【完結済】【短縮版】幼女になった響ちゃんは男の子に戻りたい!:1.5

あずももも

1話 女の子になって幼女になるっていうTSしたときのこと

目が覚める瞬間っていうのは、いきなり意識が戻っていつも混乱する。


なにやら壮大な夢を見ていたらしい僕の無意識のせいで、僕は目が覚めたらしいのを知ってからしばらくは身じろぎもしないでぼーっとしていた。


ぼーっとしながら意識だけで体の感覚を確かめてみる。


……まだ眠いけど、二度寝するほどじゃないかも……?


「ん――……」


何度か寝返りをうってだらだらとしていると、髪の毛がやたらと顔にかかってきてものすごくうっとうしい。


そろそろまた切りに行かないとか……ぼさぼさの髪の毛はめんどくさいからなぁ。


そろそろあったかくなってくるしばっさり切ろうかなぁ。


そんなことを考えていたらなんだか外がうるさい。

あと部屋が暑くてまぶしい。


まさか寝過ごした?


これじゃまるで昼間じゃないか。


え、昼間?

寝過ごしたの僕?


大切な朝の時間をすっぽかした悲しさに打ちひしがれながら、のろのろと視線を室内に移そうとして気がつく。


……んん?


――まだ眼鏡をかけていないのに、手元だけじゃなくて50センチより先も見えている。


ベッドから数歩の机に置いてある目覚まし時計に目を向けてみると……やっぱり秒針まではっきりと見えるし、机の周りのものもくっきり見えている。


そして時刻は3時を指している。


3時。

15時。


くらくらする頭で考える。


特に体調も悪くなかったし最近寝不足とかもしてないし……昨日だって大してアルコールも入っていなかったと思うんだけども。


「うーん……」


二度寝どころか三度寝、四度寝した疑惑。

覚えていないという時点で結構おかしい。


それに体の感じというか感覚もなんだか変だ。

頭が重くて重いのに軽いっていうか妙な感じ。


「んん――……?」


違和感って言えば……なんとなく物が大きく感じる気がする。


「なんだか致命的な何か」がずれちゃってる感覚を頭で反芻してもどうにもならない。


……とりあえずご飯食べてコーヒー飲みながらゆっくり考えよう。

そう決めた僕はベッドから脚を下ろして立ち上が……ろうとして、また変な感じに襲われる。


何かが下に数十センチずれたような、割と大きい違和感。

バランスを崩しそうになったってそれから気がつく。


同時にばさって音がして足先が温かくなって脚がすーすーする感覚が来て、ズボンがお風呂のときみたいに真下にすとんって落ちてふとももが映る。


……少し痩せたのかな。


そう思ってしゃがんで、もう1回ズボンを腰にあげようってしたけど……手を離すともう1回落ちるズボン。


まるでサイズが全然合っていないような雑さ。


――ぱさり。


ズボンの上にちっちゃな布きれがもう1枚。


「……え?」


……今度はパンツまで落ちたらしい。

これはさすがにおかしい。


痩せたにしてもパンツが落ちるだなんて。


一体何が起きて……?


とっさの反応で顔を上げて……開いたままの部屋のドアの先の、廊下の先に起きっぱなしにしちゃってた遠くの鏡が視界に入る。


――パジャマのシャツを太ももの半分くらいまでだぶっと着ていて、隠れてはいるけど下になんにも穿いていなくって。


薄い色の髪の毛がシャツの裾くらいまでたくさん垂れていて……そして。


見たこともない顔をした女の子……いや、下手をすると女児、巷でいう幼女って言ってもおかしくない顔をした子どもが僕を、その薄い色の瞳で見つめていた。


廊下の先の子供。


鏡。


ひとり暮らし。


幽霊とか僕は信じてない。


だから……この子は、僕……なの?


そう考える僕と同時に「その子が立っている位置的に僕しかいないじゃん、泥棒さんとかじゃない限り」って冷静に考える僕がいて……僕はしばらくぼけーっと立ち尽くしていた。


