第5話

 長いと思っていた僕の夏季休暇も、いよいよ今日が最終日だ。

 今日までの6日間はなんだったんだろう。奈津希さんと再会することはできたけど、2回とも結局微妙な空気のまま解散になってしまった。

 吉岡と会った日の帰り道、古い記憶の確認のためにメッセージを送ったのが最後のやり取りだ。


 青木:すごく変なことを訊くんだけど、奈津希さんって昔、僕のおばあちゃんちに一緒に行ったりした?

 奈津希:よくわかんないけど、それっていま気にすることなの?

 青木:ごめん、たぶん僕の記憶違いだから。気にしないで。


 僕たちのやり取りはそこで途切れている。

 このまま夏が終わってしまって、何事もなかったように、時々思い出しては懐かしくなるような関係に戻ってしまうのかな。

 奈津希さんは夏そのものだ。僕の中で夏がただの季節の一つになってしまったように、奈津希さんもただの旧友の一人になるのかな……。


 それは嫌だと思った。

 手の中でスマートフォンを遊ばせながら、なにか連絡する理由を考える。だけど、そんなものはいっこうに浮かばない。誘えそうなイベントもなければ行ってみたい場所もない。完全に手詰まりを感じていた。

 そもそも、僕はそういうキャラじゃないし。どうせまた明日から仕事に追われる毎日に戻るんだ。この夏のことなんてすっぱり忘れて、頭を切り替えた方がいいに決まってる。

 不意に、手の中のスマートフォンが震えた。慌てて落としそうになるのを堪える。

 その画面に表示された文字を見てまた驚いた。


「奈津希さん……!」


 奈津希:夏休み、たしか今日までだったよね? もし空いてたら今から会えない?


 短いその文面を3回は読み直した。自分の早とちりじゃないか、頭の中で何度も確認をする。だけど何度読み返しても、その文面が変わることはない。

 僕はすぐにそのメッセージに返事を打った。


 青木:今日なら一日空いてるよ。どこで会う?


 奈津希さんからの返事はすぐにきた。


 奈津希:どこにしようか。どこがいいのかな。

 青木:どこでもいいよ。

 奈津希:じゃあさ、上野まで来れる? それで、そのままどこか遠くに行こうよ。


 どこか遠く。

 奈津希さんの言うそれがどんな場所を指しているのかは分からなかったけど、別にどこでもよかった。

 だって、夏は遠くに行く季節だから。


 青木:分かった。すぐ支度して向かうよ。


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