第28話

「んー!よく寝たー!!」

 愛猫…じゃない、愛ケット・シー(言い難いな!?)のタマに添い寝して貰ったおかげか、昨夜は夢も見ずに爆睡した。いやもうほんと、これ以上ないくらい心地よい朝だ。カーテンの隙間から零れる日差しも良いし、なんかいいことあるかも??なんて、根拠のない予感まで湧き起こってくる。


 これなら昨日の悩みも、あっという間に解決するかも!?


 ──なんて、ポジティブ過ぎる思考にワクワクし始めていたら、


「お嬢様、お目覚めですか?」

 と、ドアの外から聞き慣れた声が掛けられた。

「ん?ミィナ?ええ、起きてるわよ」

 普段ならもう一回寝ようかしら??とか自堕落なことを考えるところだが、あまりにもスッキリ目が覚めてしまったので、私はベッドの上に身を起こしてタマを撫でていた。

「なによ…こんな早くに…」

 まだ呼んでもいないのにやたら早いわね!?

などと、ミィナの登場にちょっぴり不満を漏らしつつ答えると。

「申し訳ございません。ですが、早急にお知らせしたいことが…」

「え??」

 歯切れも悪いし、どこか声に緊張感が漂っていた。

 なにかしら??彼女のこんな声は珍しい。

一流のメイドとして仕事中は常に冷静沈着で、無表情無感情をモットーとしているのに。

「入ってもよろしいでしょうか?」

「ええ……構わないわよ」

 かなり嫌な予感を覚えつつ応答すると、ミィナは改めてノックをしてから入室してきた。

「おはようございます。アウラお嬢様」

「おはよ、ミィナ…何かあったの?」

 彼女は手に顔を洗うための水盆を持ち、幾分、強張った顔付きで部屋の中へ入ってくる。話の前に私はまず彼女の差し出した水盆で顔を洗い、次に差し出されたタオルで拭いて寝起きの頭をサッパリさせた。

「……実はこのようなものが届きまして」

「………ん??」

 私が寝ざめの水を飲んで一息つくのを見計らってから、ミィナはポケットから何かを取り出して見せてくれる。ええと、手紙??…ていうか、なんじゃこれ??昔の漫画でよく見た決闘状かな??

「ええ………っ??」

「一応、不審なものでしたので、執事さんと相談して中身を確認させていただきましたが…」

 困惑??という顔でミィナは、私に中を見るよう勧めてくる。ので、恐る恐る封を開いてみると、


『アウラお嬢様へ


 わたくしたちの間には、色々な誤解があると思うの


 きっと話し合えば、仲直りできると信じていますわ


 という訳で、明日、正午、湖の教会で待っています


 時間通り来ていた頂ければ、これまでの私に対する数々の意地悪も水に流して差し上げますね


 女神のように寛容な私に感謝してください!!


 では明日、正午、お待ちしています。


 あ、絶対に遅刻は無しですわよ


 絶対ですからね!!


 グスタフ男爵令嬢 キャスリーナ』


「字が汚いわね…」

「ええ。とても貴族の娘とは思えません」

 内容より先に字の汚さが目に付いた。ついでに、この字体には覚えがあった。そう、魔法ペンで書かれた机の落書きだ。私は、やっぱり犯人はあの女だったか…と今更ながらに確信を得る。

 それにしても『赦して差し上げる』って、どんだけ上から目線なんだよ??そもそも、彼女の言う『数々の意地悪』に、まるで覚えがないんだが!?被害妄想がブレーキ壊れて暴走してんのか??

 突っ込みどころ満載の手紙の内容に、軽く頭痛を覚えながらミィナに『どう思う?』と聞いてみたら、

「まず確実に何か企んでますね。むしろ解り易くて潔いほどです」

「………だよね」

 ミィナの容赦ない返答に私は、ハハハと軽い笑いが漏れてしまった。

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