汎人類戦争における小艦艇
小田 慎也
第2章 戦闘艇
1.テラ連邦軍戦闘艇の系譜
「汎人類戦争」全期間にわたって広範に用いられた戦闘艇。この章では戦争の全期間にわたってテラ連邦、銀河連合双方で用いられた転移機構を持たない戦闘艇と戦争後期にテラ連邦で開発された転移機構を備えた戦闘艇について述べてみたい。
1.テラ連邦軍戦闘艇の系譜
1.1.ミサイル艇
戦闘艇の直系の祖先はテラ連邦の内戦期に拠点防衛用に登場したミサイル艇と考えられている。内戦で星系間の流通網が寸断され、生活必需品から軍用部品に至るまであらゆるものの供給が滞り、連邦軍や星系軍の航宙艦の稼働率が低下。これの代替策として民生品の小型作業艇や連絡艇、プレジャーボートをベースに各地の星系で現地生産されたものだ。ミサイル艇と一括りにされているが当時のミサイル艇は生産された星系の経済力、技術力によって形式も性能もバラバラで、哀れを催すほど低性能のものから当時としては第一級のものまで千差万別だった。共通点は大きく2点で主武装が対艦ミサイルだったことと、転移機構をもたず星系内での拠点防衛に使われたことだ。
当時の実質的な主力艦だった巡航艦は流通網の途絶による部品不足から額面通りの性能が出ない整備不良状態だった。それもあってミサイル艇は「犠牲をいとわなければ」という前提条件はつくが、なんとか巡航艦に対抗可能だった。
ちなみに「主力艦」と聞いて真っ先に思い浮かべる戦艦だが、部品供給に問題がある状況では巡航艦以上にメンテナンスに気をつかうため、滅多に戦闘に投入されることはなく示威が主な役割となっていた。当時はこれを「現存艦隊主義」だとうそぶいていたそうだが、もちろん、本来の意味とは異なる。
1.2.艦載ミサイル艇
内戦がようやく終息し、内戦後の復興が始まると各星系国家を結ぶ航路の再整備、通商保護に連邦軍の任務はシフトしていった。だが、復興事業に予算を喰われ、連邦軍に充てられる予算は充分ではなかった。内戦の影響で治安が悪化した隙に勢力を伸ばし跋扈していた犯罪組織の密輸船やいわゆる宙賊船の摘発に十分な戦力を回すことができなかった。
苦肉の策として考えられたのが重巡航艦に1個小隊4艇のミサイル艇を搭載する案だった。コストシミュレーション、運用シミュレーションで従来行われていたフリゲート艦などの小型艦複数隻での対応に比べ、中長期的な運航コストが少なくすみ、戦闘による損失もおきにくく、人員配置の面からも有利との判定が出た。
連邦軍の制式艦載ミサイル艇として最初に採用されたのはもともと重巡航艦に搭載されていた艦載連絡艇をベースに改設計したものだった。
推進器と反応炉を大出力のものに換装。操縦席以外のキャビンを廃し、その空間に追加の推進剤タンクやセンサー類、シンカーを搭載した。武装は対艦ミサイル4基を両舷にラックを設けて搭載、さらに下舷に7.7ミリ口径のレールガン1門を搭載した。
連続活動時間は2時間程度で、元が連絡艇のため機動性もそこそこのレベルだったが、重巡航艦の火力と索敵能力を後ろ盾に展開するミサイル艇は犯罪組織の艦艇の取り締まりには十分な性能を持っていた。
この後、艦載ミサイル艇は戦闘艇に地位を譲るまで改良を加えられながら世代交代を繰り返しセンサーやシンカーの能力の向上が図られた。その他は連続活動時間が延びた程度で、寸度や武装に劇的な変化はない。
なお、このころの艦載ミサイル艇が搭載する対艦ミサイルは犯罪組織の艦艇を行動不能にするためのもので撃沈するためのものではない。徹甲弾頭の多弾頭ミサイルだが低威力タイプになっており、通常の対艦ミサイルとは区別されていた。
1.3.艦載戦闘艇
銀河連合との接触後、緊張が高まるにつれ、連邦軍は航路整備、通商保護、治安維持を行う内戦戦力から外戦戦力に変貌していった。
これに伴い、各艦艇も本格的な艦隊戦に対応したものに世代交代していった。重巡航艦の主任務も通商保護、治安維持から戦艦の護衛、火力支援に変化した。変化した任務には従来の艦載ミサイル艇では対応しきれないことは明らかだった。銀河連合との緊張が高まる中、策定された680建艦計画ではミサイル艇をより強力な艦載艇に更新し、重巡航艦だけでなく戦艦(注1)にも搭載することが決まった。
内戦初期や末期の戦訓から本格的な艦隊同士の戦闘となれば、対艦ミサイルを主力艦に撃ち込むため敵の軽巡航艦や駆逐艦などが友軍の迎撃を突破して突入くるものと思われ、艦載艇にはそれらの迎撃が期待された。
新たな艦載艇はこれらのより戦闘的な役割を果たすことが期待されたため、戦闘艇と名付けられることになった。
宇宙軍本部からの各メーカーに出された戦闘艇提案依頼の要求仕様の概要は以下の通り。
・乗員:1名または2名。
・機関:1軸推進。転移機構不要
・活動可能時間:連続5時間以上
・戦術リンク途絶時にも艇側センサーとシンカーを用いて探知、捕捉、攻撃が可能であること。
・対艦ミサイルまたは対艦ミサイル迎撃用榴散弾頭ミサイル4基以上を搭載可能であること。
・対艦ミサイル迎撃用にレールガンを搭載すること。
・レールガンは敵小型艦艇の攻撃にも利用可能であること。
これに対して数社から提案がありシミュレーション空間での競争試作の結果、抗堪性と整備性が僅かに優れていたサカマキパワーボート社の案が採用となり艦載戦闘艇CFB-01「ワーデン」として採用され、テラ連邦における戦闘艇の歴史が始まることとなった。
注1:600建艦計画以前の戦艦には艦載ミサイル艇は搭載されていなかった。なぜなら平時の軍隊は予算に縛られ、運航経費が重巡航艦の何倍にもなる戦艦はなおのこと、コストパフォーマンスを考えた運用を求めれられるからだ。通商保護、治安維持、犯罪組織の摘発に戦艦が出動すること自体殆どなく、もし出動した場合も複数の重巡航艦を率いる旗艦としてであり、重巡航艦に搭載のミサイル艇を展開すれば事足りたためだ。
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