第52話 死闘


 会話中にも、お互い隙はなかった。


「怪我をしたくなければ、こんなことはもうおよしなさい」


 テワオルデが剣をぎゅっと握り、警告する。もちろん、ただで武器を差し出すわけにはいかない。

 

「仕方がない決め技でいっか」

「久しぶりにあれ使うんすか」と言いながら、プリッとした唇をニヤリと上げる。

「モワリンちょバテPりん!」

「よっし、行くかー」

「「ウィーー!」」

 

 語調に似合わず、場の空気が一変する。


「油断してはいけません」


「こいつは、結構ヤバいかもな」と、マリも真剣な顔で言う。


『最大バリアで3発まで耐えられます。その後、おそらく2人を相手にしなければならないので、軌道予測の指示通りに剣を振ってください』ミラクルも指示と警告をする。


 突如として、黒髪ロングの女性の刀が腹を切り裂いてくる。


「見えない」と、思わず呟く。だが、腹は切られていない。最大バリアといは、これのことか。目で見えるほどの強力な電磁バリアが攻撃を防いだ。


 そして、2撃目と3撃目の袈裟斬りを思いっきり喰らう。「くそ!」全く身動きができない。なんて速さだ。バリアのおかげでダメージは受けていないが、あまりの速さに圧倒されてしまう。


『まずいですね。予測以上の速さと斬撃力です。4撃目がなくてよかったですね。もしあったら、死んでいましたよ。最大バリアは使い切りました。これから、死ぬ気で軌道予測に従って動いてください。0.1ミリの誤差でも死にます』


「簡単に言うなよ!」と厳しすぎる指示につい声を出す。


 相手の攻撃に合わせるように、予測軌道が複雑にBrynkデバイス上に出てくる。訓練の成果なのか何とかその動きに合わせ、相手の攻撃を防ぐ。長い黒髪をなびかせながら、目にも留まらぬ速さで攻撃が横から、上からさらに袈裟切りと、あらゆる方向から繰り出さられる。剣先が触れ合うたび、火花が舞い上がり、その中に混じる魔力の光波が飛び散る。さきほどの3連撃の必殺技より威力は無いが、なんとか防いでいる状態だ。


『まだ終わりではありません。これから敵が2人に増えます。集中をさらに高めてください』


「って! マジかよ!」


 その言葉を終えた直後、金髪グラマー美女が突然現れ、こちらに襲いかかってきた。デバイス上の予測軌道がさらに複雑化する。2人の攻撃を真正面から受ける。たまに軌道予測が同時に出てくる。二刀流じゃないんだぞ、とてもじゃないが耐えきれない。


「おい、もういい加減にしてくれ!」と叫ぶも、敵2人の表情は依然として真剣そのままだ。


 周りの状況を把握したいが、目を離す暇はない。時折、マリやテワオルデが戦っている様子が視界に入る。くそ、なんで俺が2人がかりなんだ!


『あと28秒、耐えてください。テワオルデがすぐ助けに来ます。敵はマスターが脆弱に見えるため、最初に仕留めようと2人がかりで攻めているのです』


 なるほどね。納得! こうしている間にも敵の大技が次々と繰り出す。敵も一番弱そうな俺に手間取って焦りの色が見え始める。が、それ以上に俺の体がもたない。


「くっ!」肩を切りつけられた。バリアが弱い。敵2人の顔が勝利の確信で緩む。次の一手で決めようとしている。敵が攻撃を仕掛ける。


 やられる! そう思った瞬間、ミラクルが指示を叫ぶ。


『Brynkの軌道に合わせ、剣を振り、叫んでください!』


 敵2人の胸元に、剣の軌道が横一線として描かれる。これか! バランスを崩しながらも、かろうじて剣は振れる。技名を叫ぶ? まさかあれか?


『プリプリハート・ルーンスライス!!!』と、ミラクルの声が頭に響く。


 それに合わせて俺も……。「ルーンスライス!!!!」

 剣は軌道通りに一ミリの狂いもなく、横一閃に切り裂いた。ミラクルの舌打ちの音が聞こえるが気にしない。


 剣越しでも感じる手応えがあった。力が加わり、敵に衝撃を与えるのが感じられる、気持ちのいいくらいのごわっとした感触。言葉でうまく説明できないが、硬く強い抵抗に打ち勝ちそれを抜けた、力の解放感が心地いい。熱源刀の力か、技の特徴か、横一線に切り込んだ後を追うように、七色の幻想的な光の波動が周囲の空間を揺らす。


 敵2人の繰り出す技とタイミングを合わせたのが、さらに効果を発揮した。「ちっ!」と舌打ちをし、後ずさる。ダメージは受けていないようだが、予想外の反撃と衝撃だったのだろう。攻撃が止んだ。


「やるな、お前!」

「こんなタイミングで技なんて超つよじゃん。ちょーとアガってくるんじゃね」


 そう言って、2人はさらにスピードを上げて襲いかかってくる。Brynkの軌道予測がより複雑に絡み合う。こんなの防ぎきれるはずがない。敵も必死の形相だ。こちらのBrynkの性能を理解して、予測演算を狂わせるように複雑な動きをしている。2人は交差するように飛びかかってきた。


 3度の攻撃をかわし、その間に2回、剣に剣をぶつけて防ぐ。しかし、金髪の美女が放ったであろう必殺技に、剣が弾かれる。まずい!


 その隙を突かれ、2人の剣と刀が同時に迫る。これは、終わりだ。と覚悟を決めながらも後ろにって、身をかわそうとした。

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