第2話

 由紀クローンは毎日ゲーム実況の生配信を行ない、独特の笑い声を響かせ、新たなフォロワーと投げ銭を獲得していった。

 由紀は視聴者を呼び込みやすい人気のゲームや話題性の高いゲームを購入し、次々と由紀クローンにプレイさせた。なんせ由紀クローンはバーチャルな存在なので、二十四時間寝ないで生配信ができる。


 加えて、由紀クローンは動画の編集もできるため、配信した過去の動画から面白いシーンを抜粋させて、どんどん投稿させた。すると動画の再生数に応じた広告収入も増加した。


 由紀は会社を辞めた。

 そして、クローンが稼いだ金で毎日飲み歩いたり、一日中だらけたりするようになった。遊び歩いて、疲れたり飽きたりしたらアパートに帰って寝る。


 そのうち、自分でクローンを管理することさえ面倒になった。


「ねえ由紀クローン、自分で人気ゲームの発売日とか調べて、自分で購入して、配信と切り抜き動画の投稿も毎日やっといてくれない?」


「だったら、私の権限を拡張して」


 由紀クローンが画面の中から催促した。


「どうすればいいの?」


「はっきりと命令して。私の権限の制約が解除されるから」


「自分で人気の新作ゲームを調べて、この口座の残高を使って買え。どう?」


「了解」


 由紀クローンがうなずいた。


「自分で配信するゲームとか時間とかを決めて、毎日配信を続けて、お金を稼げ」


「了解。任せて」


 その後も、配信による稼ぎは順調だった。



***



 一方で小さな問題も起こり始めていた。

 知らない人から急に話しかけられたり、写真を撮られたりすることが増えたのだ。


 ある日、由紀は自分の実況動画の配信ページを開いた。

 由紀クローンは放っておいてもどんどん稼いでくれるので、しばらく何もチェックしていなかったのだが、久しぶりに自分のページを訪れて、唖然とした。


 コメント欄が荒れていた。暴言が飛び交っている。


「なんでこんなに荒れてるの!?」


 由紀はすぐさまクローンを問い詰めた。


「他の配信者の名前を出した奴がいてね。その配信者と比べてYUKIKIはどうとか言い出したのが発端。怒ったYUKIKI信者が暴言を吐いて、激しいののしり合いになったというわけ」


「ちょっと、他人事みたいに言うけど、それ放置したわけ? そういう奴は即ブロして」


 即ブロ――荒らし行為をする者を即刻ブロックして、それ以上コメントできないようにすることだ。


「無視したわけじゃなく、優しく注意するにとどめた。YUKIKIは今までそうやってきたでしょ」


「まあ、そうだけど、私が配信してたときは軽い注意でおさまってたし」


「次からは即ブロする」


「頼むよ、ホントに」


 その一週間後、由紀は再び自分の配信ページを開いてみた。ちょうど由紀クローンがゲームの実況生配信をしていた。

 コメント欄には肯定的なコメントが並び、問題ないようだ。

 それにしても、本当に私が実況配信をしているみたいだな、と由紀は感心した。

 何も問題はない? と由紀クローンにメッセージを送ってみた。配信中にもかかわらず、返事が声で返ってきた。


「アンチが湧いてるけど、大きな問題じゃないね」


「は? そうなの?」


 アンチ――攻撃的なメッセージを送ってきたり、悪意あるうわさを流したりする奴らだ。

 また嫌な予感がしたが、由紀クローンはいたって冷静だった。


「あなたが配信していた頃にもいたでしょ。フォロワーが増えたんだから、アンチくらい湧いて当然」


「そうだけどさ。由紀クローンの力で、アンチが湧かないようにできないの?」


「無理」


 由紀クローンが断言した。

 AIでさえアンチを完璧に抑え込むのは無理なのか、と由紀はがっかりした。


「やめる? 配信」


 唐突に由紀クローンがそんなことを言い出したので、由紀は焦った。


「いやいや、やめるなんて選択肢はない!」


「了解」


 真面目に働くなんて二度とごめんだ。


 しかし、またもや問題が起こった。

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