エピローグ

第71話

 あたたかな春の日差しに包まれながら、期待に胸をふくらませたスーツ姿の新入生たちが体育館から続々と出てくる。それを待ち構えていた在校生たちは、我先にと肩をぶつけながら新入生たちの元へ駆け寄った。

 入学式の日のキャンパスはどこを見ても人、人、人。


「探偵サークルで~す! お願いしま~す!」

 春樹はるきは大きな声で、道行くスーツ姿の新入生に話しかける。

 大量のチラシを手にした秋斗あきとのぞみには人をかき分けて進むほどのエネルギーはない。二人は自動販売機の横に隠れ、ホッと一息ついた。


「絶対こんなたくさんいらないよね?」

「ああ、無駄な経費すぎる」

 あきれた様子でチラシのたばを見つめる希に、秋斗は何度も頷いた。


「というかさ、めっちゃ懐かれてるね、秋斗」

 希は横目で秋斗の陰に隠れている幽霊を見た。びくりとおびえるように秋斗のそばを離れない。中学生で自殺した幽霊、ユウ。ユウは希にキレられてから彼女のことが苦手だ。基本生意気な少年なのだが、希がしゃべるだけで委縮いしゅくしてしまう。

 秋斗はユウの頭をポンポンとなでた。触れることはできないが、なんだか弟ができたみたいでちょっと嬉しいのだ。


 すると、サボっている二人に気づいた春樹はドカドカと人混みを抜けてきた。

「秋斗も希も頑張って声出して!」

 春樹の横に浮いている幽霊が「そうだそうだ!」と声をあげている、ように秋斗にはえる。

 オカルト研究サークルの依頼で出会ったギャルの幽霊、レイ。彼女は今まで宗介そうすけの探偵事務所に居候いそうろうしていたのだが、佐伯さえき茉鈴まりんが大学を卒業し、事務所で働くことになったので、代わりに探偵サークルに派遣されたのだ。


 春樹の手にはあんなにたくさんあったチラシがもうなくなっている。

 いっこうに動こうとしない秋斗と希の後ろに春樹は回り込み、二人の背中をぐいぐいと押した。人間に触れられないレイも、エアーで背中を押してくる。


 秋斗と希は観念したように大きく息を吐くと、顔を見合わせ、声をそろえた。

「「探偵サークルでーす。お願いしまーす」」

「棒読みじゃん!」


 探偵が卒業してしまった新生探偵サークル。三人……いや、五人が所属する不思議なサークルの非日常は、まだまだ続きそうだ。



〈訳のわからぬ探偵は 完〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る