――僕は、どうやら女の子になったらしい。



家にあるものはみんな昨日の夜から変わっていないように見える。

それでもまだ現実感はないけど、僕はさっき鏡で見たまんまな子供になっている様子。


着ていた服もベッドも昨日寝たときと変わっていないと思うし……パソコンやスマホで開いていたページとかアプリも昨日のままっぽい。


つまり僕の体が変わっていること以外は昨日までと何も変わっていない。

世界は何にも変わっていない。


変わったのは……僕の体だけ。


「ふむ」


なるほど。


洗面所の大きい鏡の前にはシャツ1枚になった童女……幼女がしげしげと自分の全身を観察している。


シャツ1枚とは言ってもぶかぶかすぎるし、そもそも出るところも出てすらもいないからやましいところは何もない。


下になんにも穿いてないっていうので罪悪感がありそうだったけど、そういうの以前の幼さだし。


見た目はものすごくすっきりしているけどお股のあいだがとても寂しい気がする……普段は感じなかったけど、生えていたあれはそれだけ温かくて存在感のあるものだったのかもって気がつく。


まぁ飛び出ていたはずのものがなくなるどころか根こそぎ欠片もなければさみしくもなるよね。


早く戻って来て?


そう願うけど今はどっか行っちゃってるらしい僕のアイデンティティー。


代わりに今の僕は、顔が整っていて、けどほっぺが丸っこくて髪の毛が長くて体はちっちゃくて。


そんな今の僕はまさしく……少女未満の童女とか女児とか幼女とかいう表現がぴったり。


それ以外の存在じゃない気がする。


今の僕は髪の毛からまつげまでびっくりするくらいに色が薄くて線も細いし、瞳の色だって違う。

顔つきもどこかの映画で見たような「北国のいいとこのお嬢様」って感じの趣だし。


でも、今確かめてみた感じだと毛すら生えていなかった。

まだ第二次性徴を迎えていないからなんだろうけども、違和感がすごい。


なんていうか、つるつるだ。


うぶ毛がほとんど見えないのも不思議。

生えない体質なのか、毛の色が薄いからかは分からないけど。


……これが背徳感っていうものか。


そんなどうでも良い感想が頭の中でぐるぐるしていた。



「けほっ……うぇ――……」


昔のものをしまってある部屋に来て探し出したのは、タンスの奥にギチギチに詰められていた、僕が子どものころに着ていた服。


たぶん小学校高学年のときくらいに着ていた服。

それでも今の僕にとってもまだ大きい。


ぶかぶかでだぼっとしているけど、とりあえず着ているぶんには邪魔にならない程度、家の中で歩くくらいならすとんって脱げる心配もなさそう。


いくら家の中だからとはいえ下半身すっぽんぽんで過ごすのは……いくらひとり暮らしでニートしているからって言ってもアウトな気がするんだ。


ほら、僕、裸族とかじゃないし。


ほこりを被っていた鏡にぼんやりと映る「兄のお下がりを着ています」的な女の子になっている僕がぼんやりとした表情で立っているのを見る。


ついでにその幼女は埃まみれになっていてぼさぼさだ。


「けほ」


髪の毛からさらさらと綿ぼこりが。


……おふろ入ろ。


やましい意味じゃなくって純粋に僕は汚れているんだ。



シャワーの音と立ちこめる湯気に満ちているお風呂場で体を洗う。


シャワーヘッドが重すぎる。

お風呂のイスが高すぎる。


初めの30分くらいはこの体に戸惑いもしたけど……いちど受け入れてしまえばただ体が小さくなっただけなんだって思えるようになった。


いや、そうでもない。

そう思い込んでいるだけ。


にしても毛がないと本当に洗いやすい。

どこを洗ってもまるで抵抗がないからきちんと洗えているか心配になるくらいだ。


小さくなって顔が変わっただけならともかく性別まで変わって不安だった体の方も、着替えと今とで裸を見てトイレに何回か行ってしまえばすぐに慣れて来るもの。


他人の体ならともかく僕自身の体だしな。

女の子らしい女の子ならともかく幼児だし……時間が解決してくれるって祈ろう。


む、なかなかシャンプー落としきれない……。


ちょっと高くなったお風呂のイスから立ち上がって腕を上げてシャワーを止めてタオルを何枚も使って髪の毛を乾かして、腕が疲れてからようやくお風呂から出ることができた。


火照った体を包むちょうどいい冷たさの空気を感じつつ、全然乾く気配のない髪の毛にドライヤーの風を当てながらさっきの続きを考えてみる。


目が覚めてからずっと……見た目以外にこの体の感覚で違和感を覚えなかったりバランスを崩したりしない。


転びそうになったのだって両足がズボンで絡まっていたあの1回だけだし、利き手とか箸の使い方とか普段は何も考えないでしている家電の操作も……踏み台を使わないと届かなかったりしたにしても特に考えなくてもできた。


