第26話

 5科目満点500点中178点


 赤点は30点


 つまり1科目平均35点ほどでギリギリ赤点回避という神業を食らわせた今期の年度末試験。


 さすがにこれは最下位を避けられないレベルだろう、と張り出された試験結果をワクワクしながら、友人のエアリアル令嬢と共に見に行った私は──


「3位って何……??」


 と呟いたきり、まさかの順位表に頭が真っ白になっていた。

「なんでも今回の試験、平均が120点ほどだったとか?」

 呆ける私にエアリアル嬢が、恥ずかし気に補足情報を教えてくれる。

「そ…そうなんだ……??」

 ええと。今回の試験、そんなに難しい試験内容だったっけ??いや、まあ、確かに(無対策とはいえ)真面目に挑んで、結果がこの点数ではあったのだけれど。

 それにしたって1位のリュオディス殿下ですら、総合200点って…いくらなんでも低すぎやしないかい??


 ちなみにヒロインは最下位から2番目だ。


 普通、この手のゲームのヒロインって、成績優秀な設定なんじゃないの??とは頭の隅で突っ込んでみたものの、想定外すぎる事態に今の私はそれどころの話ではなかった。

「嘘でしょ……」

 ガラガラと崩れていく、夢の年金生活…じゃなくて、婚約破棄からの楽隠居生活。

 もうそれはこの手の届く範囲にある!!と、ここ数日で思い込んでしまっていたから、余計に私はガックリと落胆してしまっていた。なんでこんなことに??と、混乱する頭の中であれこれ考えていたら、

「ひょっとして、これが強制力!」

 『強制力』とはそもそもの原作──小説だったり、ゲームだったり色々──の正規内容へ軌道修正するために働く『見えない力』のことだ。


 『復元力』と言い換えた方が解り易いだろうか。


 この手の小説を前世でよく読んでいたから、そういう力が存在することがあるのは良く知っていた。

 しかし、今の今までそれが発動した気配は感じられなかったのに、なぜよりによって今なんだろう??

 というのも、『悪役令嬢』たる私自身の性格もそうだけど、メイン攻略対象であるリュオディス殿下も、その行動や性格が原作ゲームとはかなり異なってるのに、強制力が働いて修正をかける様子がなかったからだ。

 それなのになんで急に??しかもこんなおかしなところで??

 ていうか、もしもこれがその強制力だっていうなら、なにゆえ、私の得点に合わせて下方修正してんの??私をどうしても上位にしたいって言うなら、こっそり加点してくれれば良いだけなのに??

「さすがクソゲー……やることが斜め上で予想外過ぎる…」

 元がクソゲーゆえに仕方がない。と、思考停止する以外に、この奇天烈な事態を説明する術がなかった。


「はあ……残念……」

 もはや赤点すれすれの3位には赤面するほかないが、そのせいで婚約破棄に至りそうにないのは無念の一言だった。思わずそんな本音がため息として零れ落ちる。すると、

「何が残念だったの?」

 と、隣から不思議そうに声を掛けられた。

 ああ。友人のエアリアル嬢かな??と、顔を見ることもなしに私は、

「うん。だって、これじゃ、婚約破棄して貰えなさそうだからさ…」

「………婚約破棄?」

 思わず気安く裏事情を返してしまっていた。


 実は私の無二の親友でもあるエアリアル嬢には、ちょっと前に婚約破棄したい本音を明かしていたのだ。

 私の将来の夢と希望が前世の記憶を取り戻す以前から、田舎でのおひとり様楽隠居生活と知っているのは彼女とメイドのミィナの2人だけだったから。


 なのでつい落胆のあまり、うっかりと、口を滑らせてしまっていた。


「婚約破棄って……どういうことだい?」

 隣に立っているのが、いつの間にかリュオディス殿下へ代わっていたことに、まるで気付かないまま。

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