけ会話が増えて来た。


「ゴドルフィンはガリキガラク出身なんでしょ?村長さんって二世代前の勇者一行だったんでしょ」


「そうじゃな。あやつの成長ぶりは凄まじかったからわしも魔王討伐に行けて嬉しかったのう。まさか二世代連続で行かされる事になるとは思っていなかったがな!」


笑いながらそう言っているがよく考えたら凄すぎる。長老体かつ二十年のブランクがあっても猫騎士と戦い勝利を納めその五年後こんな元気に魔王討伐に向かっている、普通に怪物だ。


「そうだよね、普通に凄いよねゴドルフィンって」


「まぁこの爺は俺でも引くぐらいには怪物だからな。この世の者じゃない俺でも引くぐらいにはな」


ラックはブラックジョークかも怪しいジョークを言ったりしている。だが全員なんだかこの世の者じゃなくても気にする事じゃないのかもしれないと思い段々気持ちが軽くなって来た。皆あの五年前と同じような雰囲気に戻って来た。ただリリアがいない寂しさだけはどうしても拭えない。


「やっぱなんか物足りないな」


「そうだね..でもその雰囲気を取り戻すために行くんでしょ」


「そうだな。もうちょいで着く。作戦なんて無いからな、突入して適当に進んで適当に壊滅させて適当に助け出す。これでいいだろ?」


「そうじゃな」


「そうだな。俺は盾しか持ってきてないから誰に着いて行けばいい?」


「アルスに着いていけ。俺と爺にタンクはいらない、アルスは結構怪我する事が多いからな」


アルスとバリゲッド、ゴドルフィン、ラックと言う配分で魔王城に乗り込む事に決定した。そして魔王城のすぐそばまで到達した。ただ皆ある事を不自然に思った、亀が居ない。あの巨大な門番亀がいないのだ。


「おかしいな..」


「好都合っちゃ好都合だし入ろうよ!」


「まぁ..そうだな。じゃあ行くぞ!!」


ラックが扉を開けた。内装は全く変わっていない、ただ全員気合が桁違いだった。正直魔王討伐なんてオマケ程度にしか考えていないのだ、最優先はそう、リリアだ。

リリアを連れ出し前までの楽しい生活を送るんだと思いゆっくりと魔の空間へと足を踏み入れたのだ。


「それぞれの道で行く、死ぬなよ」


「また後でな」


ラックとゴドルフィンはそれぞれ違うルートへ向かう。残されたアルスとバリゲッドも違うルートを沿って進んでいく事にした。

そして道中であることに気付く。


「なんか構造変わってない?」


「そうだな..前はこの道で魔王の部屋に行けたはずだ」


「でもただの客人部屋しかないね..」


すぐ攻略される事を防ぐため為なのか魔王城内部の構造が変わっている。まるで別の建物のようになっていて少し面倒臭い事になる予感がし始めた。

ただ今は適当に印などを付けて歩いて行けばいつかはいつかは着くだろうと考えていた。だが魔王の遊び心は強くそんな簡単には攻略できない設計にしてあるのだ。だが四人はそんな事知る由もない。だが攻略する、この四人ならばそれぐらい朝飯前だ。

まずはゴドルフィンからだ。


「出来れば戦いたくは無いのだがどうやって進んでいこうかのう...道が変わっているようじゃ..そこのところどう思う、小僧」


ゴドルフィンはそう言って振り向く。そこには魔王直属の部下が一人[ハリケッド・ファンタスティア・サーレイン]が立っていた。そして気配を消していたにも関わらず気付かれた事に驚いている。それと同時にゴドルフィンを褒めるが本人は何も嬉しくなさそうだ。


「それでなんじゃ、お主とやらなくてはいけないのか」


「そうダ・ネ!けどここじゃボ・ク!も戦いにくいし城が壊れちゃうから他の場所でやろうか」


「どこじゃ」


「にゃん太郎とやった所」


「あそこか。しっかり場所が分かっているならいいだろう」


ゴドルフィンはそう言ったものの常に剣に手をかけている。ファンタスティアもその事には気付いていたが特に言及せず訓練場までの道を進む。

やはり五年前とは全く違う構造でファンタスティアもたまに道を間違えていた。そして敵同士でも少しは会話がある、ゴドルフィンは魔人がどんな暮らしをしているのかが気になったので魔人の一生について訊ねてみる事にした。


