第85話 アスファルトの花

 

 俺は涙を流し土下座をするマオゥに手を差し伸べていた。土下座をして頭を地につけているマオゥに対し、片膝をつけ高さを合わせる。

 

 マオゥと目が合う……。


 彼は俺が誰なのかと考えているようだった。だが2人の友情にそんな無粋な勘繰りは必要ないだろう。俺は見つめ返すだけだった。マオゥは涙でぐちゃぐちゃなその顔でこちらを見つめてくる。


 なんてかわいそうな魔物なのだろうか。まるでアスファルトの片隅に咲いた、ほこりにまみれの花の様だ。それが今まさに潰されたのだ。凶悪な顔だが、その澄んだ瞳が心の中の美しさを物語っている……。


 2人の間に会話はいらない……。先ほどから周りがより騒々しくなった。Brynkでの通信が絶え間なく起こっていたので切るようミラクルに言う。ミラクルは俺の行動に衝撃を受けているのか、ただただいう事を聞いていた。


 ”死刑になる……”今更ミラクルの言った言葉を思い出した。確かに、俺の行動はこの10万の軍隊への裏切りだ。極刑にされても仕方がないだろう。だが、今の俺には死はそれほど怖いものとは感じなかった。この薄汚れた未来の世界に取り残され、踏みつぶされたアスファルト上の花なのだから。


 マオゥと見つめ合って30秒ほど経っただろうか。説明はいらない、もちろん自己紹介などいらない。俺は一言、「俺の仲間に入らないか? そうすればあんたの願いは叶う」とだけ言った。


 本部に連絡をしていた交渉人数名が驚いた表情でこちらに向かい走ってくる。彼らは、俺の予想を超えた行動に焦っているようだった。


 マオゥも馬鹿ではない、死んだ後の事は知ることが出来ないのを知っている。生きて配下の超獣モンスターが幸せに暮らすところを見届けなければ意味がないと考えているはずだ。マオゥは迷っている暇は無かった。交渉人が俺の肩をつかみ強引にこの場から引き離そうとする寸前、彼は土下座を止め片膝を付き口を開いた。


「分かった。私の主人マイマスターよ」

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