第58話 移動兵機《ノマドロボット》の内部


 ホールを出て空間エレベーターに乗った。2人が乗るにはぎりぎりの広さで、通常は1人で使うよう設定しているみたいだ。古びた兵機内に似合わずそこだけは未来的な印象を受ける。何らかの光に乗っているような感覚で上昇していく。


 2階の部屋を確認する。2部屋あり狭いほうから覗く。一段高くなっている床は、琉球畳のような寝心地のよさそうなフローリングで覆われている。


 ……しかし、睡眠カプセルは見当たらない。ホールに応急処置用カプセルが1つあった。全員が集まる場所でどうしても視界に入るので使いづらいが、重傷を負った時のための装置だからそんなことは言ってられない。もしかして個室にもカプセルがあるのだろうかと期待していたが残念ながらそうではなかった。


 もう一方の大きな部屋を開けようとした時……、魔法使いの爺さんと女性が「私たちはこの部屋を使う」と、先ほどの小さい部屋を指さした。


「あ、ああ」と曖昧に返事をする。3畳ほどの狭い部屋であり確かに2人で使うのが限界だろう。彼らは他のメンバーの異様さを気にしていると思う。さすがに魔人だとまで分かっていないだろうが、雰囲気を感じ取っているので同じ部屋は遠慮したいのだろう。


「こういうのは早いもん勝ちじゃ」と、爺さんはニヤッと笑う。そう言うと、他の部屋や操縦室コックピットを見ない内に、理由をつけて部屋の中に入ってしまった。


「戦闘のローテーションや役割が決まったら後で教えてくれ」とのこと。


 戦闘の会議にも出ないような発言だ。少し引っかかったが仕方がない。……部屋取りは早い者勝ちか、俺も早く決めなければ……と考えながら大きな部屋を開ける。


 部屋は6畳の広さがある。先ほどの部屋と同様、琉球畳風のフローリングが一段高い床に敷かれている。部屋の奥に小さな物置カーゴルームがある。


 間取りを思い出し……「ちょっと待ってくれ。早い者勝ちってあとこの部屋しかないぞ」と、声に出す。


「おい! ウエノ。まさか、ここにみんなで寝ろって言うんじゃないだろうな」

「たしかにそれは無いな。お前と一緒に寝たくなんかない」と金髪のリーダー、ヘルドが言う。

 

「俺もだよ! 俺だって安心して寝たい」

「マジでるるン坂、バッチでんだん!」

 

 パーティーを組んで数時間もたたずに喧嘩が始まる。先に部屋を取った2人のベテラン(?)冒険者も自分勝手な様子を見せるし、やる気のないルルフィアは喧嘩を横目で、畳に寝転んでBrynkを適当に操作して何かを観ている…………。


 挙句に、マリとこの4人は元ハンターキラーで魔人だ。同じ部屋で寝るなど考えられない。いつ寝首を襲われるか分かったものじゃない。


 ――ふと思ったのだが、こいつら4人は元ハンターキラーなのに、どうして案内所に平然と来ていたんだ……捕まらないのものなのか?


『それだけ、巧妙に悪行しごとをしていたわけです。簡単に顔や身元をさらされるハンターキラーはそもそも脅威ではありません。何百人ものハンターを陰で襲いながら、平然と案内所の受付をしていた人もいたらしいです』


 ――そうなのか、それは恐ろしい。俺たちが早く警備隊や保安所などに報告しておけばよかった。とにかく、この4人をどうにかしないといけない。仲間に入れたのは俺のせいだけど……。


 「後悔後にたたずですね」


 ――うるさい、正論を言うな。


 4人に向かって「おまえらは廊下で寝ろ」と言った。

 

