朝の散歩

ブンダマン

朝の散歩

朝の6時半頃、目覚めた。ペットの犬が僕のまわりをほっつき回っていた。興奮した様子でハァハァと温度調節をしていた。おそらく散歩帰りだろう。父さんはキッチンで何か物色していて、母さんはカレンダーをただ見つめていた。朝目覚めた時はなんだか憂鬱になるものだ。特に自分が寝ている姿を誰かに見られた時は酷い憂鬱に襲われる。僕は布団を持ってリビングから2階の自分の部屋に移動した。実は昨夜はリビングで寝ていた。なぜかというと昨日の夜、僕の部屋に虫が大量発生していて、母さんに取ってはもらったんだ。でもやっぱり自分の部屋では眠りにくいなと思いリビングで寝た。自分の部屋に布団を持ってきた。眠ろうかと思ったがやはりまだ昨日のトラウマが拭えないので起きる他なかった。家にいても退屈なだけなので散歩をすることにした。

6時の終わりごろ、家を出た。暖かいが、昼間に比べると涼しい方だ。セミの鳴き声が聞こえた。ミンミン鳴いている。上には青空。夏だなぁ。しばらく歩くと道端で草むしりのようなことをしている集団を見つけた。草むしりをしながら雑談をしていた。僕の住む街にはそれなりに大きい公園があるのだが、そこを通ると子供たちと大人数人が集まってラジオ体操をしているのが見えた。懐かしい。小学生の頃、何度が行ったことがある。しかしもう世の中は夏休みか。いいなぁ。僕も普通の学生として夏休みというものを体験したいなぁ。夏休みを迎えたいなぁ。そんなことを考えながら僕は歩いた。少し前まで朝はかなり憂鬱になっていたんだけども、ここ最近は簡単に憂鬱になるということもなくなった。憂鬱さはあるのだけれど、心全体が憂鬱に支配されるというのは、少なくとも朝には起きなくなっていた。まぁ要するに多少はマシになったということだ。ただ、依然として心のどこかに闇を抱えているという点においては変わらない。

僕は歩きながら、セミや鳥の鳴き声を聴きながら、妄想をした。暇な時間や何もしない時間帯があると、なぜか自然と妄想をしてしまう。今回の妄想は小学生の男の子に「引きこもりって楽でいいよね」と言われ、僕は「引きこもりというのはね、毎日が夏休み最終日なんだよ」と小学生の男の子を諭すという実にくだらない妄想だった。そんな感じの妄想を僕は1日の中で何度もする。それは意識的にやっているのではなく無意識にやっているのだ。なぜかは分からない。僕は小さい頃から妄想をたくさんしていた。とにかくそういう人間なのだ。

散歩をしている最中、雑談をしながら草むしりのようなことをしている集団を何回も見た。その草むしりのようなことをしている集団を見て僕は、ちゃんと学校に通っていた頃を思い出した。あの頃の僕は一人ぼっちでクラスの中にある複数のコミュニティ(集団)を見ながら、コミュニティに対する苦手意識を持ちつつ、憧れという感情も持っていた。集団というのは怖いし、僕はコミュニケーション能力が異常に低い。でも僕もあの輪の中に入りたいなぁ。あの風景は僕にその感情を掘り起こさせた。と同時に1人であることの恥ずかしさも思い出したし、自分が怠け者で何もしないことに関してみんながどう思っているか、これを考えた時の何ともいえない感情も思い出した。あの時の僕は放浪者であり寡黙な読書家であった。コミュニケーション能力が低すぎた上にプライドが無駄に高かったおかげで、どこのコミュニティにも属せず、ただ恥ずかしさを感じながら色んなところをほっつき回ったり、自分の椅子に座り本を読んだり、とにかくそんなことをしていた。今ではそれが懐かしい。それで良かったんだ。普通の学校生活に戻れたらなぁ。僕は、ただ普通の生活がしたい。何一つ劣等感を抱かずに済むような能力や生活が欲しいだけだ。

草むしりのようなことをしている集団を見るうちになんだか自分が労働に勤しんでいる民を直接、歩いて見て回る王様のように思えて少し誇らしくなった。そうだ、僕は彼らとは違うのだ。選ばれし人間、人々を導く側の人間なのだ。そう思えたがすぐにコミュニティに入れずに常にどこかを放浪する哀れな男にイメージが戻って、恥ずかしく感じた。歩いている途中、中学生か高校生ぐらいの髪の短いボーイッシュな女の子がラフな格好で犬の散歩をしているのが見えた。なんだか学校にいた頃の同級生を思い出して、あの頃に戻りたくなった。あの子は今何をしているのかなぁ。会いたいなぁ。特に仲が良かったという訳ではないが、しかし会って仲良くなりたい。同世代の子と関わりたい。そんな気持ちが僕の心の片隅に、少量ではあるけれど、しかし確かにあったのだ。それにしてもあの光景は「夏休み」という恒例行事を心の核に感じさせるものがあった。夏休みでない時は朝に犬の散歩をしているのは中年や老人がほとんどだが、こういった10代くらいのボーイッシュな少女という普段、この時間帯に、この場所で、見ないような人を見ると非日常があるというか、つまりは今が夏休みであるということを深く感じるのである。あの光景はひと夏の青春というのも感じる光景であった。要するにあの光景は僕に非日常的なワクワクを引き起こさせ、過去に対するノスタルジーや後悔をも引き起こさせたということだ。

僕はその感情を噛みしめながら帰宅した。

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