第70話 パーティー全滅


 剣を握りしめる。無駄な抵抗と知りつつも、目の前の敵一体だけでも倒す! どうせ死ぬなら、最後まで足掻いてやる。


 剣をゾンビに振り下ろす。ザクっと刺さり、ゾンビの動きが止まる。だが、再び動き出す。今度はすばやく剣を抜き、首を斬り落とす。剣術を訓練した成果もあるが、あまりに簡単だった。


 ……しかし、首を斬り落としたはずのゾンビは倒れない。それどころか、間髪入れずに持っている剣で襲ってきた。


 動きは遅いが、数が多すぎる。その上、いくら斬っても死なない。BrynkのAIが警報を鳴らし続ける中、予測軌道だけはしっかりと出してくれる。


 警報が鳴っているのは死に対する予測なのだろう。そんなことは分かっている。だが、それを回避する方法は出してくれない。無いのだから仕方がないか……。


 心臓の鼓動が激しくなる。アドレナリンが全開なのは、数値を見なくても分かる。視界が狭くなり、感覚が鋭くなる。

 

 剣を振り続けたが、不意に肩を斬られた……。次第にゾンビの集団にじりじりと追い詰められる。


 その上、周りには火の手が上がっていた。燃えながらも歩いてくるゾンビすらいる。


 剣をかわして反撃をするが、反撃しても意味が無いので、かわすのに全力を注ぐ。足元にはシンが倒れている。


 3体のゾンビが同時に攻撃をしてくる! 予測軌道を見ながら剣で弾き返し、そして避ける。


 ……しかし、背中に熱い衝撃が走る。ゾンビが後ろにも回っていた。ゾンビの持った剣が、。それをぐっと力を込めて押し込まれている。後ろを見ると焦点の合ってないゾンビの顔が不気味にこちらを見ている。さらに、横にいたゾンビに肩を噛まれた。


 これって俺もゾンビになるのだろうか……。


 だが、利き手はまだ動く。無我夢中だった。横から振りかざしてきた剣をはじき、そいつの顔を真っ二つに斬ってやる。どす黒い血が流れ、顔半分が首からぶら下がる。それでもまた剣をあげて振り下ろしてくる。


 背中の剣をさらに深く押し込まれる。喉の奥から生暖かい液体が溢れてくる。たまらず吐き出す。血だ。だった。吐いても、吐いても喉の奥から溢れ出てくる。……意識が薄れる。


 足に力が入らず、膝をつく。そのふらついた瞬間に、偶然にも、俺の首に向かって切りつけた剣をかわす。刃が頭上を掠める。だが、この状態で一体どう反撃すればいいのだろうか。


 ゾンビに囲まれ、逃げる隙間はどこにもない……。


 逃げるどころか、立つ力も残っていない。


 眩暈がする……。


 視界が安定しない……。


 両ひざをついて何とか倒れないように力を入れる。しかし……力が入らない。


 握っていた剣がいつの間にか地に転がっている。


 薄れる意識の中で……どうこの状況から逃げるか考える。


 上を見上げる。ぼやける視界に俺を囲んでいるゾンビの醜い顔が見える。俺目掛けていくつかの剣が振り下ろされる……。


 俺は死ぬのか……。


 …………。


 ……。


 その瞬間、俺を囲んでいた醜い


 ……。


 ゾンビが死んだ? まさか……死んだのは俺だろう。


 これは死後の世界? 理想? あまりの絶望に頭がおかしくなったようだ。


 ゾンビの手が、剣を握ったままドサッと落ちる。


 いくつもの光がまばたいたかと思うと、俺に被さるようにゾンビが倒れてくる。首のないゾンビ、……いや肩から下、脇から横に切り落とされている。自分の血と、どす黒いゾンビ血にまみれた俺の体は、押し倒されるように地に伏せた。口の中に混ざり合った血が入る。不味い。……不快な味が口に広がる……不快な味? 俺は……生きているのか……。


 視界が真っ暗になった。

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