「魔人とはどんな一生を送るのじゃ」


「結構普通だよ。あんたら人間と何ら変わらないのさ、ただ貧困だからそこはちょっとだけ違うかもね」


「そんなものか?思っていたより派手ではないのだな」


「な~に勘違いしてんの爺さん、僕らはあくまで一般人だよ」


「...お主を殺したくはないのだがな」


「なんで爺さんが勝てる前提なんだよ」


「わしは負けん、まだあいつと話せておらんのじゃ」


「あいつ?」


「一つ前の勇者じゃ。死ぬ前にはあやつと話すと決めておるのじゃ」


「ふーん叶わないと思うけどね」


ファンタスティアは興味無さそうにそう言った。そしてその直後足を止める、目の前には見覚えのある扉がある。訓練場へと無事到着したのだ。

ファンタスティアは扉を大きな音を立てて開けた。すると中にいた猫騎士[ハーミット・シュワペントゥ・キースイッチ]が座っている。


「何故ここに来た..まさか吾輩とゴドルフィン殿を戦わせて..」


「チ・ガ!うよ。僕と戦うんだ、だからにゃん太郎は出て行ってくれ」


「先にいたのは吾輩なのだが」


「別にイ・イ!じゃないか」


「ここは吾輩のテリトリーだ」


「だーかーらー別にイ・イ!じゃん」


ゴタゴタと喧嘩をし始めた二人を見てゴドルフィンは呆れる。そして仲裁に入ろうとしたその時二人の眼球の前に剣が突き立てられる。


「うるせぇ」


ラックだ。アビリティで形を変え枝分かれしているような剣にして二人の眼球のすぐそばに剣先を突き立てたのだ。

二人は黙ってラックの方を見る。ラックは口を開き二人を引き離す。


「そんなに喧嘩したいならやってやるよ」


だがそう言ったラックに猫騎士がポツリと呟く。


「貴様とは戦えん」


「なんでだよ」


「分からないのか」


「...はぁ..分かった。それじゃあ俺は女の元へ行く、お前らは喧嘩なんてしてないで偉大な魔王様の為に剣振ってろよ」


嫌味を言い放ってラックは部屋を出て行った。猫騎士が戦えない理由はただ一つ、レイピアを使う女が再戦したいからだ。ラックもしっかりと察し出て行った、となると猫騎士は誰と戦うかが決まった。


「[アルス・ラングレット]、待っていろ」


猫騎士は立ち上がり鎧兜を被りながら部屋を出て行った。そして完全に二人になった状態でファンタスティアはゴドルフィンにある話を始める。


「少し話をしようか」


「いいぞ」


「あいつらだけは護ってくれないか」


「猫騎士とレイピアの女、か」


「魔王様は無理だろう、だがあいつらなら生かしておくことは出来るはずだ」


「...」


「あいつらだって人の心はある、どれだけ辛い思いをしているか分かってやってくれよ」


だがゴドルフィンは沈黙を貫く。ただ当然の反応なのでファンタスティアも言い返すことは出来ない。だがどうにかして二人の命だけは護ってやりたいと必死にゴドルフィンを説得する。


「どうにか!あいつらだけは...」


「何故わしに頼む」


「は?だってお前は...」


「わしはそんなに優しくないぞ、最初から殺す気でいる」


ファンタスティアは俯き拳を強く握っている。ゴドルフィンはそろそろ始めなくてはと剣にてをかけた。ファンタスティアもサーベルを抜く、そして一言だけ言ってから戦闘が始まった。


「僕は負けない」


先手を取ったのはゴドルフィンだ。凄まじいスピードで右足を斬ろうとした、だがファンタスティアも同じ程のスピードを出して回避する。

ゴドルフィンはついて来られる事に驚くが手は止めず剣を振るう。だがファンタスティアはサーベルで受け流す事もせずただひたすらに回避を続ける。


「速いな」


「そりゃどうも」


「でもおかしいのう、わしの目で捉えられん」


手を動かしながらそう言うゴドルフィンだが確かに目で捉えられない。僅かな空気の揺れで発生する音でファンタスティアの位置を特定しているのだ。

だが一瞬でその場所からは消えてしまう。ゴドルフィンはこの時既に分かっていた。だが口にはせずどうにかして斬れないか試行錯誤しているのだ。


「そんな剣をブンブン降っても僕には当たらないよ」


今度はファンタスティアが攻撃する番だ。ゴドルフィンの背後に立ちサーベルで心臓を貫いた。だがゴドルフィンは怯まず反撃を試みる、ただ後ろを向いた時にはもういなかったので失敗に終わった。

無傷のファンタスティアと心臓を貫かれたゴドルフィン、どっちが勝つかはもう分かりきっているだろう。だがゴドルフィンはそんな簡単に死ぬ男ではない。


「悪いな」


その瞬間ファンタスティアの右目辺りに一つの傷が出来た。ファンタスティアは驚きよりも先に関心が来る、何故アビリティを発動しているのに斬られたのか。もう分かって入るだろうが一応聞いてみる。


「アビリティ、分かったのかい?」


「あぁ。当然じゃ」


「さっすが爺さん、歳食ってる分勘は鋭いんだね。じゃあ言ってみなよ」


「『一時的に姿を消す』じゃろう」


「...大正解だ。けどあんたの負けだよ爺さん」


その瞬間ファンタスティアが姿を消した。そして直後にゴドルフィンが斬られた、と思ったそのさなかファンタスティアの左腕が飛んだ。何が起こったか理解できず困惑しているファンタスティアに何が起こったかを伝える。


「猫騎士もそうだったがお主らは自分達の事を過信し過ぎている、トリックが分かれば怖くもなんともない。お主の負けじゃ坊主」


心臓を貫かれ不利状況に置かれていると思われていたゴドルフィンが勝利した...と思われていたがそんな事は無かった。

ファンタスティアの心はまだ折れていない、サーベルなら片手でもどうにかなる。左手でサーベルを持ち止血さえもせずに剣を振り始めた。

勝つのは、ファンタスティアだ。



第11話「突入」

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