……ここまでの結論として、考えられる可能性としてはとりあえず3つ。


1、僕の脳か頭が今朝からおかしくなって狂っていて「僕がこの姿のこの子になっている」って思い込んでいる。


こうして「ドライヤーを重い」って感じてるのも髪の毛がなかなか乾かないのも、イスの上に立たないと鏡が見えないちっこい体になってるのも、ぜーんぶ僕の錯覚。


2、実は元から僕はこの姿な幼女だった……で、昨日までの僕は男だったと思い込んでいる。


無いとは思うけどいきなり女の子になるよりは現実的。

記憶なんて言うのは形もないものだし、最初の考えが「今」狂ってるってことだったら「昨日まで」狂ってた感じ。


どっちにしてもやだけどね。


3。


――現実に、本当に、リアルで、冷静に。


僕だけが、僕の体だけが変わっていて、僕の意識のエラーじゃなくてこの世界のエラーか何かで僕が小さい女の子になっちゃった。


エラー。

呪い。

魔法。


1と2は僕自身を疑うことになるから3の方が精神的にはだいぶマシなんだけど、逆にいちばん面倒くさいことになるっていうね。


「……むー」


……ドライヤーをかけて何分か経っているのに髪の毛がまだほとんど乾かない。

いくらぶわーってしてもちょっとずつしか乾く気配がない。


……髪の毛が長い、多いって大変なんだね。


ニート歴3年くらいな僕は、25歳になって今さらそんなことを知った。


普通なら彼女が居たりして知ってるだろうにね。



最後の日付が数ヶ月前の、いつも気まぐれで書き始めて何日かでまた忘れる日記帳の見開きを文字で埋めた僕は「ふうっ」ってため息をつきながら手をしびびびびってする。


起きてから今までのことを思い出せる限り細かく書いておいたし、明日どうなっても思い出せるって思う。


今日1日、いや半日か、まるまる寝ぼけていたとかこれが夢だったという方が楽なんだけども……明日になって読んでみて「訳わかんないこと書いたな」って笑えればいいんだけどな。


「……くぁ」


ベッドに身を投げ出すようにして飛び乗ると思ったよりも弾んで落ちそうになってひやってなる。


……あー、体重も見た目に比例して軽いのか。


それにしても眠い。


体が変わるなんていう一大事でただでさえ普段使わない神経を使ったのに、さらにずっと考え続けたせいで頭が疲れ切っている感じ。


「……お――……」


目をつぶってちょっと、ぐるぐる回ってる感覚になる。

頭がぼーっとして芯から痺れたようになって。


お酒を飲んでいる訳でもないのにこんなに自然な感じで眠くなってきた辺り……、やっぱり、本当に、僕は――。


◇◇◇


まぶたを閉じたままでも分かる、今はきっと早朝だ。

ちょっとして意識がはっきりした僕は目を開いてみる。


……映るのは天井の隅までよく見える視界、肌から浮き出ていた血管も関節も見えないくらいにすべてべで小さくて柔らかい印象の静脈が透けて見えるくらいに薄い肌の子どもの手。


丸っこい手のひら。


「…………」


体を起こす僕の視界に長い髪の毛が映る。

透明に近い髪の毛が。


……現実だったかぁ……幼女になったの。


「……あ――……」


僕のため息は……どう聞いても小さな子どもの口から漏れてきたものだった。



両手で胸を揉んでみる。


もちろん肌越しに。

つまりは直接にだ。


今の僕はこの体に入っている意識なんだから事案とかじゃない。


だけど残念なのか安心なのか……弾力は確かにあるけど元の体のそれと違うのかどうか分からない。

昨日まで男だったんだから昨日までの僕の男の胸なんて当然に揉んだことがない。


だから分からない。


どうせなら手のひらに吸い付く……とまではいかなくても手のひらに収まって揉み応えのあるサイズは欲しかった気がする。


どうせ女の子になったのなら実感してみたい。

その願いは贅沢なのかどうか。


そんなことを思いながら僕は風呂場ですっぱだかになりながら僕自身の胸を揉んでいた。


目の前の鏡には……全裸で胸を揉もうと努力している、銀色に近い長髪と眠そうな目を向けている幼女が映っていた。



ぺたぺたともちもちになったほっぺたを揉んだり撫でたりしながら考えてみる。


とりあえず夢じゃなかったのは分かった。


変身してから2日目にして改めてこう……心にずっしりとくるというか結構こたえるものがある気がする。


「寝て起きたら元の体に戻っているかも」とか「そもそも全部がよくできた夢とか明晰夢」とか思っていたんだろうな。


現実感がなかったとも言える。


「!」


……ん、尿意。


そうか、確か女性は男よりもトイレが近いんだっけ?

