第20話
「シーリズ先生…残念ですよ。優秀な方なのに…」
「わっ、私は…ッ、私は貴女のために…!!どうしてですかっ、リーナ!!」
「ひ………っ!?」
ヒロインにあっさり切り捨てられた憐れな攻略対象者、こと、シーリズ先生は、キャスリーナ嬢に取り縋うとした所を王子の護衛に拘束されてしまった。そのまま、引き摺られるようにして教室から連れ出されていく。
「グスタフ男爵令嬢……」
「怖かったですわ!!ありがとうございます、殿下!!」
王子が何か問い質そうと口を開いたら、キャスリーナ嬢は大袈裟な演技で泣き真似を始めた。さらにその勢いで王子に抱き着こうとしたが、素早く間に入った護衛の騎士から邪魔されてしまう。
ってか、凄いな!?一瞬で涙流せるって、もはや特殊能力の域では??などと感心してると、王子からは見えない位置で、コッソリと目薬をポケットに隠しているのが見えた。常備しとるんかい!!
「君は本当に先生からアウラを貶めろと指示されていたのか?」
「本当です!!信じて頂けないのですか…?」
護衛騎士のせいで王子の近くに寄れないの、忌々しくて仕方がないだろうに、顔は儚く可憐なヒロインのままだ。心で舌打ち、表面は可憐。この顔芸、さすがという他ない。
確かにこれはポンコツ男子がコロッと騙されても仕方がないのかも知れないね。
などと秘かに考察していたら、王子がまるで信じて無い顔付きでヒロインに言い放った。
「………では、今回はそう言うことにしておこう…」
…て、っえ??それって『次はない』ということでは??
「今後は気を付けてくれたまえ」
美形の顔で意味深な笑みを浮かべるリュオディス殿下。
そんな彼の様子を見ながら、私はハッキリ確信した。
ああ。そうか。つまり、すべてお見通しってことか。
私は王子の『口にしない言葉』の意味を考えて思わず感心した。
おそらく、今回は色々と目に余る教師を公然と排除できたから、キャスリーナ嬢の虚言や行動には目をつむる、ということだろう。シーリズ先生、あの調子だと、他にも何かやらかしてそうだものね。そうでないとしたら、今回の退場劇はあまりにも手際が良すぎるし。
うーん…案外、怖いとこあるんだな、この王子??
「リュオディス様…ありがとうございます!!やっぱりリュオディス様はお優しいのですね!!」
そんな言葉の裏もまるで読めてない様子で、キャスリーナ嬢は大き目をキラキラ潤ませていた。
なんというか、まるで彼女の周りだけ少女漫画のよう……つまり、薔薇とか点描とか色々飛んでそうな感じだ。ただし、王子の周りでは吹雪が吹いてそうだけど。
あえて空気を読まないのか、それとも読む気がないのかは解らないけども。まあ、図太い神経を持ち合わせてないと、ヒロインなんかやってられないのかもだね。
「アウラ…大変だったね」
「リュオディス殿下……」
その後、すり寄りたそうなヒロイン完全無視で、リュオディス殿下は私の前へやって来た。そして、よしよしと幼い子供にするように頭を撫でてくれたのだった。
優しくて暖かい手の感触に、キュッと胸が詰まる。
くうっ!!不覚にも泣きそうになったわ!!
本音で言うと、やっぱりちょっぴり辛かったからね。
とりあえず今回の断罪シーンは王子のお陰で回避できたけれど…よくよく考えたらちょっと勿体なかったのでは?と思った。
まあ、落書きごときでさすがに修道院送りは『無いだろう』と思うから、そう思ったりしたんだけど……でも、落書きなんて『淑女のすることじゃない』って理由で、婚約破棄くらいはいけたのではないだろうか??とも考えちゃったんだよね。
うーん…失敗したかな~
はぁ…とため息をついたら、王子から心配そうな顔で見詰められた。
ごめんね。貴方はとても優しくて良い人だけど、今のため息はそんな貴方と『別れ損なったわ、残念』ってため息なんだよ。と、心の中で密かに謝罪する。
助けてもらっておいてなんだけども、王子との婚約破棄は、私の楽隠居生活の第一歩だからね!!
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