第22話
騎士が小さな鳴き声に気付いた時、この仔は親の亡骸に縋りついていたらしい。死んだ母親にそうとは気付かず、ひたすらオッパイを強請っていたという。
「それで騎士が保護して連れ帰ってきたのを、僕が引き取ったんだ」
私が欲しがっていたから。
そう言いながら振り返ったリュオディス殿下は、隣に座る私の様子を見てギョッとした。そりゃそうだろう。なにせ令嬢にあるまじき号泣こいてたし。ってか、泣くでしょ!!そんな話聞いたら!!もう!!
「大丈夫?アウラ…」
「ごめんなさい…つい、感情移入してしまって…」
しばらくしてようやく涙が引っ込んだ私を、王子がまだ心配そうな顔で見詰めてくる。
なんていうか、ホント良い人だな。ゲームの中では他の女にうつつを抜かして己の婚約者を守らないような『クソ男』だったのに。他の攻略対象者はゲーム通り(最初に出てきたレイドール君しか知らんけど)だったのに、なんで彼だけ違ってるんだろう。謎だ。
「それで…この仔のことはアウラに任せて大丈夫?」
「ええ!!もちろん!!」
腕の中…というか、掌の上ですやぁって寝てるケット・シーの幼体。こんな愛らしい姿見せられて、いいえ、いりません!!なんて言える人間いたら、お目にかかってみたいわ!!
「この仔のことは、お任せください!!私っっ、立派な母になって見せますわ!!」
と誇らしげに胸を張って宣言したら、
「えっ……王太子妃じゃなくて…??」
と、殿下はちょっと困った顔をして呟いた。
うん。ごめん。気持ちは解るが聞こえないふりで、私はあえて否定はしなかった。
だって、私の目標はあくまで年金楽隠居だからね!!??これは譲れません!!
「でも、あの……ちょっと気になるんですけど…」
いくら弱いとは言っても魔物の幼体を、人間の生活圏に連れてきても大丈夫なのかしら??と、気になってリュオディス殿下に質問してみると、
「その点は大丈夫!!父上…国王陛下にも許可を頂いたし、なにより、ケット・シーは幼体の時から面倒を見ていると、人間のことを親と思う性質らしいからね」
とのことだった。へーえ。刷り込みが出来るなんて、まるで鳥の雛みたいね。でも、いったい誰がそんなこと確認したのかしら??過去に魔物の子供を育てた人が居たとか??まさかね??
なんて疑問に感じていたら屋敷へ着いたので、私は殿下のエスコートで馬車から降りた。
「ああ…そうそう、これをアウラに渡しておくよ」
去り際、リュオディス殿下はそう言って、私に一冊の分厚い本を渡してくれたのだが……
「何年か前にケット・シーを研究した学者の研究日誌だよ。何かの参考になる神知れないから」
「そんな本があったのですね……」
有難く受け取った本のタイトルを目にして、私は思わず目が点になってしまった。いや、だってこれ、どう見ても研究書なんて高尚なもんじゃないもの。
豪勢な革製の表紙に『タマちゃん飼育日記』って…ただの愛猫飼育日記だよね!?これ!!
まあ、何かしら参考になるかも知れないから、預かっておくけども…。っていうか、ついさっきの疑問に回答来たわ。この世界にも私の他に居たのね??魔物でも良いから猫飼いたいって言う変わり者!!誰だか知らんけど親近感湧くわぁ。それはさておき…
「ここが今日から君のお家よ!!あと、君の名前も考えないとね!!」
「みぃ……」
掌の中の小さなモフモフに話しかけると、よろしくねとばかりに可愛い声で返事をくれた。ふぐうう!なにこれ!!!可愛さで悶え死にそう!!!!
「部屋へ戻るわ!あっ、ミィナを私の部屋へ呼んで頂戴!」
「はい。お嬢様」
玄関へ入ったところで執事に鞄を預け、さっそく仔猫(魔物)を連れて自分の部屋へと向かう。
これから始まる猫ちゃんライフを思うと、知らず知らずのうちにスキップしてしまう私だった。
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