バーチャル美少女探偵と1万人のワトソン
塗田一帆
プロローグ
第0話 はじまりの動画
おや。君、見ているね。
このインターネットという大海原の中から、たった一本の動画を見つけ出すなんて、本当に大したものだよ。
ところで、君とは「はじめまして」かな? それとも、「お久しぶり」? あるいは、そのどちらでもないのかもしれないね。
うん、それでも構わないよ。なんせここはインターネットであり、バーチャル空間なんだから。そういうことも往々にしてあるだろう。
それじゃ改めて。
ようこそ、ボクの事務所へ。歓迎するよ。
ボクは所長のほむる――是非、親しみを込めて「ほむるちゃん」と呼んでおくれ。
君は随分と賢そうな人相をしているね。ボクにとっては大変好都合だ。丁度そういう人材を求めていたところだからね。
そう。君がボクに用があるわけじゃなくて、ボクが君に用があるんだよ。
奇妙だって? そうでもないさ。
君には今日から、ボクの「ワトソン」になってもらおうと思っている。
悪くない話だろう? こんな美少女の右腕になれるなんて、そんなの願ってもいないはずだ。
手続きは至極簡単だから、安心してくれたまえ。画面のこの辺りにある〈チャンネル登録〉というボタンを押すだけでいいんだ。もし全画面で見ているのなら一旦解除して、ボタンを探してくれ。大丈夫、君ならすぐに見つけられるはずだよ。
うん、ありがとう。
いやぁ、話が早くて助かるよ。
……いや、実を言うとね、いまの時点では君が本当にワトソンになってくれたかどうか、ボクにはわからないんだけれど。
……まあ、疑ったところで仕方がないから、このまま話を進めることにするよ。つまり、君のことを信じているってことさ。
見ての通り、ボクは探偵事務所の所長だ。
けれど、見ての通らず、問題解決能力がこれっぽっちも無い。
ボクは優れた頭脳なんて持ち合わせていないんだよ。
だって、ただのバーチャル美少女なんだから。
そこで、君の出番というわけだ。
いや、正確に言うと、君たちのかな。
ボクは君が何人いるのか知らない。きっと最初は一人なんだろうけど、その次は十人、百人と増えていくはずだ。もしかしたら減ることだってあるかもしれない。その数は常に変動し続けることになる。そして、その数字がワトソン――ボクの助手の人数だ。
話が見えてきたかい?
そう。つまり君たちがボクの代わりに依頼人の相談を解決するんだ。みんなで知恵を合わせてね。
「三人寄れば文殊の知恵」という言葉があるけれど、それじゃあ、百人寄ればどんな知恵になるだろう? はたまた、千人だったら? きっとそれは、名探偵の
インターネットの集合知――それがボクだけのワトソンとして機能するんだ。
君に何のメリットがあるのか、だって?
うーん、ボクとしては、こんな美少女の助手になれるのだから、それだけでも儲けものだと思うんだけれど、そういうわけにもいかないか……うん、そうだ。こうしよう。
依頼人の相談に対して最も価値のある回答――つまり、”正解”を提示したワトソンには、ボクから何か特別なご褒美をあげることにしよう。
具体的には、そうだな……”正解”を三回出したワトソンには、この探偵事務所のモデレーター権限――通称「スパナ」を進呈しようと思う。ほら、コメントを打ったときに名前の横に表示されるアレのことだ。
どうだい? まるで恋人から合鍵を受け取るようで、ロマンチックだろう?
これから君たちは”正解”を目指して頭を――時には身体をも捻ってもらうわけだけれど、回答を評価するにあたっての基準は三つある。是非覚えておいておくれ。
一つ、依頼人に貢献すること。
一つ、エンタメとして撮れ高があること。
一つ、そこに愛があること。
これらを意識して、君だけの回答を目指してほしい。
もし他のワトソンに負けているようだったら、”正解”は貰えないからね。
ワトソンへの説明はこれくらいでいいかな……。
うん、後は実際に依頼をこなしながら覚えていってもらうことにしようか。
大丈夫、心配いらないよ。君ならきっと、なんとかなる。
……まぁ、実のところ何の保証も無いんだけれどね。君がどんな人なのか、まだ知らないし。
でも言い換えれば、これから知っていけるってことでもある。
そういう関係も、悪くないだろう?
そして最後に、ボクに依頼したいことがある人へ。
もしも、実際に起きた殺人事件やなんかに関する捜査を依頼したいのなら、ボクではなくリアル世界の警察署にでも行っておくれ。だって、バーチャル美少女探偵にそんな血なまぐさい仕事は似合わないだろう?
つまり、このチャンネルでは”そういうジャンル”は扱わないということだよ。
それと、ワトソンが少ない内は集合知が小さいわけだから、回答のクオリティは保証できない。
でも、事務所が人気になってきたら、全ての依頼を受けるのが困難になってくる。
その辺り、ご了承願いたい。
同意の上で、概要欄の申込みフォームまで連絡しておくれ。
さて、ボクからの説明はこれでおしまい。
これからこの事務所がどんな風に育っていくのか、実に楽しみだよ。
……そうだ、一つ大事なことを伝え忘れていた。
高評価よろしく。それでは。
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