第64話 魔法
今夜も大部屋ではハンターキラーの4人とマリが
いつも思うのだが、シンとヒメカダイラスは待機当番のはずだ。緊急時のためなのでほとんど出番はないが。まあ……今回は見逃すか、次に機会があればしっかり言っておかないと……。
マリのぬいぐるみに足を引っ掛けないように、いつもの物置に入る。
床に座り、ようやくミラクルに魔法を教えてもらう時が来た。散々悪口を言われ続けたので、やる気が皆無だが……、そんなことも言ってられない。
そういえばリラリースがこの惑星に向かう途中で魔法を少し見せてくれたな……。感慨深く思い出す。
『では、教えますよ! えっへん!』
――あ……はい……。どうぞ。
『え? なんて?』とミラクルは聞き返してくる。
――え? えーと……どうぞ?
『言い方がなってないんじゃないですか? マスター?』
またか……イラっとするが仕方がない。
――教えてください大魔法使いのミラクル・スターライト様。
『仕方がないですね。教えてあげましょう。マスターのような素人相手には説明するだけで、疲れそうですが……』
――もうそのくだりはいいですから……。
……は!? まさかまた長くなるのか?! それはまずい、とにかくミラクルを称賛して、自分を卑下しなければ……。
――ミラクル・スターライト様は……凄すぎて! 眩しすぎる大魔法使い様です! 俺は生まれて来た時からの
エンドレスを避けるために、思いつく事を全て言った。
『……能無しなんてマスター。そこまで自分を低く見ているなんて、哀れで涙が出てきそうです。自覚はあったんですね。では……教えてあげましょう』
――クソ……これでくだらない教えなら2度と頭は下げないぞ……。
『何か言いました?』
――い……いえ、何も……よろしくお願いします。
『それでは基本から始めます』
――はい。
良かった。始まった……。
『まず魔法を使うためにはゾーンに入らなければならないです』
――ゾーン?
『まあ、言ってみればアスリートや格闘家が試合前に集中するようなものですね』
――そうなのか。どうすればいい?
『目を瞑り肩の力を抜いて、臍の下に力を入れます』
――分かった。やってみる。
『……違います、少しお腹に力を入れすぎです。臍からお尻の付近に自然と力を入れる感じです』
――難しいな、こうかな。
『あと、頭で物事を考えない』
………………。
『呼吸はゆっくりと、あと本当に寝てしまうので目はほんの少し開けてください』
………………。
『そうその調子です。少しずつ入ってきてますね』
15分ほど続けた。目を瞑り真っ暗闇の中なのに、なぜか周りに光が流れてくるように感じる。空耳なのかミラクルの歌声がかすかに聞こえる気がした。リラックスして今の状態が非常に気持ちいい。疲れが溜まっていたはずなのに疲労感が無くなっていく。
『いいですよ、なかなか上達が早いですね……能無しの割にはいい線いってます……ププ』
……危うく集中が途切れるところだった。……また仕切り直して集中する。
『そろそろ魔法が使えそうですね』
まどろんだ意識の中でミラクルの言葉が響く。不思議な感覚だ。今まであまり経験したことがない……、だが、遠い記憶の中かすかに残る感性の断片のようなものが脳を刺激する。
『初歩的な魔法から始めましょうか。火の魔法を想像してください』
頭の中でミラクルの言葉が反響する。催眠術とはこのような状態なのだろうか。火の魔法を想像する。辺り一面が噴火した山のように怒濤の如く火が蔓延し、溶岩が全てを焼き尽くす。真っ暗なはずの周りが火の光で眩しく目の奥を刺激する。地獄の業火のような凄惨で冷酷に全てを焼き尽くす火の魔法。
『とてもいいですよ、それでは手のひらを上にしてまっすぐに腕を伸ばしてください』
体が熱くなる。火炎の想像によるものなのか、このゾーンという状況に入ったからなのか。今なら神秘的ななんらかの現象が起こせる……そんな気がしてならない。これが魔法か……初めての魔法に高揚する。…………初めて。待てよ、最初に魔法や技を発動させた時に叫んだ名前がその名前になると以前言っていたな。ミラクルの言われるがままにしていると、また
『そして、その手のひらから火が出ることを想像しながら、次に私がいう
やっぱり名付けようとしているな。……手の上が光り、かすかなエネルギーが魔法陣を描くように激しく回る。頭の中に快楽が流れ、血がたぎり体が興奮状態となる。
そのタイミングでミラクルが叫ぶ。『今です! 叫んでください!!! プリプリブライトファイアー!!!』
やはり! そんな名前などつけさせるか!
「地獄の業火よ!!! 全てを焼き尽くせぇぇぇぇぇ!!!!!!」自分で考えた魔法名を全力で叫んだ。
手のひらが熱くなり眩い光を放つ。その上に小さな魔法陣が完成して、そこから……
…………何これ?
その火は、周りをぼんやりと照らしている。
『初歩的な火の魔法ですよ……』
……そうか。
……。
突如、物置のドアがガバッと開く。
ヘルドが寝ぼけながらも血相を変えて「おまえ! 何、そんなところで強力な魔法使ってんだよ!!!」と叫んだ。
おそらく、俺の叫び声と魔力の反応で飛び起きたのだろう。ヘルドだけではなく、4人が血相を変えてこちらを見てくる。
暗闇の中、手の上の微かなともしびに、俺の驚いた横顔が揺れる。4人は俺と目が合う。そして、その後に手のひらに浮かぶ魔法を見る……。
「おまえ、それがさっきの叫んでいた魔法か……?」
………………。
…………。
……。
「「「がはははは……!」」」4人が同時に笑い出す。床を叩いて笑うヘルド「バカだと思ってたけど、ここまでバカだとは……はははは……苦しい……」と言いながら笑い転げている。
「超だせぇ! ネーミングセンス最悪とは思ってたが、そんな魔法にそんなばかみてぇな名前つけるか? ……あはははは……。お、お前、頭おかしい」とシンも笑っている。
「全てを焼き尽くせぇぇぇ!! だってよ! だははは…………! 地獄の業火って中2かよ……」とヒメカダイラスは俺の声真似をして大声で笑った。パラスパラスに至っては呼吸困難になりそうなくらい転げ回って笑っている。
『げは! ……かはは! ははは……ぶふぁふぁふぁ…………』とミラクルも笑いすぎておかしな声が出ている。いや……お前は絶対笑うなよ……。
俺は笑い物にされているのを諌めることもできずに頭を下げてその場を耐えた。笑い転げている4人を映しながら手のひらのともしびが揺れる。そして次第に消えていった……。
1人マリが怪訝な顔をして「魔法?」と影でつぶやいた。
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