ついてないから短いもんなぁ……。


昨日トイレで何度となく目にした、消失しちゃって目にできなくなったあそこを思い浮かべる。


つるつるのあそこを。


我慢しそこねて……この歳にしてお漏らしとか言う屈辱を味わわないために、僕は駆け足でトイレに向かった。



「よし」


必要はなさそうだったけどいつもの調子で顔も洗ってご飯も食べて洗濯も軽い掃除もして、普段通りの朝が来た。


やっとまともに考えられる。


この元凶が魔法か超能力か……隠された何かが目覚めたとかそういうものかはわからないけど、仮にそういうものだった場合には僕にはどうしようもないし対策なんてできないから保留しとこ。


とりあえず「魔法」でいっか。

親しみを込めて「魔法さん」。


原因はともかく、現状僕は幼女になっている。

戻るかどうか、いつ戻るかも分からない。


……このまま一生戻れない。

そんな可能性もある。


そうすると困ったことになる。


個人情報、戸籍、銀行口座……そのほかいろいろなもの。


今後僕がこの姿のままだとしたら困る、「僕という人間のデータ上の要素」。


おとといまでの僕は、そこそこ健康で病気も何もない健康に近い成人男性としての体も持っていた。


だけどそれから一夜にして一転して困ったことになった。


この幼女の姿の僕は……この顔的にも親類とかいないし、もちろん戸籍も学校に通った経歴や通院記録もない。


ましてやこの見た目、この町じゃ確実に目立つし1回見られたらまず忘れられないだろうし。


このまま警察や病院に行くか電話してすべて正直に話しても、子どものいたずらかだとか嘘つきな子どもだとか思われるだけ。


それとも家出少女とか思われるだけであしらわれるか引き留められるかだ。


だからよほどのことがない限り公的機関からの支援は受けられないだろうし、そもそも見つかったらアウト。


お巡りさん怖い。


子供には親がいるのが当たり前。

その親が物理的にいないんだからどうしようもない。


「君、お母さんはどこかな?」

「いません……」

「そっか、悪かったね。 元気出してね」


だなんて簡単な展開はお酒呑んでたって思いつけないし。


だからこそ、せめて数年は年上の外見ならって何度も思う。

本当に、切実に。


この姿だと……警察に見つかって保護されて、拉致監禁の被害者とか不法入国の捨て子だとかネグレクトって決めつけられるに決まってる。


しかも住んでたって主張するのはここだから、これまで住んでいたこの家から突然に姿を消した元の成人男性の僕が「犯罪がバレて逃げた」って決めつけられて。


今の僕はこれまでのすべてを手放すことになって、おとといまでの元の僕の風評的には最悪の「幼女拉致監禁事件の犯人」としてすべてを取り上げられる。


親戚のおじさんとかにもすっごく迷惑かけちゃうよなぁ。

だってまず連絡が行っちゃうのがそこだし。


「はぁ――……」


こんな状況なのに、なんでため息は無駄にかわいく感じちゃうんだろう。


凹む。

めり込む。


このお股みたいに。


……この体だと行動がかなり制限されることになる。


今の僕はどう見ても園児……いやいや小学生の外見だから、服装や口調でがんばってもせいぜいが中学生。


近所づきあいはほとんどないけど、会ったらあいさつくらいはする顔見知りは何人もいる。


長年一人暮らしだと分かっている男の家に、高く見積もっても女子中学生が出入りするようになるのが目に入って、ちょっとでも不審に思われるようなことがあった時点で、たぶんEND。


お隣さんからのお巡りさんでパトカーでおしまいだ。


最近は特にそういうのに敏感な世の中だし、こればかりは考えすぎということもないだろう。


だから……ご近所に見られたとしても、女の子じゃなく男の子だって。

なんなら髪の毛も隠して黒髪黒目の少年って錯覚させたい。


そのためには外に出なきゃならない。

でも今外に出るには心細い。


なんてことだ。


昔の服でとりあえず形にはなってるけど違和感がすごいし……でもサイズとか分からないし、この姿で宅配を受け取れないから通販も使えないし。


「……むー」


やっぱこの状態、お下がりを着た小学生って感じの姿で外に出なきゃならないのかぁ。


「あ――……」


だるい。


このまま何も考えないで二度寝したい。



僕は踏ん張る。

絶妙な開閉のバランスを意識するのがポイントだ。


「……あっ」


緊張がほぐれて温かくなる快感とともに、しゃあああっと……勢いのある水の音がお股の下から響いてくる。


男のときとは明らかにちがう放尿の感覚だ。

何かと戦うような壮大な緊張感。


我慢するのは今まで通りの感覚なんだけど……いざ出そうとするときと出しているあいだの感覚、あと音がやばい。


なにがやばいってものすごく響く。


オンかオフしかできないとかダメじゃんか。

男のときは10%刻みでコントロールできたし途中で止めたりできたのになぁ……。


だから男だったときには想像も出来ない激しい音がトイレ中に響き渡る。


あと……拭く感覚だけは他のほとんどで違和感がない中で音の次に、どうしても慣れない。


ちりってするからびくってなっちゃう。


敏感すぎない?

