8. 嫌いな奴

 半蔵は、大志を見つけた瞬間、引き返して次の便に乗ろうかと思ったが、大志が気づいたので、目が合ってしまう。大志がニヤッと笑った。半蔵は我慢して留まる。逃げたと思われるのは癪だった。


 大志が歩み寄ってくる。友達と思しき2人の少年もついてくる。見たことが無い面々だった。高校で新しくできた友達だろう。


「よぉ、門夜。お前もダンジョンに来ていたのか」


「まぁ、うん」


「へぇ、いつから?」


「昨日から」


「そうなんだ。俺たちは1週間前から来てるぜ。レベルは?」


「7だけど」


「まだそのレベルかよ」


「江戸沢はいくらなんだよ?」


「9だけど」


「対して変わんねぇじゃん」


「あ? 俺の方が上であることに違いは無いだろ」


「なぁ、大志」と後ろにいた少年の一人が言う。「友達?」


「は? こいつが友達? そんなわけないだろう。クラスに1人はいただろ? 変わっていることがカッコいいと思っているキモい奴。それがこれ」


「ああ、なるほど」


「なんかわかるわ」


 後ろの2人が薄い笑みを浮かべる。類は友を呼ぶ。彼らも本質的には江戸沢らしい。


「で、お前にパーティーのメンバーはいるの?」


「……いないけど」


「ぷっ、よくそれでここに来ようと思ったな。どうせ、誰にも話しかけられないから、ベンチに座って、寝たふりをしながら、無駄に時間を過ごしているだけだろ」


「いや、普通に話しかけて何とかしているけど。だから、レベルが7になったんだし」


「は? 嘘を吐くなよ」


「いや、マジだって」


 言われてみたら、積極的に他人と会話している。普段なら全く考えられないことだ。旅行に出かけると気が大きくなるらしいが、今はその状態なのかもしれない。この状態なら、女性とも話せる! と思ったが、思い返してみたらそんなことは無かった。今日も、鷹尾やカップルの男性の方とは話せたが、吉江に話しかけられた時は、「はい」「ええ」「まぁ」以外の言葉を発した記憶が無い。


 そのとき、「何してんの?」と女性の声がした。その人物を見て、半蔵はドキッとする。クールな顔つきで、肩で切りそろえられた髪にはウェーブが掛かっている。田辺三子たなべみこだった。同じ中学出身で、中2のときに隣の席になったことがある。


「あ? 何でもねぇよ。行こうぜ」


 大志が興味をなくしたのか、離れた号車の位置へ移動していく。


(ようやく行ったか)


 半蔵が安心していると、視線を感じた。三子と目が合う。途端に緊張する半蔵。何か話した方が良いかもしれないと思い、声を発する。


「……ぅす」


「あんたも冒険者なの?」


「え? あぁ、まぁ、はい」


「ふぅん」


「おい、三子! 早く来いよ!」


 大志に呼ばれ、三子は歩き出す。が、立ち止まって振り返った。半蔵は緊張する。しかし三子は、何も言わずに大志たちのもとへ行った。


「……ふぅ」


 半蔵は大きく息を吐いた。今日一で緊張した。女性は心臓に悪い。


(ってか、あの2人ってどういう関係なんだっけ?)


 半蔵は中学時代のことを思い返す。確か2人は、幼馴染だった気がする。


(田辺さんもよくあんなやつと続いているよな)


 しかし三子にも、人の失敗を笑うところがあった。あれは今でも忘れはしない。教室で寝たふりをしていたら、突然話しかけられ、男子だと思って顔を上げたら、三子だったので、驚いて椅子ごとひっくり返ってしまった。そのとき、三子は腹を抱えて爆笑していた。めちゃくちゃクールな人だと思っていたから、その姿が意外だったのと同時に、かなり恥ずかしかった覚えがある。


(あー、やべぇ、黒歴史を思い出してしまった)


 顔が熱くなる。これもすべて大志のせいだ。


(ってか、あいつも冒険者なのかよ)


 これは面倒なことになった。ダンジョンでもあいつの影を気にする必要があるとなると、面倒なこと、この上ない。


(いや、でも、逆にチャンスかもしれない)


 もしも完璧に女装できるようになったら、女性のふりをして、あの男に近づく。そして、その気にさせた後で正体を明かし、大恥をかかせる。そうなれば、あの男も自分とは関わろうとしなくなるだろう。


(……やる気が出てきたわ)


 半蔵のモチベーションが高くなった。


 それから1か月。アプリやクエスト、たまに野良猫酒場を利用して、レベル上げに勤しんだ結果、半蔵のレベルは15になった。

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