「はぁ? どう考えてもその役割はお前だろ!」と、喧嘩はさらにエスカレートする。


「遊びに来たのではないですぞ!」と、テワオルデは叱責する。


「ここはあくまでも休憩仮眠室です。常にモンスターとの戦いを強いられる場面なので、しっかりとした睡眠をとれるとは限りません。基本は操縦席コックピットかホールでの戦闘待機になるでしょう。部屋の取り合いなどしている場合ではありません」と釘をさす。


 取っ組み合いになっていた俺と4人は少し反省する。


「くそ!」っといってシンは、俺の襟首を握っていた手を突き離した。


 ……気を取り直し、その部屋を出る。


 奥にトイレと転衣室があり、さらにその奥にシャワー室がある。


「お前ら少し、ニオうぞ」と元ハンターキラー4人に言う。


 外だと気にならなかったがこの狭い兵機の中だ。Brynkで臭気は抑制できるが、五感が鈍るため基本は正常にニオイがする。


「ちょうどシャワーもあるから入ってても良いぞ」


「失礼なやつだな」とほおを膨らませる。


「最近シャワーなんて浴びてなかったからな……」


「済んだらホールに戻っていてくれ、会議をする。あと確認する場所は操縦席コックピットだけだ。運転は俺たちが担当するから見る必要はないだろう?」


「ああ……まあ、運転する気なんてなかったからな」


「分かってるよ。それじゃあな」


 と、しばしの別れ。


 テワオルデ、マリと俺の3人で3階の操縦席コックピットに向かった。


 操縦席コックピットに着くなりさっそく、テワオルデが中央の椅子に腰掛け、Brynkをつなげる。


「操縦は私が担当します。この移動兵機は年数が経っていますし癖がありそうです。私が休む数時間は、あの魔法使いのご老人とウエノ様に交代してもらいます」


「分かりました」


「私はすぐに運転を始めますが、ウエノ様にお願いがあります。現在の街から100km圏内は超獣モンスターの出没はまれですが、それを超えると出現率は急増します。夜間を徹して移動を続ける予定なので、24時間体制での警戒を行う必要があります。その体制づくりをお願いしたい。ウエノ様が中心となってみんなで決めていただきたい」


「お……俺がですか……。了解です」


 ――みんなをまとめるのか……。初めてで自信がないけど、全てをテワオルデに任せるわけにはいかないしな。


 そんな自信のなさを考慮してかミラクルが励ましてくれる。『マスター! ……きっとマスターならできます。器は無いですが……元気があります! 才能は低いですが……体は健康です! 発言する力やカリスマ性は皆無ですが…………言葉は話せます! 必ず上手くいきますよ……』


 ――それは励ましなのか? それを聞いて俺なら出来そうだ! ってならんだろう。まあいいや、精一杯の応援だと受け止めてなんとかやってみる。


 テワオルデは早速兵機を起動させる。操縦席コックピットの白い壁にぐるっと360度外の映像が映る。兵機が立ち上がったようで視界が少しあがる。

 

 ゆっくりと前進を始めた。まるで人が歩くように上下に揺れながら進む。目に見える機器はないが、テワオルデのBrynkには様々な情報が表示されているのだろう。


 そのうち上下の動きがなくなり速度を加速していく。足に付いているホイールで動いているようだ。速度も時速80kmを超える、周りの景色が流れていく。後ろに見える街が徐々に小さくなり森に入った時には見えなくなった。


 走行は順調そうなので、テワオルデに「あとはよろしくお願いします」と声を掛けてから、会議のためにホールへ向かう。


 意気込んでホールへ行く。まずどんな声をかけてから始めようか、など考えながら向かうと……ホールには誰もいなかった……。出鼻をくじかれた感じがして少しショックを受ける。人がいないとそもそも話し合いなど出来ない……。シャワーの後に会議をすると言ったのに。


 あの魔法使いの2人も後で内容の連絡だけしてくれと言っていたが、やっぱり会議には出て欲しい。


 仕方がない。みんなを呼びに行こうか。


『ファイトです。マスター!』


 ――ありがとう。ミラクルだけが俺の味方だよ。

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