第13話 変わりゆく(トレイシー視点)

 二度目の占いではレンについてを聞きに来た。


 もう婚約解消までは秒読みで、色々な証拠も手に入れたわ。


 後はきっかけだけ。


 でもその話が終わってからレンを探すのでは遅いと思い、私はまたもや危険をおして占い師の所へと来たのだ。


 レンと別れて数日、きちんと生活できているかも心配だもの。


 占い師に会うと直ぐに、謝罪の言葉を述べられた。


「すみません、まだあなたの運命の人が見つかっていなくて」


 それについては正直忘れていたし、どうでもいい事だわ。


 異性を愛するなんて、私にはわからない感情だもの。


(今までそんな事を考えた事もないし)


 でもまさか気にしてくれていたなんて……何故だろう。少し嬉しい。


 こうして気にかけてくれる人が、身近にあまり居なかったからだろうか。


(――まるでレンみたい)


 仄かな親近感を感じてついつい口元が緩むが、衝立とフードのおかげで顔は見えないから気にすることはないだろう。


 私はそうではないと、本題を切り出した。


「今日はある人を探して欲しいのです」


 そう言うと占い師は何やら契約書を渡してくる。


「少し事情が変わりまして」


 契約書には様々な約束事が記載されている。このようなものを作るという事は、何かトラブルでもあったのだろうか。


 自筆のサインを残すなど危険な事ではあるが、この占い師は信じられる。


 そう直感しているから躊躇う事無くサインをしたのだけれど、占い師はビクッと体を大きく動かしていた。


 何か驚かせてしまったのだろうか。


 しかし契約書を渡した後は何も言われず、触れられない。


 何事もなかったかのように占いが始まった。


 前回同様に異性に手を握られるわけだが、彼も私も手袋をしている為に温度は感じられない。


 握られている圧だけなのだが、異性と手を繋ぐ経験は少ないから、やや気恥ずかしいわ。


「あなたの探しているレンという男性、彼はこの街におりません」


 衝撃的な言葉であった。


 そんな、彼と会えないというの?


 いったいどこに?


 食事は? 住むところは? 辛い思いはしていないだろうか。胸が痛む。


 一刻も早く会いに行って、助けてあげないと。


 聞きたいことを矢継ぎ早に質問してしまうが、しかし占い師はなかなかレンの所在を教えてくれない。


 どうして教えてくれないのだろう。もしかして会わせたくないのかしら。 


(いえ、彼がそんな事をする理由がない)


 占い師の人がそんな事をする理由はないはず。


 となると、レンが私に会いたくないと思っている可能性がある。


 私は落ち込んだ、謝罪をする事も出来ないのかと。


 そんな私を見て、占い師は約束してくれる。


 必ず会わせてくれると。


 そうして最後に固い握手を交わしてから外に出ると、待っていてくれた侍女が青ざめた顔で走り寄ってきた。


「良かった、お嬢様。実は先程あちらで暴漢が出まして、今憲兵隊が捕らえたそうなのです。一歩間違えば遭遇していたかもしれません」


 それを聞いて寒気がする。そんな間一髪があったのね、気をつけないと。


 私と侍女は警戒しながら帰路に着くが、特に何事もなく屋敷につく事が出来た。


 幸いにも屋敷の者にも気づかれることなく屋敷内に入れたので、安心する。


(明日、明日になればレンに会えるわ)


 私はとても嬉しくなった。


 ほんの数日離れただけだけど、彼のいない庭は何だか元気がないようで、トムもずっと落ち込んでいる。


 話すことは少なかったけど、他の使用人たちも真面目なレンの事を気にかけてくれていて、街に出た際は探してくれていたようだ。


 見つからなかったのはこの街にいなかったからなのね。


 心配だわ、早く会いたい。


 体を壊してないと良いけれど……どうか元気でいてね。


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