第3話

「なんとかして婚約破棄してもらわなくちゃ…」

 前世の記憶を思い出したあの日から10日ほどが経過した。

 私ことアウローラ・リズ・オイレンブルク公爵令嬢は、楽して暮らせる隠居生活の実現のため、色々と頭を悩まして計画を立てた──のだが。


「やっぱり悪役令嬢として王子に嫌われるのが手っ取り早いわよね」


 前世で生きていた世界には、それこそ数えきれないほど多くの『悪役令嬢物』『転生物』のなどのゲームや漫画や小説が溢れかえっていた。あいにく『乙女ゲーム』というジャンルについては、1度もやったことがないのでぼんやりとしか知らないけども。


 どちらかと言うと少年漫画が好きだった私だが、それでもその手のジャンルの漫画や小説を少しくらいは履修している。しかし、残念ながら私の住むこの世界や登場人物は、見たり読んだりしたどの物語とも合致しなかった。

「話の先を知ってれば容易いミッションなんだけど……」

 でもそれって攻略本を見ながらゲームをクリアするみたいで、それはそれでつまらないしヘタレなりにゲーマーであった前世の自分が『なんか許せない』と握り拳で語っていたので、難易度ハードモードのままプレイ開始に至ったのであるが。

「にしても、まずは基本情報をきっちり把握しておくのが良いわよね」

 そう考えた私はメイドのリィナに用意させた紙とペンとで、この国や周辺の人物について箇条書きにしてみることにした。


 まずは私の住む国とこの世界について。

 前にも少し紹介したけど、世界の名は『ファイローラナ』──いくつもの国が点在するこの大陸と同じ名前で、同時に世界を造ったとされる光の女神の名前でもある。


 それは遠い遠い昔、心を持たぬ魔族の手から世界を守り、心ある人の世界を創造した1柱の女神の物語。


 彼女は世界を創造したあと#現人神__あらひとがみ__#となり、人の男と結ばれて子をなした。

 その子が現在も続く王国の始祖なのだとか。


 ──という神話が実はあちこちの王国で語り継がれているので、『うちの国が始祖だ』『いいやうちの国こそ神の直系子孫だ』という起源争いが絶えないようだ。


 どっかで聞いたことある話だわね…これ。


 まあ、そういう口だけの争いはあるものの、今のところ世界は比較的平穏で、国同士も表面的には仲良くやっているらしい。まあ、内心どんな悪辣なことを考えているかは解らないけれども。


 そんな訳で各国には女神の力を引き継ぐ『#神女__しんにょ__#』の伝説と言うか、伝統が残されていた。


 国を豊かにし、人を魔から守る現人『神女』


 真贋はともかくとして、各国では定期的に『神女』が現われてた。

 国別の詳細までは知らないけど、中には国民の総選挙で決める国もあるらしい。


 どっかの集団アイドルだろうか??

 なんだかイマイチありがたみのない神女だけど、国がそれで良いって思ってるなら良いんだろう。たぶん。

 

 そして同じく私の住むこの国『スティクレール』にも、神女の伝説と伝統があった。


 王国の首都の南に透明度の素晴らしい、大きくて美しい『名もなき』湖があるのだけれど、神女はその畔の神殿へ数年おきに降臨するのだという。

「……数年置き?」

 さらっと流しかけたが、よく考えると、数年置きってえらく高頻度じゃない??

いや、どうでも良いんだけどさ。

「う~ん……しかし……」

 他国の『国民総選挙で決まる神女』よりはマシかもな伝統だが、これもまあ、真偽のほどは定かでないし怪しいものである。


 何故なら、歴代『神女』が、1人の例外もなく貴族の娘から現れているからだ。


 神殿に寄付した額で決まってるんじゃなかろうか??などと、私なんかは疑いの目で見ちゃってるけども、この国の人間で神女を疑う者は居ないということだった。マジですか。そうですか。

 まあ、女神が王と結ばれた…という伝説が真実であるなら、その血に連なる(可能性もある)者に女神の力が顕現するのは、単純に考えたら『そうなのかな??』と思えなくもないけれども。


 とりあえず、今現在、神女の席は空座のままだ。


 『悪役令嬢物』のパターンから考えると、今後、現れるかも知れないその『神女』こそが、私の婚約者にとっての『ヒロイン』となる可能性が高い。

 これが乙女ゲームなら『攻略対象』が複数人いて、どの男を選ぶかによって展開も変わって来るだろうが、あいにく、この世界がゲームなのか小説や漫画のどれかなのか、もしくは、そのどれでもない異世界なのかさっぱりわからない状況だ。


 つまり、キーとなるべく存在が出て来ない限り、どうにも対処のしようがない。


「まずは神女待ちかな……」

 ちょっと長くなったが、国と世界と私自身の現況はこんな感じだ。

『あ~あ……パソコンがあれば楽なのになー』

 ふうとため息をひとつ吐いて、書き疲れた私は一旦ペンを置いた。 

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