純愛と無垢と拗れ

電話番号案内局

誰とも話せないけどあなたとは話したい。

「これって棚上置いとけばいいです?」

「ん? ああ。そこで」

「こっちは」

「前教えたよ」

「わすれちゃって」

「えと、コッチは倉庫。それはさっきのの横で」

「あ、はい。わかりました」

「他ある?」

「とくに」

「じゃ早く行ってきて」

「いやです」

「は?」

「もちょっと話してたくて」

「は?」

「片寄さんって相手いるんですか?」

「……。仕事中に私語止めてくんない」

「指輪」

「えっ? あっこれは間違えてた。いつも中指につけてるの」

「嘘」

「嘘?」

「ですよね」

「どうでもいいだろそんなこと」

「よくないですよ。いるかいないかで話す内容変わってきますから」

「そういうのは休憩時間中にね。今はさっさと片付けやって」

「そうやって逃げる」

「うるさいよ。早く」

「いつも事務所いないじゃないですか。自分たばこ吸わないんで」

「喫煙所来ればいいじゃん」

「意地悪ですね」

「電子タバコなら煙出ないし吸ってるフリして来ればいいじゃん」

「そんなことできる訳ないじゃないですか」

「話終わらせたいから。さっさと」

「ここ逃したら次いつになるかわからないんで。話しとかなきゃって」

「いきなり気持ち悪いよ」

「気持ち悪いの嫌ですか?」

「嫌だよ」

「重いんです。自分」

「怖いんだよ。急に指輪の事とか聞くなよ。独身。はい。話おしまい。行って行って」

「嫌いですか?」

「嫌いじゃないよ。同僚だからね。でも、今は違うじゃん。仕事中だよ。そういうこと聞いていい時間じゃないんだよ。終わんないよ。とろとろやってたら5時過ぎるから早くして」

「でも、片寄さん終わらせてくれるじゃないですか」

「人頼みやめてくんない。頑張って調整してんの。努力してる訳。ダラダラやる人がいるからやらざるを得ないの」

「そういうとこが好きなんです」

「は?」

「好きです」

「何言ってんの」

「怒んないから。普通怒りますよ。こんだけ使えない奴いたら」

「しょうがないじゃん。出来ないんでしょ? なら誰かがやるしかなくて、それは私の役割だから」

「怒んないの優しさです」

「ってか、自覚あんなら改善してくんない? 何か一つ一つ覚えてよ。一個一個教えるから一瞬でも早く覚えて。しんどいんだから」

「優し」

「うるさい」

「片寄さん。相手いないなら付き合ってほしいです」

「今日? 夜?」

「夜とかじゃなくていつでも。ずっと」

「いいよ。今度飲み行こ」

「いいんですか?」

「いいよ。飲みね」

「……。なんかあっさりしすぎて嫌ですね」

「ですね。じゃなくて仕事して。五時に終わらせて。さっさと帰るぞ」

「好きなんです。付き合ってください」

「いやです」

「なんで?」

「仕事中」

「だから?」

「だからだよ」

「だから何なんですか?」

「仕事中にそういう話は禁止」

「誰が決めたんです?」

「社員研修中に読まされなかった?」

「書いてなかったです」

「書いてなかった?」

「規約の欄全部読みましたけど書いてなかったです」

「マナー講座とかで言われなかった?」

「告白したらいけないとは言われませんでした」

「それは社会人としてさ」

「じゃあ断ってください」

「断れないよ。本気なんでしょ」

「本気です」

「ならさ。飲み行こ」

「へ?」

「食事からでしょ。こういうのは」

「OKってことですか」

「食事して色々話して決めよう。そういうことは。デート? とかさ。付き合う前の」

「デートは付き合ってからするものでは?」

「そうなの?」

「そうじゃないんですか?」

「いまいちわかんない。でも、職場だと話す時間ないじゃん。だから、食事して話そうよ。色々と」

「それデートじゃないですか」

「そうかも」

「ならそうしたいです」

「そう。ならそうしよう」

「はい。嬉しいです」

「なら、早く終わらせよう。仕事終わらせて行こう」

「はい。頑張ります」

「やけに素直じゃん」

「好きなんで。だから、頑張ります」

「いつもそんくらいでいてくれよ」

「どうしたらいいかわからなくて」

「何が?」

「話してると頭回らなくなっちゃうんです」

「何でよ」

「好きだから」

「好き?」

「好きすぎてあたまがまわらないんです」

「こっちはいらいらするよ」

「なんでですか」

「話聞いてくれてるか不安になるから」

「なんでです?」

「話聞かないってことは嫌なのかなって」

「なにがです?」

「嫌われてんのかなとかさ」

「好きです」

「なら頑張ろ。お互いさ」

「はい。頑張ります」

「それは棚上でその横にそれね。後は倉庫。覚えた?」

「ハイ。行ってきます」

「荷物多いから気をつけてよ。危ないから」

「ありがとうございます」

「頑張って」

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