第86話 極刑


 その後、約2週間、軍部内は慌ただしかった。俺としてはその前の2週間と比べると心地のいい慌たださであった。


 慌ただしいといっても、俺は見たり聞いたりするだけだ。軟禁から拘禁へと変わり、何もない部屋で座っているだけだ。軍部とクリダモスがもめにもめたらしい。「あのパーティーは一体なんなのだ」とか「あの男はどこのバカだ」など様々な口論が繰り広げられていたという。クリダモスはこの失態で称号まで剥奪される寸前だったらしい。

 クリダモストップのリューカを含め全員が降格させられたとのことだ。これはあとからリューカ本人聞いた話だ。


 だが、俺には関係のない話だ。命を助けてもらった恩はあるが、あんなチンピラに言いくるめられて俺を信じてくれなかったことはショックだったし。……まあ、色々と俺も悪い所があるから口には出さないが。


『なになに? ”なにが口には出さない”ですか? ただの失態の当て擦りじゃないですか。で、これからどうするんです? もしマオゥがパーティーに本当に入ってきて、万が一暴れたりしたら、どう責任を取るつもりなんです? マスターの力で彼を止められるとでも思っているんですか?』


 ――彼は暴れることはない。


『なぜ、そう思うんですか? 会って間もないというのに……』


 ――俺は彼を信じているからだよ。


『…………はぁ~〜〜』


 長い溜息が、頭の中でうっとうしく余韻を残す。


 ――うるせぇ! もういいじゃないか! もしかしたらもう会う事もないかもしれないし。


 ……なぜ、あの時、軍部中枢が俺の意見を許可したのか不可解でならない。あの後、軍幹部は会議を開き、マオゥがパーティーに加わる事を許可したのだ……。「モンスター達が殺されずに保護されるか、生きて確認しなければならない」と俺が言ってしまったから、マオゥ処刑後、モンスター駆除の作戦がしづらくなったようだ。


 彼の強さを表現すると、1つの街を数秒で壊滅出来るらしい。大隊程度の守備隊がいたとしてもだ。どんなバケモンだよと最初は思ったが、それでも過小評価だという。


 そんなバケモノに対して、俺みたいなちっぽけなパーティーのちっぽけな人間が加入話をしただけで、本当に仲間にして一緒に冒険するなんてことになるはずがない! 絶対にない……はず。俺から誘ったんだけど……。


 マオゥが本当にパーティーに加入するかは、まあいい……まず俺がパーティーに戻れるかどうかだ。これだけ重大な命令違反を行ったのだから。ここの司令部で簡易的な軍法会議が開かれる可能性があるらしい。リューカに「最悪の事態も想定しておけ」と言われ、「俺はハンターパーティーだから、軍の命令など知らない」と言ったところ、現在は軍の客人ではなく軍に雇われている状態らしい。


 ……軍と共に戦うと誓った直後だった事を思い出した時は、背筋を冷やしたものだ。なぜ、俺は軍人じゃないから処罰されないと、自信満々で命令違反をしたのだろうかと後悔してもしきれない。極刑レベルの命令違反だ。


 だが、俺が命を懸けてまでした行いに対して、1つ凄いことが起こった。これは素直に評価されてもいいと思う。なんとそのマオゥの配下であったモンスターたちが続々と人たちに懐柔されているという事だった。


 これは過去に例を見ない事で、今まで意識など無く、ただ本能で人を襲っていたモンスターがまるで意思を持っているかのように、マオゥの命令である”人のいう事を聞け”を素直に遂行している。これが一週間ほど前の連絡である。それから随時映像などで連絡が入るがその映像も驚愕だ。熊の牙の数が3倍なったような凶悪面のモンスターが、人のために道路を作ったり木を切り倒したりしているではないか。それも一匹のモンスターだけでなくすべてだ。専門家の話では同時に複数の奇跡が起こったとしか考えられないという事だった。


 それだけが、俺の行動で報われたことだと思った。本来なら人のために働くどころか、全て駆除されていたモンスターたちだったから。


 ……突然、通信が入る。


「すみやかに部屋の外に出て案内の通りに進め」


 ドアがアンロックされる。とうとう裁きの下る時が来たらしい。パーティーのみんなは、最近会っても口数が少なくなった。最初の頃はまだ元気に俺に文句を言っていた仲間たちだったが、俺のおこなった行動を考えると処刑がどうしても頭に浮かんだ。マフィアのクソ野郎2人は何を考えているのか分からないが賠償金さえ入ればもういいのだろう、何も話しかけてくることは無かった。ケイラは自分のせいだと泣いてくれた。テワオルデも悔しさを出した表情が今でも目に浮かぶ。マリは「処刑される前に本気で一発だけ殴らせてくれ」と涙ぐむ目で言ってきたが……断った。処刑される前に死ぬのは嫌だったからだ。ミラクルは……次に憑く相手を探しているようだ。……最低のメンバーだと思ったがまあ、……楽しかった。


 ……支持の通り廊下を歩く……その最中に涙をぬぐう。死というのはこのように突然来るときもあるのだろう。だが、裁判はあるはずだ。みんなは証言台に立ち俺の処刑を反対してくれるのだろうか。


 ……いや、そんな期待はもうやめよう。すべてをそのまま受け止めるんだ。それが強さだ。


 ドアが開き光が差し込む。そこは……。

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