第73話 巨大移動兵機


 大きな土煙のあと、1人の将校らしき人が下りて来た。

 

「私は現場主義でね。あなたの顔が見たかったの。遭難していたパーティーのリーダー、ウエノ君ね」


 黄金と緑の軍服を着た、明るく短い茶髪の女性が少し早めの口調で話しかけてくる。


「はい! 私は……」

「自己紹介はいいわ。早く入って」


 と言い、言葉を遮り巨大移動兵機に入ることを促す。

 2人で並んで歩く。兵機の中だとは想像できないほど、内部は広かった。ただ、豪奢な造りではなく、必要な装飾が最低限あるだけだった。


「メイに聞いたの。この辺にいるんじゃないかなって……」

「……メイさん? あ、七聖騎士の1人と言ってた方ですか」

「そう。いつもフードをかぶっている明るい女性よ。ああ見えても、過去に類を見ないほどの実力者なんだから」

「そうなんですか……確かに未だに俺の持っている剣は光っている」

「2年は効果が持つわ」

「2年! そんなに持続するんですか……」


 この剣を2年間もどう扱おうかと考えているときに、女性士官は微笑みながら言った。


「冗談よ。そんなことあるはずないじゃない。フフ……」

「え、あ、そうなんですか」


 正直魔法というのも分からないのだから、余計な冗談は言って欲しくない。そんなことあるはずないと言われてもこちらは、そもそも魔法自体の存在がよく分かっていないのだから。


「……! そういえば先ほどパーティーと言いましたよね。もしかして他のメンバーもいるんですか!」

「ちょっと、いきなり大きな声出さないで。びっくりするじゃない」

「すみません……」

「黙ってついてきなさい」


 空間エレベーターを昇り、いくつか部屋があった。その一番奥の部屋のドアが開く。


 12畳ほどのホールがあり、そこに負傷していたはずのみんながくつろいでいた。


「良かった……みんな無事だったんだ!」速足でみんなの下に行く。


 マリが微笑んでいる。感情が溢れ、もう少しで泣きそうになる。自然と笑みがこぼれる。マリを、元気なみんなを抱きしめたかった。……いや、もうここは抱きしめよう。一旦は全滅したと思った。自分も瀕死だった。だがこうして再開できたのだ。


 マリを抱きしめようとしたとき。マリは右手をしっかりと握りしめ、俺の右ほほにストレートを入れた。


「だからいったじゃねぇか! てめぇ!」壁まで飛び、華麗にバウンドする。


 ヘルドもものすごい形相でこっちに向かう。


「ま……待って。待ってくれ」


 吹き飛ばされた体制のまま、落ち着けとジェスチャーする。しかし、ヘルドの怒りは凄まじく罵詈雑言を叫び、腹を蹴る。ようやく頭に包帯を巻いたテワオルデが止めてくれた。だが、少し止めるのが遅かったのは、やっぱりテワオルデさんも怒っているんですね……。


 ミラクルも呆れている『当たり前ですよ、マスター。光の遺跡クリダモスの到着が少しでも遅かったら私たちは全滅していました。すべてはマスターの責任です……それに』


 ――それに?


 周りを見渡すと、全員が大怪我をしている。よく見るとマリの右足はメタル色に光っていた。応急の義足である。こんな重傷を……。全員死なないまでも……。死? その時ハッと気が付く。周りを見渡してもシンがいない。


「シンは? どうなったんですか!?」


「ちっ……」


 舌打ちをするヘルド。士官の女性がなだめながら優しく説明をしてくれた。


「大丈夫よ。今は緊急カプセルで寝ていますが、必ず助かるはずだから」

「助かるはず……」この言葉がどのくらい重いのか俺でも分かった。


 その時、一人の若い軍人が慌てて部屋に入ってくる。


「大変です。リューカ指令! トロルの群れに苦戦が続いています! 敗退は時間の問題とのことです」

「トロルには、ゼノスが向っているはず……まさか失態したのか!」


 突然、場の雰囲気が変わる。案内をしてくれた優しい士官はリューカ指令と呼ばれいる。ここクリダモスの代表だと推測した。


「分かった。今すぐ向かう、君たちも応戦してくれるか? このままでは我々も全滅だ」

「了解しました!」と、大きな声で返事をした。


 影で「また、安請け負いしやがって」とヘルドに尻を蹴られたが、「今は断ることなんて出来ないだろ。俺たちみんなが助かった後で、いくらでも尻を蹴らせてやる」と言って納得させた。

「その時は、猿よりも真っ赤に腫れ上がらせてやるからな」

 ……猿のケツは別に腫れているわけではないと思うぞ。

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