女の子のお股って。


もう失った貴重な存在へ、すーすーする感覚と一緒に想いを馳せた。



僕が本当に見た目通りになっているのかどうか。


本当は体が変わってなんかいなくて「体が変わったんだ」って僕の頭が勝手に思い込んでいるのかっていう僕の認識の問題。


ややこしいことこの上ないけど、僕が今この目で見ているものと耳で聞いているものが正しいもので信用できるのか……その最後の確認が必要。


だって肉体が物理的に幼女になるより僕の脳みそがおかしい方がまだ現実的だもん。

でもそう考えられる時点で正常かもしれないって言う矛盾。


けどもこればっかりは僕ひとりで、この家にひとりでいるだけじゃ確かめようがない。


まぁ仮に僕の認識がおかしくなっていて男の身体のままだったりすると……今の僕は昔の頃の服を着ようとしてたぶん着られなくなって、成人男性のシャツ1枚とかになっている可能性まで出てきちゃう。


「…………………………うげぇ――……」


……そこまで疑うと身動きが取れなくなるし……諦めよう。


幼女誘拐監禁っていうのに比べたら露出徘徊なんてささいな問題なんだ。

せいぜいがお説教されて頭の心配されるだけで済むんだから……きっと。


普段の素行は悪くはなかったはずだし、お隣さんもきっと「お仕事を探して疲れちゃったのよね」って言ってくれるはずなんだ。


たぶんね。

そうだといいな。


部屋に戻ってシャツ以外全部脱いで、ずっとすーすーしていたお股をタイツと短パンとその上のズボンで覆って温まって……元の体だとぴちぴちにはなっても着られるだろうサイズのシャツにパーカー。


パンツもタイツで無理やり固定したし、もし男のままでもお巡りさんに捕まらない格好にはなっているはず。


パーカーの下に被る帽子はふつうの野球帽だけど、サイズが大きめだから……特に大人からは直接顔を見られないだろうし、髪の毛はパーカーの下に隠した上でフードを帽子の上にかぶせれば大人の視線からは僕の顔と髪の毛は見えない。


「……行くか」


そうして僕は家を出る。



普段歩き慣れているはずの道が広いし遠い。


どきどきしてる。


顔をじっくり見られちゃいけないってのと話しかけられないようにしなきゃいけないって意識しているのに加えて、慣れない体で慣れない服装だから普段以上に疲れる。


ものすごくどきどきしてる。


ときどきちらちら見上げてみても……特に気にされている様子はないみたい。


「ふむ」


幼女だから体力面で不安がある。

ゴミ出し用のでかいサンダルで転ばない程度に急ごう。



「ふぅ……」


疲れた。


春の日差しと着ている厚着と、演技はしていてもやっぱり不安で仕方ないのが続いたせいで……駅ビルの軽い冷房がかかっている空間に入ると汗が首筋ににじんでいたのに気がついた。


エスカレーター前のスペースに空いているイスを見つけて座ろうとして半ばよじ登るようにしないと座れないのにも気がついて、そこはかとないダメージを受けてしばし。


大人と学生と子どもの割合が大体同じという休日特有の家族連れの多い光景。


騒がしいことこの上ないし、どこかの子どもが泣き始めたら結構響く響く。

あと素の声が大きい人たちの声も。


こういう活気に溢れているっていうか、たくさんの人が思い思いに楽しんでいるような場所っていうのは僕にはもともと合わないんだ。


あと少しだけ休んだら、いつもシーズン毎に来ている服の店の女性服売り場に行こう。


行って服を店員さんに話しかけて服を買えば……目で見るものとか耳で聞くもの全てがおかしくなっていない限り、僕の年齢と性別が分かるだろう。


「…………………………」


でもどれが僕にとっては良いんだろうね。


僕の視覚と感覚がおかしくなっているのか。


僕は元々幼女だったのか。


――見たままのとおり、幼女になっちゃっているのか。

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