第65話 シン

「お、今日は頼りにしているからな」とシンは待機場につくなり話しかけてきた。


 朝の即応班当番はシンとヘルドであった。彼女の言葉の意味するところはなんとなく予想がつく。

 

「何だよ、いきなり……」


「昨日の大魔法使うんだろ?」

「昨夜は笑いすぎて寝不足にされたからな……大魔法使いの灼熱の炎を頼りにしているからな……プッ……」

「だっははは……」


 2人はそう話しながら大笑いしている。俺は顔を赤くして無視をする。

 マジでうるせいなこいつら……それに灼熱の炎じゃなくて地獄の業火だ。と考えていたら頭の中で笑い声が聞こえる。大魔法使いの先生が起きたみたいだ……。


『プフッ……ハハハ! だから私の言った通りの名前にしておけば良かったのに、あの魔法は周りをかすかな火で照らすためのものですよ』


 ――お前のプリプリ何とかなんてもっとひどいだろ! いつもおかしな名前ばかりつけようとして……と、目覚めから大きな声で笑っているご機嫌なAIに、照れ隠しも込めていつもより少し強めに言った。


『な! なんて事言うんですかマスター、今の発言を撤回してください!』とミラクルは機嫌を損ねる。


 ――分かったよ、なら俺の付けた名前も笑うなよ。


 お互い納得できないまま少し口喧嘩を続けていると、低級のモンスターが出現する。相変わらずの晴天の下、モンスターを狩りながら一行は順調に進んでいく……。


 

 *************


 

 翌日、俺とシンは同じ待機場にいた。もう1人の当番がギルガメキラムだったが「大きな魔法を使うじゃて、1人の方が集中できてな……」と、やんわりと1人で待機させてほしいと頼んできた。


 まあ、俺としては問題ない。シンも「お前の横か……」などと一言二言いって納得していた。


 待機場は狭く、2人でいると肩と肩がぶつかる。シンは全く気にしないそぶりでマシンガンを構える。そしてもう一方の待機場に座るギルガメキラムは微弱な魔法を張り、常に攻撃出来るよう準備していた。


 シンと2人で座っていると、間が持てなくなるというか居心地が悪い。いつもは4人の仲間のうちの誰かといるので、こう2人っきりになることが無いし、ワンツーマンで話したこともほとんどなかった。……居心地の悪い空気を変えようと、冷たくあしらわれることを覚悟して話しかけてみる。

 

「おまえ達、4人ってさ、どこで知り合ったんだ?」


 …………。


 うん、やっぱりやめておいた方が良かったか。シンの方を向くと、彼女の整った黒肌の顔と瞳をまっすぐに進行方向に向けて、まるで俺の話が聞こえていないかのように無視をした。


 余計気まずくなってしまったなと思っていると、シンが話し始めた。


「覚えてないな……」とポツリと声を出す。


「そ……そうか」と、聞いた俺も特に興味がないので、それ以上何も言わなかった。意外にも、少し間をおいてシンが続けた。


「うちはもともと、ここから遥か遠い所にからやってきたんだ。訳も分からずにでっけぇ船に乗せられて……」

「そうなのか……。いろいろ苦労しているんだな」

「まあな。……この惑星についてからは夢中でモンスターを狩った。だけどどうしようもないメンバーでな……、何度も裏切られた。まあ、裏切った仲間たちは全員死んだけどな」

「お……おい、それってもしかして……」


 俺が真剣な顔をして聞くとシンは笑いながら言った。


「勝手に人殺しにするなよ。はは……まあ、手にかけたいと思った事もあるけどな……うちが手を出すより先に、モンスターにやられちまった」とシンは笑いながら言った。

「そうか、いろいろとあるんだな。他の3人もそんな感じなのか? それで集まったわけか?」

「最初に会ったのはパラスパラスだった。ヤツは6割が獣の獣人だから人としての権利を持たずして生まれてきた。最初は悲惨な生活をしていた。結局、うちらはハンターキラーとして闇商売をする事しかできなかった……」

「そんな過去があったんだな」

「戦争真っ只中のこの世界で、捨てられた人に手を差し伸べる人なんていない。いても……お前みたいに変わった人間くらいだな」と言って、また白い歯を見せる。


 俺がシンたちを救った? 何のことだろうか……、もしかして彼女たちをパーティーに入れて共に戦っていることだろうか? 過ちで仲間にしてしまったのだが、そう言われるとなんとなくいいことをしたような気がしてくる。


『マスター、懐柔されてはいけませんよ……』とミラクルが頭の中で話しかけてきた。


 ――お前だって彼女たちを処分するときに、それを必死で止めたじゃないか。


『必死になんて止めてません!――』


 魔人と謎のAIミラクルか……。なぜあのときにミラクルはハンターキラーだった彼女らを処分するのを嫌がったのだろうか。マリも何かを思い詰めながら戦っているようだった。


「そういえばお前たちってマリの事を知っているのか?」

「知らないが、どうしてだ?」

「俺の気のせいならいいんだけど……最初に会っているときに違和感のようなものを感じた。記憶が無いって言っていたが、何か残っている記憶の断片とかあるのかなと」

「……うちら4人が最初に顔を合わせたときは、なんとなく懐かしさと感じた。言われてみれば、お前らを襲ったときも、マリには何か感じるものがあったな……だけど、それはおまえにも……いや、やめておこう」

「俺に?」

「既視感のようなものを感じただけだ」

「どういうことだ? 俺にも……?」

「さあな……なぜだろうな。ただ、最近よくそういうのを感じるから、ただ脳がバグってしまったのかもな」


 そう言ってシンは笑ったが、俺にはその言葉が心に残った……。


 それから、クラスCのモンスターが3体現れたが、遠距離からの攻撃だけで簡単に倒すことが出来た。ギルガメキラムの魔法の威力も強く、シンと俺の特殊魔弾での飽和攻撃も効果的だった。弾のストックもまだたくさん残っている。


 シンの交代時間まで、俺たちは結局話し続けた。時折、シンの美しい横顔と大きな胸に心が動かされたが、表情には出さないよう注意した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


褐色肌の美しい魅力的な胸をしたシンのイメージです。2枚用意しました。いいねをよろしくお願いします!


シンのイメージ絵(森の中で......)

https://kakuyomu.jp/users/createrT/news/16817330667453775845


シンのイメージ絵2(マシンガンを持つシン)

https://kakuyomu.jp/users/createrT/news/16817330667453809591


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る